死にたがりと寂しがり
深月みずき
第1話
「死にたい」
いつからか、口癖のように言っていた。
初めてそう思ったのは、中学生の時に学校にゲームを持っていって、両親や先生に怒られたから。何度も何度も反省文を書かされて、怒鳴られて、マンションの七階から地面を見下ろすと、想像以上の高さで怖くなった。反省文の意味が分からないと言われたのをよく覚えている。死ねばいいのに。
高校生になって携帯を買って貰った。ちゃんと校則は守っていたけれど、先生の勘違いで両親と先生からまた酷く怒られた。勘違いだと説明しようとしても怒鳴られてしまい、聞いて貰えなかったのをよく覚えている。本当に鳴らしたのは隣のクラスの不真面目な男子だった。へらへらと笑って謝ってきたのをよく覚えている。みんな死ねばいいのに。
大学生になって、初めてアルバイトをした。教授に紹介して貰った保育園で任された雑用を忘れて怒られた。その日以降バイトに行こうとすると吐き気がするから、切りの良い所で辞めた。大学も、研修に行きたくなくて辞めた。死にたくなった。
高校生の頃から付き合っていた彼氏がいた。彼は高校を卒業した後就職して、毎日がんばっているようだった。彼が居てくれたから私もがんばれていた。同僚の人とも仲良くなって、地域の楽団にも入って毎日楽しそうにしている彼が羨ましかった。デートの時に上手く笑えなかった。些細な事で苛々する事が多くなり、八つ当たりをしてしまって、終には好きじゃなくなったからと電話で別れを告げられた。がんばる理由が無くなった。
両親からしつこくアルバイトを勧められて、将来役に立つかもしれないからと介護のアルバイトを始めた。仕事を教えてくれると言った人の名前が覚えられず、仕事も忙しいようであまり教えて貰えず、戸惑っているばかりだった。その日は何とか最後までがんばれたけれど、次の日には部屋に閉じ籠もった。母が会社に辞める事を電話で伝えてくれた。死にたくなった。
それでもまだアルバイトを勧められたから、できるだけ仕事が少ない物をと、深夜の清掃のアルバイトを始めた。想像以上に辛く、何度も怒られた。腰も痛くなった。また行きたくなくなって辞めた。死にたくなった。
私が無駄にした学費を払うために、母が働くようになった。定年退職した父も、新しい仕事を始めた。兄も彼女を作って毎日楽しそうにしながらも働いて家にお金を入れている。私もちょっとでも家族のためにできる事をやろうと、家事を積極的に手伝うようになった。死んだ方が良いと思った。
今まで気にならなかった事に苛立つようになった。無駄に大きい父のくしゃみ。くちゃくちゃと耳障りな咀嚼音。でもそれを怒る資格が私には無い。家族の荷物になっているのは私だ。こんな人間、死んだ方が良い。
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