第49話 絶対に死ぬ村(5) ボス討伐編


「うわっ……」


 不快な「プーン」という羽音、フロアには無数の蚊柱。そして、中央には象よりも大きな「蚊」がこちらを睨んでいる。検知スキルをかけた俺には見えているが、配信上は映っていないようでコメントが盛り上がっているのが見えた。


<ボスも虫?>

<蚊柱があるのは見える>

<中央にぽっかりあいてるけどそこにいんの?>

<ナツキには見えてる>

<説明はよ>



ヘビーモスキート Lv 999

固有スキル:吸血

その他スキル:切り裂く羽、風魔法(全般)、透明化、無音

弱点:炎、氷、打撃、神経毒

特殊状態:使い魔


「なるほどな……」


 普通のヘビーモスキートなら大体の冒険者なら倒したことがあるようないわゆる雑魚モンスターだ。弱い上にドロップするスキルも吸血なんていう使い物にならない能力だし、魔法が使えれば倒せるからだ。


「でも……こいつは違う」


「スキル:イカ墨!」


 面白系スキル! 海洋系のダンジョンクラーゴンからドロップしたはずれスキルのこれは前方に真っ黒い墨を撒き散らす。あと、しぬほど魚臭い。そして、これをやるとコメントは盛り上がる。


 イカ墨がかけられたヘビーモスキートの巨体が浮かび上がる。コメントはきっと持ち上がっていることだろう。

 こいつに血を吸われると、メグミが見たように「ミイラのような死体」が出来上がる。これだけ巨体な蚊が吸うのは血だけではなく人間の水分全て……一瞬にしてからっからになってしまうだろう。


(だが……こいつをテイムしている冒険者はどこだ?)


 検知スキルをかけても、かけてもどこにも冒険者らしき生命反応はなかった。


(まさか、自分の使い魔を捨てて逃げた……?)


(いや、そもそもボスモンスターをテイム状態にしておいて、自分は村へ帰っているとかか……?)


「絶対に冒険者が死ぬダンジョンの正体は無音・透明化のスキルを持ったヘビーモスキートでした。俺の検知スキルがなければ見破ることもできずに殺される……! この勝負、俺の勝ちだ!」


 俺は剣を取り出すと火の魔法を剣心に灯し、燃えたぎる魔法剣を生み出した。炎の熱を避けるように蚊柱たちが散り散りになる。

 上の階層では冷凍、この階層では煉獄。なんて厨二病っぽい感じが元俺のリスナーに刺さりそうだ。


「じゃあ、さようなら。絶対に冒険者が死ぬダンジョン」


 俺は透明化しているつもりのヘビーモスキートの方へ一気に駆け出すと、やつの体を一刀両断。まさにアジの開きのように真っ二つにしたのだった。

 切られた断面は炎の熱で焼け焦げてやつの腹にためこまれた人間の体液は流れ出ない。

 いや、流れ出たらBANになるんで仕方なくこうしたのだけど。


「みなさん、絶対に冒険者が死ぬダンジョン。攻略しました」


 スマホを取り出して、配信を確認するとコメントが盛り上がりすぎて終えない。投げ銭も止まらず礼を言い切れなかった。


「じゃ、次の配信まで」


 プツッ。

 久しぶりに俺として配信ができたような気がする。ダンジョン攻略中のコメント読みやリクエストに答えるやり方、そして何よりもダイレクトに褒めてもらえることがなによりも嬉しかった。


——俺、戻ってきたんだ。


 そう強く実感できた。




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