間章 正義のアマミヤ 没落編
第34話 正義のアマミヤ 没落編(1)
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「この度は、申し訳ございませんでした」
「はじめに、この動画は収益化していません」
「僕の言動で傷つけてしまったナツキダンジョン様、それからそれを発端としてご迷惑をかけたご両親やご近所の皆様、申し訳ございませんでした」
「事実確認をせず、僕も騙されていたとはいえ、事を大きくしたのは全て僕の責任です。無期限で活動を休止させていただきます」
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正義のアマミヤの過去動画のすべてが非公開となり、この謝罪動画一本だけが公開されている。坊主にして泣き腫らした目をしている正義のアマミヤに同情する声も多かった。
「こんなの絶対嘘だよ」
千尋が朝食の高級ベーコンにぶしゅーっとマヨネーズをかけながら言った。取材ラッシュも終わり、俺と千尋はあたらなるダンジョン配信企画を決めるべく、高級ホテルでリラックス中だ。
本来なら「フユくんはナツキダンジョンのナツキである」という表明動画を公開しようとしていたのだが、正義のアマミヤがあの謝罪動画を出したこともあってこちらの動画公開をステイしていた。
「嘘だろうなぁ……そもそも、活動自粛で済むと思ってるのがやばいし、俺自身にはなんのコンタクトもとってきてないのもやばい」
彼は自分の視聴者に同情してもらうためだけにあの動画を上げたのだ。動画配信者にとって髪を坊主にするのなんてなんて事ないし、動画を非公開にしようが無期限活動休止にしようがそこまで影響はない。
むしろ、ほとんど毎日配信をしていた彼にとってはいいリフレッシュになっただけだろう。
「私、なんかすっきりしないなぁ〜」
「うーん、俺は正面対決するより弁護士探そうかなって」
千尋はむすっとすると納得いかない様子でコツコツと机を叩いた。
「あぁいう証拠もなしで拡散するような奴がいるからこういうことが起こったんじゃない?」
「ま、俺たちがヤンなくてもあいつはそのうち火だるまになるぞ」
「へ?」
「見てろって」
***
「経堂ヒナノです」
目の前にいる女性はおとなしそうな見た目、スーツ姿が印象的な美人で俺たちのよく見る顔だった。
「マリコさん、双子だったの!?」
経堂ヒナノさんは、あの経堂マリコ刑事の双子の姉だそうだ。ヒナノさんはそれはそれはやりての弁護士で今回、俺がアマミヤを訴える手伝いをしてくれる。俺が弁護士を紹介してほしいと経堂刑事にお願いした時に彼女がドヤ顔をしていたわけだ。
「ふふふ、妹がお世話になっているみたいで……。それじゃあお話を伺いましょうか」
ヒナノさんと俺たちはどんなふうにアマミヤから搾り取る……ではなくかなりの高い金をふっかけた上で和解条件としてチャンネルの放棄と直接謝罪を提示し、あの忌々しいチャンネルを封鎖することが真の目的だ。
難しいことはよくわからないが、アマミヤの数々の発言や行動は刑事罰になりうるとのことだった。名誉毀損だけではなく、視聴者に「犯罪者を殺せ」などといった魚拓などが豊富に残っていたのだ。
「じゃあ、ナツキくんの目的は正義のアマミヤに一泡吹かせることなのね」
「えぇ、少なくともあんな謝罪では許すつもりはありませんし」
「そうよね。ちゃんと公の場に出て裁判で裁かれるのが一番だわ。ふふふ、お姉さんに任せなさい」
大丈夫なのか……? と思うほどヒナノさんは余裕の表情だ。
「あのね、こういうインフルエンサーっていうのは意外と……さ、あとはお楽しみに。前払いのお金はここにお願いね。私の読みだとすぐに返事が返ってきて和解の話し合いになるはずよ」
経堂刑事から聞いて事前に色々と調べていたんだろうがヒナノさんはやっぱり何か俺の知らない事を知っているようだ。敏腕だとは聞いていたが本当に絶対に敵には回したくない……コワイ。
ヒナノさんが出ていくと千尋はやっぱり納得いかない様子で口を尖らせている。
「ねぇ、ナツキくん」
「どうした?」
「私は私でアマミヤに関して動いてもいいかな?」
「いいけど……あぁいうモラルもなにもないような相手にやり返しても虚しくなるだけだぞ。それに千尋は関係ないだろ? いやな思いすることないと思うぜ」
アマミヤは美咲とは違って非冒険者だしな。正当に法律で裁かれて落ちぶれていくのが俺にとっての復讐になるのだから。
千尋はなにやら準備をすると部屋を出て行ってしまった。俺のことなんだしそんなにムキになることないのに。
千尋も変わった奴だな……。
「温泉にでも浸かるかなぁ〜」
俺はすっきりした気持ちでもう少し休暇を楽しむことにした。
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