第55話 配信者サバイバル! (3) ボス討伐 前編
ボスのいる下層までの階段は灼熱だった。まるで火山の火口を歩いているような体の中から沸騰しそうな温度だ。
それもそのはず、この先にいるとされるレッドドラゴンは紅蓮のドラゴンである。さすがは配信者サバイバルのボスに選ばれるだけあって、かっこいい真っ赤な鱗に西洋型のドラゴンは圧巻だろう。
(まぁ、俺が倒せば秒なんですけどね)
「そういえば、さっきの人知り合い?」
「あぁ、うん。昔の同級生。俺のこと嫌ってたというか……その」
千尋は何かを察したように頷くと
「そっか、残念だったね」
と言った。これは配信されているからか、それとも千尋の慈悲深さからかはわからないが、彼女は本当に優しい子だと思った。自分達を殺そうとした相手だぞ?
死んで当然じゃないか。
「さて……おでましだ……ぞ?」
俺は配信向けに格好つけたつもりが目に飛び込んできたレッドドラゴンは両目の潰れた古い個体だった。
心眼のレッドドラゴン Lv 99999
固有スキル:心眼、灼熱の息吹、灼熱の隕石
その他スキル:火炎系(全般)ドラゴン系(全般)、斬撃、体力増強、超音波、地獄耳、神通力、幻惑、魔法(全般)、治癒系魔法(全般)、めいそう治癒、復活、復元、透明化、無音化、補助系魔法(全般)
なんだこいつは……。二つ名なんて初めて見たぞ……。真空斬撃を手に入れたこいつの上位種スカイドラゴンよりこれは……強い?!
——弱点:なし
心眼のレッドドラゴンが大きく口を広げた。両目がないのにまるでこちらが見えてるように……。
その瞬間、俺の脳裏には直後の一撃で満身創痍になる俺と消し炭になる千尋が見えた。
「千尋! 逃げろ!」
千尋も同じ光景を見たのだろう。彼女は瞬間移動で中層への階段のほうへ消えるとバリアを展開する。
俺はやつの「灼熱の息吹」を氷魔法で相殺しながら、土魔法を展開して地面へと潜った。
ドーンドーンとやつが俺のいる真上を踏みつけ揺れる。弱点なしのモンスター、しかも数多くの冒険者を食ったためチート級のスキル数だ。治癒魔法や復活スキルがあるから一撃で決めないといけない。
——でも、どこを攻撃すればいいんだ?
二つ名つきのモンスター。
これまで聞いたこともない。そもそも検知スキルを持っているのが俺だけだから他の人には知りようがないのか……。
でも、やらなきゃしょうがない。
こうなったら……ゴリ押しだ。
俺は土の中から飛び出すと、まずは心眼のレッドドラゴンの首を落としてみた。しかし、にょきにょきと新しい首が生える。
じゃあ尻尾か?
ワンチャン、悪狐であることを願って尻尾を切ってみたがこれもまた同じ。
それどころか、部位を切れば切るほどやつの強さが増しているように思えた。翼も、腕も、腹も……10センチ角に切り刻んでも奴はものの見事に復活して見せる。
「くっそ……不死身かよ」
今度は氷漬けにしてバラバラにしてみても、奴はドロドロに溶けたかと思ったらぐじゅぐしゅと音を立てて元の姿に復活する。
「ナツキくん!」
千尋が戻ってくると俺の隣に立って魔力付与のサポートをしてくれる。千尋は階段から俺の長い戦いを見ていたのか「どうしたらいいんだろうね」と耳元で言った。
ドラゴンが咆哮し、俺たちは飛び上がる。やつの溶岩攻撃を避けながら千尋が幻惑魔法をかける。
しかし、やつは何事もなかったかのように俺に狙いを定めていた。
「目は? 心眼……でしょ?」
「目はもう何度もやったさ」
「でも……絶対に何かあるはず……」
大暴れする心眼のレッドドラゴンの攻撃をかわしながら俺はスマホを手に取った。スマホには配信画面、同時接続者は異例の1500万人。
「すまん! こいつの倒し方……お前らなんでもいいからアドバイスくれ!」
俺はそういうとスマホを千尋に渡し「手あたり次第コメント拾って読んでくれ!」
と叫んで心眼のレッドドラゴンへ向かい合った。
「阿修羅様みたいに落とした首を攻撃させる!」
千尋の声を聞いた俺はその通りに行動する。しかし、心眼のレッドドラゴンは自らの首をバチンと大きな尻尾で潰しても全く死ぬ様子はない。
「妖精女王みたいに心で通じ合う!」
「すまん! こいつ話が通じない!」
俺は間一発で奴の牙を避けて返答する。
「えっと……えっと、より強い炎で焼く!」
俺は最高火力の炎魔法でやつを消し炭にしたが、まるでフェニックスのように奴は灰の中から生まれ変わる。
「頭の上の炎を消す!」
俺はやつの上空に飛び上がると水魔法で水をかけてみる。しかし、そんなこともろともせずに奴は俺に向かって火球を飛ばす。
「くそっ!」
弱点なし……。復活スキル持ち。その上、こいつは言葉を話さない。となればどうやって倒せばいいんだ!
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