第54話 配信者サバイバル!(2)ダンジョン攻略 編



 配信者サバイバルの会場は「レッドドラゴン」という最強種のドラゴンが住まうダンジョンである。

 ちなみに俺はレッドドラゴンの上位種を何種類か攻略したことはあった。この番組の前作をみるにモンスターの強さというよりは攻略の速さや冒険者同士の妨害が主に楽しまれているようだった。


 入り口に集まったのは俺たち、タクマヒカル、鬼頭にくわえて一般の参加者3名だった。


「では、まずは一般参加者の方、スタートしてください。ハンデとして招待参加者のみなさんはフォロワー順に入っていただきます」


 俺と千尋は顔を見合わせる。

 フォロワー順でいえば俺たちが圧倒的に上、つまりは最後に出発というわけだ。一般参加者が出発して10分、まずは鬼頭が出発した。

 その5分後、タクマヒカルが、俺たちはそのまた5分後だった。


「千尋、気をつけろ。モンスターは大したことないが……問題は参加者だ」


 上層に足を踏み入れると、ドラゴンがボスのダンジョンらしく爬虫類のモンスターたちがうようよしていた。

 先に通った冒険者たちに殺されたモンスターの死骸を食っていたり、俺たちに飛びかかってきたり、俺も千尋も簡単な魔法や剣術でモンスターを薙ぎ払っていく。


「千尋、この階層には俺たちしかいないようだ」


「そっか、急がないとね」


「11時の方向、中層への階段だ」


 俺たちは瞬間移動をして階段の前に行くと、駆け足で中層へと向かう。



 中層ではあちらこちらで戦闘が繰り広げられていた。上層にいた爬虫類系のモンスターとは違って小型のドラゴンや恐竜型のでかいモンスターが参加者に襲いかかっている。


 一般の参加者の1人はウィングドラゴンに連れ去られ、上空で八つ裂きにされていたし、おそらく恐竜に食われたのか衣服だけ残っている場面にも出会った。


「千尋……気をつけろ!」


 すんでのところでタイガーレックスのパンチ攻撃をかわし、俺が剣で首を落とした。そのままの勢いで後ろにいた恐竜たちも何体か薙ぎ倒す。

 千尋も後ろの方で魔法を展開し、上空のドラゴンたちを消し炭にしていた。


<スキル:検知>

<妨害により反応できません>

<妨害により検知できません>


(くそっ……あの野郎)


「千尋、気をつけろ。まだこの層に冒険者がいる」


「ナツキくん! 下層への階段はどこ?! 早く飛んじゃおう」


「悪い……妨害されて検知できん!」


「うそ……ちょっと! きゃ!」


 千尋の悲鳴に振り返ると一頭のでかいウィングドラゴンが大岩を落とし、完全に俺と千尋を分断した。

 

「なによ! アンタたち!」


 千尋が大声を上げると大岩の向こうで派手な戦闘音が聞こえる。俺はそっちに瞬間移動しようとするも、ヤツの声に体が固まってしまう。


「よぉ、大野」


「鬼頭……」


「かわい子ちゃんとはなれて寂しいか?」


「俺は参加者同士で戦う気はない」


「スキル……吸収」


 鬼頭がそういうと俺の検知スキルが作動しなくなる。いや、作動しないんじゃない……なくなっている。


「ははは! やっぱすげ〜わ。このスキル。欲しかったんだよなぁ。だってさ、大野のものなんて俺のものじゃんか? ガキの時からずっとお前はおれのパシリだったんだし、当然だよなぁ?」


 鬼頭は俺を眺めながらニヤニヤする。検知スキルを使用して俺を品定めでもしているんだろう。


「へぇ、お前っていろんなスキル持ってるんだな」


「だからなんだよ」


「大野のくせに、でも俺に寄越せよ……それ」


 と鬼頭は吸収スキルを展開した。が、彼の元にスキルの力は付与されない。眉間に皺を寄せ、やつは両刃の剣で俺に襲いかかってくる。


「2度目には引っかからないぞ」


「うるさい! その真空斬撃も魔法全般もよこせ!」


 まるで止まっているように遅いやつの攻撃を俺はなめプで交わしながら出方を伺う。


——あぁ、こいつってこんなに弱かったんだ。


 俺は学生時代、絶対に敵わなかった男を目の前にトラウマを思い出し震えていた。たったさっきまで。

 けれど、今はどうだろうか。

 鬼頭の動きはまるで止まっているように遅いし、検知スキルがあるのにも関わらず全く役に立っていない。

 俺の弱点が見えてるんだろ? なら、弱点を攻撃しろよ。


「大野! 生意気なんだよ! 死ね!」


 鬼頭が振り上げた剣を俺は素手で受け止めて簡単に弾き返した。その反動で彼は尻餅をつく。


「なんで……他のスキルが吸収できないんだよ!」


「お前、検知スキルもってんだろ? 使えよ」


 俺は<吸収無効>のスキルを展開しているだけだ。さっきは不意打ちだったせいで固有スキルを吸い取られたが別に検知のスキルは初めてのダンジョン以外ではあんまり役に立たない。

 知ってるわけだし。


「くそ……お前みたいなインキャには不釣り合いなんだよ! 真空斬撃をよこせ!」


「別に……やってもいいけど……お前死ぬぞ」


「は? お前バカなの? なんで俺がお前のスキル吸って死ぬんだよ」


「いやだから」


「よこせ」


 俺は呆れながらも頷いた。だって俺にはから。俺が吸収無効を一瞬だけ解くと鬼頭は<真空斬撃>を吸収したのかニマニマと笑う。


「大野……死ね!」


 やつの真空斬撃が俺に向かって飛んでくる。俺は当然の如くそれを飛び退いて避ける。すると、俺の後ろにあった大岩が真っ二つに割れて、崩れた。


「千尋! 避けろ!」


「ちょっと、ポ○モンみたいに言わないでよ!」


 千尋の元気な声が響いて俺はほっと安心する。大岩の向こうでは千尋とタクマヒカルがやりあっていたらしい。当然の如く、タクマヒカルはKOされてダンジョンの床に突っ伏していた。


「お前強いな……」


「ふふふ、幻惑使いを舐めるんじゃないわよ。ちょっと幻惑を見せてやり合わせただけ」


「悪魔か……」


「でも気絶してるだけ。それにモンスターにやられないようにバリアもつけてあげてるし、で……ナツキくんは?」


「死ね! 大野!」


 俺と千尋めがけて剣を振り回しながら突撃してくる、真空斬撃を乱れ打ちしながらだ。真空斬撃の展開中は剣が鈍く光るのでわかりやすい。やつの剣の動きは大雑把で鈍いからわかりやすい。


「何あれ! ナツキくんのじゃん!」


「とられた」


「鼻くそほじりながら言わない!」


 千尋はバリアを展開して跳び上がり、俺は鬼頭のはるか後方へ瞬間移動する。鬼頭は背後に移動した俺を見つけてぐるっと振り返った。

 


「大野……ぶざまだな……あ? ぐが? あぁぁ?」


 鬼頭自身の真空斬撃が彼の体を切り裂いた。真空斬撃は刃に宿っている間はどんな動きでも空気を切り裂いてしまう厄介なスキルなのだ。

 だから、細かくスキルの展開を止めないと自分自身へ斬撃が飛んでしまうことがある。

 あんなふうに……振り返る時もしも真空斬撃を展開したままなら……自分自身を切り裂くことになる。特に、あんな両刃の剣は絶対にこのスキルには向かない。


(未来予知のスキルでこうなることが見えていたから……あえてスキルを吸収させたんだがな……お前はそうやって人から奪ったもので死んだ。いいざまだ。さようなら、俺の過去)


「千尋、こいつにとられてたスキル戻ったわ。階段は15時の方向」


「あいあいさ〜」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る