5章 暴露女 成敗編

第28話 暴露女(1)DM編


「うへぇ〜、極楽極楽〜」

 千尋は可愛い花柄のビキニ姿でぽけーっと中を眺めている。俺も同じく海パンで露天に浸かっていた。貸切だとこれができると学んだ俺たちはゆっくりと風呂に浸かりながら作戦会議中だ。


「美咲グラムのDM、ほんっとありえないよね」

「あぁ、さすがは暴露女だわ」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 千尋ちゃんへ

 帰れない企画の配信すごかったです!

 レアドロップもすごかったなぁ〜、実は私、とっても欲しいスキルがあって……よかったらフユくんを貸してくれませんか?

 もしくはコラボという形で貸してくれてもいいです。

 でも、私のブランディング的にダンジョン配信はしたくないのでその辺はよろしくお願いします。

 美咲グラムより

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 ちゃぽん、と千尋が鼻の下までお湯に浸かるとぷくぷくと息を吐いた。水着を着ているとはいえこれって混浴だよな……? まずい、変に意識をしてしまいそうだ。

 俺は千尋から目を逸らしつつ本題に戻る。

「でも、あんだけ閲覧が出た帰れない系配信をせずにスキル結晶が欲しいって意味不明じゃないか?」

「それ、私もそう思った。ウソ暴露までして成り上がった人がみすみす視聴者を増やす機会を棒に振るなんて変よねぇ」

 

 俺はスマホで美咲グラムのSNSを開く。今時のJKインフルエンサーといったキラキラした感じの写真がたくさんある。初心者ダンジョンに入ってキャーキャーいう様な配信からメイク紹介動画まで人気のコンテンツがずらり。

 俺はあったこともないが写真に写っている彼女はすごく純粋そうな美人で可愛らしい女の子だ。歳は俺よりも一つ年下であどけなさと大人っぽさが同居しているような不思議な子だ。

 ただ、そんな清純そうな仮面の下にはとんでもない自己承認欲求と他人を蹴落としても自分が上に上がれればいいという野心が秘められている。

 あ〜、女って怖いな。まじで。


「確かに、あ〜でもなんかお察し案件かもよ。これ」

「お察しって?」

「まぁ、コンタクトとってみればわかるって」

「じゃあ、今夜DM返してみる。そうだ、夏樹くん。マリコさんからも連絡が来てたんだよね。なんか、相談したいことがあるんだってさ」

「マリコさんって……」

「あぁ、経堂刑事。ほら、阿修羅様の配信見たらしくてさ。また協力して欲しいんだって」

 俺としては、うさんくさい暴露女の方を優先したいところだが……。千尋は経堂刑事の方も気になるらしい。

 経堂さんの方の相談はいつもなんかボヤッと重い感じだし、俺としてはスキルガチャ配信でガンガン登録者を増やしていきたいところなんだがなぁ。個人的に恨みのある美咲グラムこと暴露女には復讐してやりたい気分だが。


「あっ、ナツキくん。そろそろご飯の時間だしお先に出るね! 着替え終わったら声かけるからそれまで待っててよね〜」

「はいはい、了解」



***



「おい、千尋。まじで台無しだからやめろって」

 千尋は運ばれてきた釜飯御前にマヨネーズをたっぷりとかける。

「いいじゃない、美味しいんだもの」

「太るぞ」

「あっ、ひどーい!!」

 こっちはせっかくの高級釜飯御前を目の前で台無しにされてうまさも半減してるんだぞ」


——ピロン


「あっ、美咲グラムから返信だ」

「おっ」

 俺は箸を一旦置いて身を乗り出した。千尋が「うわ〜」とDMの内容をみてドン引きしながら俺によこしてくる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 千尋ちゃんへ

 お返事ありがとうございます。

 実は、欲しいスキルがあるんだけど、あまりダンジョン配信に向かないモンスターなんだ。

 でも、千尋ちゃんも女の子だったら絶対ほしいレアスキルだから……で、フユくんはどう? きてくれそう? フユくんに千尋ちゃんが渡すギャラの倍は出すって約束する。なんだったら千尋ちゃんは汚いダンジョンに入らなくていいよ。フユくんを貸してくれたら……。

 待ち合わせは下記で私はここにいるから着いたらDMしてね

 青森県XX郡XX

 美咲グラムより

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「やっぱり、私がフユくんをお金でどうにかしてるって思ってるんだね」

「いや、傭兵ってそういう意味だしな」

「私ってそんなに金の亡者みたいに見える?」

「まぁ、配信者は儲かるし、この前の帰れません配信もスパチャエグかったじゃんか。そう思われても当然だと思うぜ」

 むっと膨れた千尋にスマホを返して、俺はほかほかの釜飯をほおばる。美味い、きのことたけのこ、醤油の焦げた香りと追っかけでいれたバターが最高にマッチしている。

「どうする?」

「どうするって、これ行ってどうすんだ……? お察し案件だったろ。フユくんをナツキと同じ様にハメてまた売名する目的だろうが」

 千尋がにんまりと笑って人差し指を降った。

「ナツキくん。あっちがそう出るならこっちだって暴露してやればいいのよ。あのナツキダンジョンを大炎上させた美咲グラムの告発が偽物だった。そうわかれば、ナツキくんの疑いも自然と晴れる。これはすごいチャンスよ」

 目には目を歯に歯を……ってか。確かに、美咲グラムがフユくんを落とし入れる様をすべて録画しておけば……

「いや、俺はあいつとダンジョンになんか入ったことないぞ?」

「え、そうなの?」

「あぁ、だから俺の時とはなんかパターンが違う様な……? ほら、俺の時は多分演者かなんかを雇ったんだと思うけど、今回は本人を呼び出してるわけだろ?」

「で、でも……胡散臭いのは確かじゃない?」

「千尋お前……」

 俺はじっと千尋を見つめる。

「な、なによぉ」

「面白がってるだろ」

「ち、ちがうもんっ。ナツキくんは悔しくないの? 濡れ衣でBANされてさ、やり返したいって思わないの? 思うでしょ!」

 思わないと言ったら嘘になる。ぶっちゃけ、化けの皮を剥いで俺の潔白を証明したい。

「思うよ、そりゃ。今だって俺の両親は海外に行ったままだし、俺もマスクとメガネなしじゃ都会を歩けないし」

「でしょ、だから……やるのよ! ナツキくん。うまいこと美咲グラムの懐に入ってナツキくんの暴露はでまかせだったっていう動画を撮影するの。それを、配信する。それで、まずはナツキくんの疑いをはらすの」

 千尋は真剣な顔つきで言った。確かに、一理ある。あのおしゃべり馬鹿女のことだ、千尋や俺が仲良くなれば自慢げに有名配信者を陥れた話をしてくれるかもしれない。なんせ、相手の女はまだ年端もいかないJKなのだ。



——ポロンピロン、ポロンピロン



「マリコさんだ。もしもし、スピーカーにしますね!」

 千尋がテーブルに置いたスマホから経堂刑事の声が聞こえた。

「千尋ちゃん? そこに大野くんもいるかな? ぜひちょっと協力して欲しい事件があるんだけど……」

 経堂刑事は申し訳なさそうな声で、なんだか彼女の苦労が目に浮かんだ。

「えっと、どんな?」

 俺は千尋に「聞くな」と口パクで伝える。しかし、彼女はそれを無視して経堂刑事に話す様に促した。

「実はね、数ヶ月前から冒険者じゃない若い女の子がダンジョンの中に入っていって全身滅多刺しにされた遺体で見つかる連続殺人事件を追ってたの。洗脳とか誘導とかそういうスキルを使った犯罪か、ほら人魚がいた村みたいにダンジョンの入り口が複数あるとかそういうことかもと思って、一番最後に事件がおきたダンジョンに入って欲しかったのよね」

 経堂刑事は「ダンジョンのボスがつよくて」と付け足した。なるほど、そりゃ多分ダンジョン関係なく猟奇殺人犯の仕業だろ。ダンジョン内というだけでこんなことまで押し付けられるのかこの人たちは。

「すみません、次の配信の後でも?」

 俺が提案すると経堂刑事は「もちろん」といって電話を切ってしまった。

「ね〜、ナツキくんったら〜」

「別に美咲グラムの件が片付いてからでもいいだろ」

「だね。絶対、化けの皮を剥いでやろう」

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