第24話 勇者の村(8) 終


「せっかくの海なのに台無しだね〜」

「ほんとにな。俺たちってどうしてこうもついてないかな」


 俺たちは、もう一度無人島貸切サービスを利用していた。山中兄妹の件は千尋にとっても俺にとってもかなりショックなものだったし、結局お宝は手に入らなかったし。


「やっぱ、刑事さんに協力なんかせずに自分達で企画を考えようぜ」

「えぇ、でも無碍にはできないよ」

 千尋は心が綺麗なんだなと思いながらもダンジョン配信はそんな甘いもんじゃないどと付け足して、フォロワー数を彼女に見せた。

「聖女クリスタルや人魚の件の時よりもフォロワー数の伸びが減ってるだろ?」

「えっ、悪狐を倒した配信めちゃくちゃバズってたよ?」

 バズったのは事実だ。

 というか神獣討伐だけではなくお宝探しの配信だったこともあって同時接続者数は20万人を超え、アーカイブも催促で100万再生を記録した。

「でも、フォロワー数見てみな」

「本当だ……50万人しか増えてない」

「いわゆる、伸び悩みってやつだな。暴露系というか謎解き冒険系の配信が好きな視聴者は大体チャンネル登録をしてくれて飽和状態ってわけだ」

「なるほどぉ……」

 動画配信者なら誰でもぶつかる壁、フォロワーの飽和。そのジャンルが好きな人がフォローしきってしまうとどんなに面白い配信をしても伸びは悪くなってしまう。

「これを解消する方法はいくつかあるんだが……」

 千尋が大きな肉にかぶりつきながら目を輝かせた。まるでハムスターのようだ……千尋の可愛さあってこれだけフォロワーが伸びたんだろうなぁ。

「異業種とのコラボ配信、別ジャンルの動画投稿、だな」

「もしかして配信者がコラボしまくるのはそれが目的……なの?」

 千尋はタレをほっぺにつけたまま首を傾げる。あぁ、この様子を配信した方がフォロワー稼げそう……。いや、写真投稿SNSをはじめるか?

「そう。コラボをすることでお互いの抱えるフォロワーの中で共通しないフォロワーを獲得できる可能性があるからなぁ」

「でも夏樹くんは全然してなかったじゃん。そもそもアマミヤに逆恨みされたのだってそれが理由でしょ?」

 千尋が串に刺さった野菜にブシューっとマヨネーズをかけた。

「まぁ、そうだけど……俺はあんまり興味はなかったんだよなぁ」

「じゃあなんであんなにフォロワーいたの?」

「そりゃ……無双配信が人気ジャンルだから」


 千尋は野菜というよりもマヨネーズを食いながら俺をじっと見つめる。何を考えてるんだが……。

「じゃあ、私たちの企画ってどうしたらいいのかなぁ。コラボってなると夏樹くんの正体がバレちゃうから難しいよね」

 まぁ、疲れるから使いたくないけど変身スキルを使えば大丈夫っちゃ大丈夫。けど、コラボしたところでがっつりフォロワーがつくとは限らないしなぁ。


「ま、この島でのんびり企画でも考えますか」


 スコールが上がって、ジリジリと地面から湯気が立つ。雨で濁っていた海面もキラキラと輝き、遠くの方でイルカがはねる。

「はい、コーンバター焼けたよ」

「サンキュ」

 熱々のコーンバターに醤油をたらしてスプーンで掬い上げる。びっくりするほどうまくて、びっくりするほど熱い。

「あっち」

「も〜、ふぅふぅしないと火傷するわよー?」

 千尋は俺からスプーンを取り上げるとふぅふぅして俺の口元に「あーん」と言いながらそれを近づける。

「っ」

 流れで口を開けるとそのままスプーンが押し込まれ、香ばしいバター醤油のコーンたちがプチプチと口内で弾けた。

「はい、あーん」

 千尋はふぅふぅしては俺に食わせを繰り返し、コーンバターがなくなると「私も食べればよかったぁ」と肩をすくめた。

「どうせマヨネーズつけるんだろ」

「もちろん」

「はっ、全く……それがなければなぁ」

「え? なければって何?」


「ほら、女の子が料理を美味しそうに食べる動画あるだろ? ASMRまで行かなくてもぱくぱく食べるだけの動画。千尋がそれをやればと思ったけど、流石にその量のマヨネーズかけられると視聴者は<かわいい!>とはならなそうだなって」

 千尋は頬を膨らませて俺を睨むと「マヨネーズ美味しいのに」とぶつぶつ文句を言った。


「あ、もう一個超人気のコンテンツあったわ」


「何?」


「俺の企画、採用してくれるか?」


「もちろん、聴こうじゃない?」


 千尋は高い肉にビューっとマヨネーズをかけると豪快にかぶりついた。

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