第5話 デイズお兄様が私の世話を焼いてくれます

5年ぶりに自分の部屋に入った。


「懐かしいわね、あの頃と何一つ変わっていないわ」


お父様もお母様も、私の部屋をそのままにしてくれていたのね。もう二度とこの部屋に入る事はないと思っていたけれど、まさかまたこの部屋に戻ってくることが出来るだなんて…


懐かしくてつい頬が緩む。


「お嬢様、どのお召し物にいたしますか?デイズ様が、お嬢様がいつ帰って来てもいい様にと、沢山のお召し物をご準備してくださったのです」


そう言うと使用人が、クローゼットを開けてくれた。そこにはたくさんのドレスが並んでいた。


「まあ、こんなに沢山のドレスを準備してくださっていたのね。それにしても、青系のドレスが多いわね」


私の水色の髪を意識て、青いドレスを準備してくださったのかしら?それにしても、どれも素敵だわ。


「せっかくですので、青色のドレスになされてはいかがですか?」


「そうね、それじゃあこのドレスにするわ」


早速使用人たちが、青色のドレスに着替えさせてくれた。


「やはりお嬢様には、青色のドレスがお似合いですわ。さあ、旦那様や奥様、デイズ様もお待ちです。参りましょう」


使用人たちに連れられ、部屋からでる。すると


「フランソア、そのドレス、とても似合っているよ。やっぱりフランソアは、青系の色が似合うね。黄色や紫色は、あまりフランソアには似合わないよ」


黄色や紫色か…


そう言えばジェーン様は金色の髪に紫色の瞳をしていた。その為私達お妃候補は、好んで黄色系(金色)や紫色のドレスを着ていたのだ。さっきまで私が着ていたドレスも、黄色のドレスだった。


おっといけない、ジェーン様の事はもう考えないようにしないと。


「デイズお兄様、まさかずっと待っていて下さっていたのですか?」


「ああ、そうだよ。だって今日は、フランソアが帰って来た記念すべき日なのだから。そうそう、今日の夜はフランソアが帰って来てくれたお祝いをしようと思っているのだよ。夕食まで少し時間があるから、中庭でも散歩しよう。中庭はね、フランソアがいた頃より、少し変わったんだよ」


「まあ、そうなのですね。ぜひ見たいですわ」


早速デイズお兄様と一緒に、中庭へと向かう。


「まあ、なんて綺麗なダリアの花。私、ダリアの花が一番好きなのです」


そう、いつの間にか中庭には、大きなダリア畑が出来ていたのだ。確かここは、お父様のお母様、私のおばあ様が好きだった、ポピーとパンジーが植えられていた場所だ。


「フランソアはダリアが昔から好きだっただろう?だから、フランソアの為に、ダリア畑を作ったんだよ。喜んでくれたかな?」


「ええ、もちろんですわ。なんて綺麗なのかしら?」


「せっかくだから、少し摘んでいって部屋に飾るといい。すぐに庭師を呼んでくるから、待っていてくれ」


すぐに近くの使用人に、庭師を呼んでくるように指示を出すデイズお兄様。すっかりこの家の人間ね。まさか昔大好きだったデイズお兄様と一緒に暮らすことになるだなんて。そう、私は子供の頃、優しいデイズお兄様が大好きだったのだ。初恋の相手という事になる。



そう言えば昔、“大きくなったらデイズお兄様と結婚する”だなんて言っていたわよね。懐かしいわ。


「やっとフランソアが笑っていくれた。僕はね、フランソアの太陽の様な明るい笑顔が大好きなんだよ。やっぱりフランソアは、そうやって笑っていた方がいいよ」


そう言ってほほ笑んでいるデイズお兄様。


「お兄様こそ、昔と変わらずお優しいところ、とても素敵ですわ。本当にデイズお兄様は、昔と変わっていないのですね」


デイズお兄様といると、なんだか懐かしい気持ちになるとともに、心が穏やかになる。


「そう言ってもらえると嬉しいな。でも、僕は昔の僕とはずいぶん変わったよ…もう二度と、同じ失敗を繰り返すつもりはないよ…」


そう言うと、デイズお兄様が寂しそうに笑ったのだ。

同じ失敗?一体どういう意味だろう?


「さあ、フランソア、庭師がダリアを切ってくれたよ。早速部屋に飾りに行こう。それから、そろそろ晩御飯の時間だ。フランソアは痩せすぎだから、沢山食べてね。さあ、行こう」


再び私の手を握り、デイズお兄様が歩き出す。2人で仲良く花瓶にダリアを飾った後、食堂へと向かう。


すると既に両親が待っていた。デイズお兄様と一緒に並んで座る。なんだか不思議な感じだわ。


「さあ、家族全員がやっとそろったわ。早速頂きましょう」


目の前には豪華なご馳走達が次々と運ばれてきた。それも私の大好物ばかりだ。とても美味しそうだわ。


「フランソア、君はちょっと痩せすぎだ。ほら、沢山食べて。この料理、フランソアが好きだったものだろう。こっちも」


デイズお兄様が、私の世話を焼いてくれる。


「このお料理、本当に美味しいですわ…やっぱり我が家の料理長が作るお料理が一番おいしいですわね」


「フランソア、沢山食べなさい。こっちにもあなたが好きなお料理があるわよ。まだまだいっぱいあるからね」


「このお肉、ちょっと大きいね。僕が切り分けてあげるよ」


皆が私を気に掛けてくれる。王宮では、カルア以外誰も私を気に掛けてくれる人はいなかった。食事もずっと1人だった。そう、ずっと私は独りぼっちだったのだ。

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