第22話 勇者の村(6) 真相解明 前編
ダンジョンを出ると、経堂刑事と峰刑事が待ち構えていた。俺は人形の様に力無く歩いていた山中拓馬を峰刑事に引き渡すと一旦彼らの家に向かうことになった。
「お見事だったわ、まさか…悪狐がいるなんてね」
「なんとなく、キメラがボスなのにこんなにも犠牲者が出てるなんておかしいとは思っていたんです」
「さすがは百戦錬磨」
彼女はメガネをくいっと上げて微笑むと「アーカイブが見れないのは悲しいわね」と呟いた。
「とはいえ、あいつは神獣です。この記憶も持って生まれ変わるので次のダンジョンでも厄介ごとを起こすかもしれません。注意をしておかないと」
「そうね……、夏樹くんが10人いればいいのに。警察ももう少しダンジョン犯罪やモンスターによる犯罪教唆に力を入れるべきだわ」
俺は少し複雑な気持ちになった。というのも、神獣というモンスターは俺たち冒険者によってあまり良い扱いを受けていないからだ。
強い冒険者の間では「神獣ガチャ」と呼ばれる同じ神獣ばかりを倒してドロップするスキル結晶を厳選する残酷な行為が行われている。神獣は他のモンスターと違って記憶を継承するため「死」をなんども経験するのだ。
知性のある奴らにも心や痛覚がある。だからこそ、あんなふうにひねくれたヒールが出来上がってしまうのだ。
「また、怪しいのがあれば声かけてくださいよ。配信も調子良かったし……」
経堂刑事は俺たちに微笑むと「やっぱり頼ってよかった」と胸を撫で下ろした。悪狐は愛すべきアホモンスターではあるが、厄介なことは厄介だ。何よりも、あいつを補助する冒険者がいたのだから。
「おにい……ちゃん?」
山中兄妹の家に着くと経堂刑事は「話を聞かせてもらいましょうか」と全く優しくない笑顔を浮かべた。山中花梨は兄の様子を見て「そんなまさか……」と呟いた。
「なんですか? いきなりやってきて」
「山中花梨さんですね」
「そうですけど……、逮捕状が出ていますのでどうか抵抗はしないで」
押しいる様に部屋に入り、入り口を固める様に峰刑事が立った。俺と経堂刑事は兄妹と向き合う様に座った。千尋は俺の隣で悲しそうに山中花梨を眺めていた。
「あなた方はダンジョンに入る冒険者の妨害をしていましたね。一番最初にあった時、俺は拓馬さんが俺をみて少し嫌な顔をしたのをよく覚えています。おそらく、千尋の名前で予約をしたら女の冒険者がくると予想して拓馬さんがナビゲーター役を演じることにしたのに、男の俺がいたから計画に狂いが出そうだった……違いますか?」
「どういうことですか?」
山中花梨は険しい表情で俺に食ってかかる。
「あなたたちが俺たちに出してくれたお茶に魔蛇から抽出した毒が入っていたことはわかっています」
俺がそういうと山中花梨が真っ青になり「お兄ちゃん」と兄の後ろに隠れた。兄の方は呆然としたまま表情も変えない。
「俺は毒全般が無効、千尋には多少効いていた様ですが彼女は回復スキルのプロ、自分で解毒をしました。だから、悪狐との戦いの最中に神経毒が効いて動きが鈍った冒険者たちはやつの餌食になってしまう」
俺は急須を指差して「例えばあのお茶とかね」と付け足す。
「もしも、男の冒険者なら花梨さんが。女の冒険者なら拓馬さんがもっと親密に近づいて強力な毒を盛ってたのかもしれません。ですが、俺たちが男女2組だからそれができなかった」
千尋がスマホを出して動画を流す。
「動画にもボスの手前で少し慌てている拓馬さんが写ってます。どうしてこんなこと……」
山中拓馬の固有スキル<採集>で蛇の毒をあつめ、花梨のスキル<培養>で毒の効果を強めたり、効能を早めたり遅らせたりした。兄には毒味のスキルがあり妹には解毒のスキルもある。冒険者をボスのいる場所に連れて行く時間を計り、毒の効き目を操ることなどこの兄妹にとっては簡単なことだっただろう。
ただ、俺には毒は効かない。ただそれが彼らの不運だったところだ。
「あのダンジョンには毒を使うモンスターが多く生息していました。あなた方の固有スキルなら採取も問題なく行えるはず……」
「そんな、私たちが毒を盛った証拠があるんですか?」
「えぇ、俺は毒無効のスキルを持っていますので今日、尿と血液の検査をすれば毒が検出されると思います。あぁ、それに俺がモンスターから攻撃を受けていないのは配信画面で確認できますしね」
俺の反論に山中花梨は唇を噛んだ。
「あなた達は、毒を使って冒険者を騙し殺していたんですね。それに、あなたたちが死んだ冒険者の装備品を街で売っていたのをやっと確認できました。一流の冒険者であるほど高価なものを持っていますね。それがあなたたちの目的……」
経堂刑事の言葉に山中兄妹は耳を傾けていなかった。そんなことなんかよりもずっと大事なことを確かめたいのか妹の花梨は兄を揺さぶった。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「……」
兄は反応をしない。ただ、項垂れて絶望に落ちた様な表情で床を眺めていた。
「あなた方は勇者を探すなどと謳って数々の冒険者を騙し、殺したのですね。冒険者にどのような恨みがあったのかは知りませんが、この数じゃ2度と外には出られませんよ」
経堂刑事が冷たく言ったが、反応なし。ムッとして彼女は手錠を取り出そうとポケットを探る。
「
「お前らだって……俺たちの父さんを殺したじゃないか!」
「嘘……お父さん」
大声を上げる拓馬、花梨の方は悲痛な叫びをあげると兄に抱きついてわんわんと泣き出した。
「お前が……殺したんだ」
彼はまっすぐに俺を指差していた。
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