神衣(かむい)の巫女 ~神の呪いから妹を救うために、神の衣をまとい戦う巫女に私はなります~

まるやま

第1話 ①

 朝、私、朝日照子(あさひ てるこ)は家族の中で1番早く目覚める。


 いちばん早く起きるのは、朝ごはんを作るのは私だからだ。

 朝ごはんの準備が終わると、今年で小学5年生になる妹、ひなたを起こしにいく。


「ひなた、朝だよ。起きて」


「おはよう、お姉ちゃん」


 私の声に少し寝ぼけた声で妹のひなたが答えてくる。

 私はそんな妹をほほえみながら、朝食の準備に入った。


 朝ごはんができたら、私達、姉妹2人だけの家で、朝ごはんを食べる。


「ごはん、食べ終わったら、早めに畑仕事終わらせちゃおうか」


「そうだね」


 朝の畑仕事が終わったら、ひなたは小学校に、私は高校に向かう。


 私は将来どうなりたいのか、何をやりたいのかもまだ決められずにいた。


 ただ今は妹を守ることだけを考えていたい。


 お父さん、お母さん、どんなことがあっても妹のひなたは守ってみせるよ。


 私たち2人だけなのは寂しいけど。


 わたしたちは生きていきます。


 このときの私は、まだこんな生活が続くと思っていた。

 あんなことが起こるまでは。




■■■




 それが起こったのは、2015年8月15日のことだった。


 その日はめまいがするほどの日差しが強く照りつける暑い夏の日。


 村の夏祭りの日だったことを覚えている。


 さらに、私の妹が夏祭りの巫女役をすることになっていた。


 午前中に家の仕事が終わった後、夏祭りの準備のため、わたしたちは夏祭りが行われる神社に向かっていた。


 時間は、ちょうどお昼の15時ぐらいだったと思う。


 私たち、姉妹が歩いていると、前から私と同世代ぐらいの制服を着た女の子が歩いてきた。


 その女の子は私よりも少し背が高い、体型は細身、腰まで届くほどの流れる長い黒髪をしている。


 とくにガラス細工のように透明感のある瑠璃色(るりいろ)の瞳が印象的だ。


 彼女を見て、私の心は1つの言葉で奪われる。




『きれい』




 同性の私でも見惚れるほどで、誰もが見惚れてしまうだろう。

 私たちが住んでいるこの村で、こんなきれいな女の子見たことない。


 私がつい感激に浸っていると、さっきの女の子を見失ってしまう。

 彼女は私たちの前をもう通り過ぎてしまったのだろう。


「あのすみません、ちょっといいですか?」


 突然、声をかけられて私は振り返る。


 そこには、さっきの女の子が立っていた。

 どうしたんだろう。


「どうかしましたか?」

 私は彼女の問いかけに答える。


「実は道に迷っていて、この村の山奥に祠(ほこら)があると聞いて来たんですけど、詳しい場所が分からないんです。その祠を知っていますか?」


「山奥に祠? どこだったかな?」

 私は彼女の言葉を聞いて、少し考える。


「うん、そうだ、そうだ、思い出した。ああ、たしか、神社の山よりも奥にあった祠だったよな」


「知っているんですか?」

 女の子は私の顔を覗き込みながら、聞いてくる。


「はい。私、昔、その祠に行ったこともあるので、祠の行き方も知ってますよ」


「そうなんですか」


「ただ初めての人が行くには、ちょっと分かりにくい場所にあるんですよね」


「そうですか」

 彼女は少し困ったような表情を浮かべた。


 彼女の表情を見たとき、私はいてもたってもいられない気持ちになった。


「大丈夫!! 私が案内してあげます」

 私は彼女の顔をまっすぐ見つめて、そう言う。


「えっ!? お姉ちゃん、祭りの準備はどうするの?」

 ひなたが私の言葉を聞いて驚く。


「ごめん、ひなた、先に行ってて。なんだか困ってそうだし、ほっとけないよ」


「もー、お姉ちゃん、いっつも、そうなんだから」


 私の顔を見るひなたの表情には少しアキれながら、でも、それでこそお姉ちゃんという、うれしそうな納得感があった。


「でも、まあ、いいよ。それにお姉ちゃん、こんな美人なお姉さんとお話したいみたいだし」


「ちょっと、ひなた!!」


「ふふふ」

 私たちの会話を聞いて女の子が笑っていた。


「あ、ごめんなさい。2人のやり取りを見てると、なんだかいいなと思っちゃいまして。すごく仲が良いんですね」


「はい、自慢のお姉ちゃんです」


「もう、ひなたったら…」

 ひなたの元気な返答に私は恥ずかしくて下を向いてしまう。


「あ、お姉ちゃん、照れてる」


 もう、ひなたはすぐに調子にのって。

 調子にのると、いつものように私をからかうのだ。

 でも、まあ、そういう元気なところはひなたのいいところなんだけど。


「そうそう申し遅れちゃったけど、私の名前は月白葵(つきしろ あおい)。あなたたちの名前を教えてもらっていいですか?」


「私の名前は照子、朝日照子。この子は妹のひなた」


「よろしくお願いします。葵さん」

 ひなたが月白さんにお辞儀をする。


「あ、葵さん、お姉ちゃん、すごく優しいから困ったことがあったら何でも言ってね」

 ひなたはすぐさま月白さんの耳元に近づき、私に内緒で何やらささやいていた。


「そうなんだ。ふふ、ねぇ、ひなたちゃん。あなたのお姉さん好き?」


「うん大好き!!」

 月白さんの言葉にひなたは嬉しそうに答える。


「そっかぁ、それは良かった。じゃあー、ひなたちゃんのお言葉に甘えて、あなたのお姉さんにお世話になるね」


「エヘヘ、もうそろそろ、遅れるとまずいから、先に行ってるね」


「うん、いってらっしゃい。気をつけて行くんだよ」


「はーい」

 ひなたは、かけ足に祭り会場に向かうのであった。


「ふふふ、あなたの妹さん、元気そうな子だね」


「まあ、少し生意気なところはあるけど、でも私のかわいい妹だよ」


「ああ、そうだった。ごめんなさい、なんだか忙しい時に呼び止めてしまって、妹さんにも迷惑になってしまったし」


「うんうん、大丈夫。私、人助けが好きなの。まあ、でも妹のひなたには困らせちゃってるけど、それはお互い様ってことで」


 ふと、私は我に返る。


 つい、月白さんと話すぎてしまった。

 早く祠に案内してあげないと。


 そう思って、私は月白さんに声をかける。


「月白さん、立ち話もなんだし、祠に向かいましょうか」


「そうですね。案内お願いします」


 こうして、私たちは祠に向かうのだった。

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