第4話 デイズお兄様が家族になっていました

お父様と一緒に馬車を降り、玄関へと入って行く。


「おかえりなさいませ、旦那様…お嬢様」


私の姿を見た使用人たちが、一瞬目を大きく見開いたが、それでもいつも通り迎え入れてくれた。“おかえりなさいませ”その言葉が嬉しくてたまらない。


「ただいま、皆。元気そうでよかったわ」


5年前と変わらない使用人たちに、懐かしくて涙が出そうになる。


と、その時だった。


「フランソア」


「お母様!」


お母様が私の方に走って来ると、そのまま抱きしめてくれた。


「あぁ…私のフランソア。可哀そうに、こんなにやつれてしまって。フランソアが帰って来たという事は、お妃候補を辞退したのね。よかったわ…あんな男に大切なフランソアを、誰がやるものですか!」


私を抱きしめ、涙を流すお母様。


「5年もの間、私の我が儘のせいでお母様にもいらぬ心配をかけて本当にごめんなさい。これからまた、この家で暮らすことになりますが、どうぞよろしくお願いします」


「何を言っているの?ここはあなたの家なのよ。それにフランソアは悪くないわ。よく5年もの間、頑張って耐えたわね。もう無理をする必要は無いわ。しばらくは家でゆっくりしなさい」


「ありがとうございます、お母様」


この5年間、お母様とは夜会の時に少し顔を合わせるくらいだった。お母様が心配そうな顔で私の事を見ている姿を、何度も目にして辛かった。もっと早く私がお妃候補を辞退していれば、お母様にもこんなに心配させることもなかったのに…


「さあ、フランソアも帰って来てくれた事だし、新しい家族を紹介しないとな」


「新しい家族?」


お父様ったら何をおっしゃっているのかしら?もしかして、犬か猫でも飼ったのかしら?それとも、弟か妹が生まれたとか?


そう思っていたのだが…


「フランソア、おかえり」


「え…デイズお兄様?」


銀色の髪に青い瞳、そして優しい微笑…間違いない、彼はお父様の従兄弟の子供で私の幼馴染でもある、デイズお兄様だ。どうしてデイズお兄様がここにいるのかしら?


「そんなに驚かなくてもいいだろう?実は1年前、シャレティヌ公爵家の養子になったんだよ。シャレティヌ公爵家を継ぐためにね」


「まあ、そうだったのですね。全く知りませんでしたわ」


確かに我がシャレティヌ公爵家の子供は私だけだ。私がお妃候補者になった事で、公爵家を継いでくれる人を養子として迎えようとお父様が考えている事は知っていたが、まさかデイズお兄様を養子に向かえているだなんて思わなかったわ。


という事は、既にデイズお兄様がこの家を継ぐことが決まっているのね。私は厄介者?


「あの…デイズお兄様、私は確かにこの家に帰ってきましたが、今更公爵家を継ぐつもりはありません。ですので、どうかこの家に置いてもらえないでしょうか?もちろん、お兄様にも婚約者がいらっしゃるでしょうから、その方にもご迷惑は掛けませんわ。それに落ち着いたら、王都に家を借りてそこで生活をします。ですのでしばらくは、この家に…」


「フランソア、少し落ち着こうか?僕は確かにシャレティヌ公爵家の養子になったが、フランソアを追い出すつもりはないよ。君はこの家で、公爵令嬢として生活してくれたらいい。それから、僕には婚約者はいないから、安心して欲しい。さあ、フランソア、疲れただろう?君の部屋はそのままにしてあるから、着替えておいで。王家が準備したドレスなんて、一刻も早く脱ぎたいだろう?君がいつでも帰って来ても大丈夫な様に、既に君のクローゼットには、ドレスが準備してあるから」


そう言うと、私の手を取ったデイズお兄様。最後にデイズお兄様に会ったのは、私がお妃候補として王宮に向かう時だったわね。


あの時デイズお兄様に、“フランソアにはお妃候補なんて無理だよ。どうか考え直して欲しい”と、必死に訴えられたのだったわ。


でも私は、そんなデイズお兄様を振り切って、お妃候補になった。でも…


結局デイズお兄様の言う通りになった。


「あの時デイズお兄様の言う通りにしておけばよかったですわ…」


ポツリとそんな事を呟いてしまった。


「フランソア?」


「いえ…5年前、デイズお兄様が“お妃候補だなんて無理だ、考え直して”とおっしゃってくださったでしょう。本当にその通りになったなって思いまして…」


「フランソアはあの時の事を覚えていてくれたんだね。この5年、君がどれほど辛い思いをして来たのか知っているよ。可哀そうに、こんなにやつれてしまって…」


そう言うと、ギュッとデイズお兄様が抱きしめてくれた。


「デイズお兄様、もう私は15歳なのです。子供扱いしないで下さい」


1歳しか違わないのに、すぐに子ども扱いするのだから。ぷくりと頬を膨らます。でも、この感じ、なんだか懐かしいわね。


「ごめんごめん、フランソアは立派なレディだよ。さあ、着替えておいで。僕はここで待っているから」


「ありがとうございます、では着替えてきますね」


部屋までエスコートしてくれたデイズお兄様。相変わらず優しいわね。

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