7章 絶対に死ぬ村 編

第45話 絶対に死ぬ村 (1)


「そりゃ自業自得だぜ?」

「だってぇ〜、っていうかナツキくんはいつヤったの?」

「そりゃ、合間合間でサクッと」


 千尋は新しく借りた都内の2LDKのそこそこ広いマンションの大きなリビングに転がった。ローテーブルには彼女がやり散らかした残骸があちらこちら。

「うそだ〜! だって、ずっと忙しかったじゃん」

「忙しかったけど、合間合間で時間はあったろうが」


「えーん、うつさせて?」

「ダメ」

「え〜いじわる!」

「いじわるで結構」

「じゃあ、テイムできるモンスターを探しに行く約束は……?」

「そりゃ、千尋がダンジョンに行けないんだから延期だな」

「え〜! もふもふのフィアリーウルフとかバタフライキャットは?」

「とりあえず、そこの課題とテストの点数改善してからだな」


 千尋は予想以上に頭が悪いらしい。なんでも中学まではお勉強が得意だったらしいが、高校生になってからは店を手伝うことも多かったし何よりも家の方針で「女は勉強なんてしなくてよい」と洗脳されていたのだという。

 ま、半分本当で半分言い訳だろうがルートの計算くらいできないと高卒認定は取れないんじゃないか? 割とマジで。

 俺は中学生の時にいじめを受けていて、友達が少なかったから勉強に逃げた時期があった。ダンジョンに入る少し前のことだ。そのせいなのか、本来から要領が良いのかはわからないが、一般的な勉強ならできる。

 先生の目もないし、テキストも見放題、ネットも使い放題なのに課題をためる意味がわからない。


「それに、颯太たちの村から帰ってきて1ヶ月近く、俺たちはスキルガチャ配信くらいしてかしてないだろ? 一体何したんだ。どうせ東京のいろんなもんにマヨかけて食ってたんだろ」

「ふふふ、やっぱり東京ってすごいよね! ウーバーフードでなんでも届くし、ちょっと歩けば美味しいお店がいっぱい。あ〜、早く大人になりたいなぁ」

「まずは勉強な」

「えーん、ナツキくんのいじわる!」



——ポロンピロン、ポロンピロン


「あ、マリコさんからだ」

 千尋はスマホを当たり前のようにスピーカーにして応答する。


「もしもし、2人ともいる?」

 経堂刑事と話すのも久々だな。

「はい、あ、そうだ。ヒナノさんに色々ご協力いただいて……」

 そう、この部屋に住めるのも経堂刑事の姉妹で弁護士の経堂ヒナノさんのおかげなのだ。ダンジョン配信者で高校生、しかも俺の親は海外在住。あの人本当にサクッと保証人のハンコ押した上に不動産会社にまで一緒にきて圧かけるもんだから、本当にスムーズだった、恐るべき、弁護士バッチ。

「いいのいいの。気にしないで。あの人も大野くんたちのおかげでかなり儲かってるみたいだし……恩返しだと思って」

 マリコさんが電話をかけてくるということは……だ。


「あの何か?」

「大野くんったら察しがいいわね。以前話した絶対に冒険者が死ぬダンジョン。潜入してくれないかな」

「俺に死んでほしいんですか」

「も〜、あなたなら絶対に死なないと思ってるからお願いしてるの。実はね、最近またダンジョン配信者が挑戦して死亡したの。でも、ダンジョン内での死亡については冒険者の自己責任だから警察は動けない」

 確かに、ダンジョンは危険区域に指定され、その中では基本的に自己責任だ。ただし、経堂刑事たちは「ダンジョンを利用した犯罪」を取り締まっているわけで……。彼女がこうして依頼をしてくるということは、そのダンジョンの周りに「冒険者を殺している」人間がいるかもしれない。今まで俺が出会ってきた数々のダンジョン犯罪と同じように……。

「場所は?」

「北海道。日付が決まったら飛行機手配するけどどうかしら」

「あぁ、そしたら旅行がてら俺1人でいきますよ」

 千尋が目をまん丸にする。

「え? 千尋ちゃんは? もしかして怪我……?」


「いいえ、彼女は学生の本分を怠っているので」



 経堂刑事から詳細を聞き、俺たちは彼女に挨拶をして電話を切った。ぶーたれる千尋だったが、最近マンネリ化しているチャンネル運営に「ナツキ単独企画」を入れる案は上がっていたし、無理やり納得したようだった。

「でも、撮影者はどうするの?」

「ま、楽しみにしてろって」

「え〜、やっぱナツキくんだけずるいよ」

「課題終わったら、追っかけてくればいいじゃんか。それまでに俺がダンジョン攻略してなければだけどな……!」





 

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