side ー 聖男 6

《sideナルシス・アクラツ》


「クソ! 入学式が終わって、やっと寮に戻って来れた」


 入学式が終わると、今度は教室の隣の席に座って一緒に授業を受ける。

 その後は、イザベラ王女について歩いて挨拶周り。

 やっと解放されたのは夕食を食べてからって、マジで一日拘束じゃねぇか。


 イライラが爆発しそうだ。

 それを必死に堪えた自分を褒めてやりたい。


「まさか花婿候補がこんなにもつまらないなんて思わなかったぞ」


 確かにイザベラ王女は綺麗だ。

 お付きのサラサという騎士も美人で、後からやってきたナタリーは可愛かった。


 それからもう一人の護衛だと名乗ったアロマ。


 この三人はイザベラ王女にも負けないほどの美人ばかりだ。絶対に僕の物にしてやる。


「とにかくこの学園に慣れて自分の時間を確保するんだ。イザベラ王女に従うだけの男だと思うなよ。他の女も同時に攻略してやるよ。僕ならできる。アーデルハイドの訓練を耐えてここまできたんだ」


 魔ブックは、前世の記憶にあるタブレットに似ている。

 操作方法は同じ、内容は違うみたいだがアプリを開くのと原理は同じだ。


「へっ! アドバンテージは僕にある!」


 誰よりも先に魔ブックを使えるようになってのし上がってやる。

 イザベラ王女は良くも悪くも僕にあまり興味がないように感じる。

 なら、他の女性と僕が付き合ってもどうでもいいと思うはずだ。


「手始めは、イザベラ王女の周りからだな。ナタリー、サラサ、アロマ。この三人はイザベラ王女に匹敵するタイプ違いの美しさを持っていた。絶対に落としてやる。それと気になるのはもう一人の男か? マクシム・ブラックウッド。見た目も僕には劣るけど、他の醜い男どもよりもマシだな」


 真面目な印象を受ける男でつまらなさそうな相手だ。


 絶対に友人にはなれないタイプで虫唾が走る。

 それに、僕のアロマに色目を使っていたのも気にかかるな。


「ふん、ああいうやつは蹴落としてやるのが一番だな。まずは自分の時間を確保することが大事だが、タイミングを見てあいつの周りの女を落としてやる。この世界の女なんて、所詮は男に慣れてないウブな女ばかりなんだ。顔の良い僕が声を掛ければイチコロで落ちていくに違いない。あ〜はっはっは!!!」


 まずは手始めに学園での王女様の動きの観察から始めた。

 幸い、魔ブックに メモ機能があるのでスケジュール管理は簡単にできた。

 一週間の授業内容や休み時間の過ごし方、交友関係まで知り尽くして。話しかけながら好みや、好きなことも調べた。


 女性を落とすためには、まずは情報だ。


 顔が良いからという理由で落とせる女は、たかが知れている。

 ボクはプロだ。女性を落とすためには感動を与えなければいけない。


 感動! それは出会いの瞬間のトキメキや、ピンチを助けられた時のドキドキ感。そして、良きしないタイミングでのサプライズ。最後に相手の心に救いを与えることで、女は落ちる。


 男性が優位に立てる貞操逆転世界では、全ての女がちょろインだ。


 簡単に落ちるに決まっている。


「そうだな。手始めにあのブ男の従者でも落としてやるか」


 いきなり男に慣れていない女を落としにいくと騒ぎ出して面倒なことになる可能性もある。だが、隣のクラスのブ男。名前が確か、デブリンだったか、フリンだったか。とにかくそんなデブな男の従者は白衣を着ていて、小柄で可愛いタイプだ。


 僕から声を掛ければ、簡単に落ちてしまいそうな見た目をしている。


「ねぇねぇ君、ちょっと良いかな?」


 イザベラ王女様がいないタイミングを狙って、僕は白衣の従者に声をかけた。


「はい? これはナルシス・アクラツ様。私に何かご用ですか?」

「僕を知っているの?」

「学園にいる同学年の男子は十名ほどです。知らない女性はいないと思います」

「そっ、そうか。それでさ。実は君のご主人様と友達になりたいって思ってね。君に色々と相談に乗って欲しいんだ」


 ふふ、どうだ? あんなブ男に友人なんていないだろ? 陰キャのオタクっぽい見た目をしたやつだ。僕が友達になってこき使ってやれば良い。

 ついでに目の前の可愛い従者をいただいてやるよ。


「申し訳ありません」

「はっ?」

「アクラツ様の申し出を受けることはできません」

「なっ! 何を言っているんだ? 僕は彼と友人になりたいだけで」

「それでは正式な手続きを踏んでください」

「はっ?」


 友人になるのに正式な手続きってなんだよ。

 

「まずは、我が主人の予定を確認して頂き、その後に空いている時間があれば面接。お互いに気が合えば友人ということになります」

「えっと、それなら予定を」

「申し訳ありません。すでに向こう一年間の予定はビッシリと埋まっております。ですので、重ねて謝罪いたします」


 なっ! なんなんだ?! どうして僕を拒む必要がある?!


「すでに我が主人にはマブダチがおります。その方にからいつでも声をかけられて良いように、授業と研究以外はその方のために空けられているのです」

「なっ、なんだよそれ! それなら予定がない日は全て、その方のためだっていうのかよ!」

「そうです!」

「なっ!」

「それに申し訳ありませんが。言わせて頂ければいくら花婿候補であろうと。格上に当たるコロン伯爵家に対して、正式な手順も踏まないで友人になりたいから、教えろと言われて教えるメイドはおりません。失礼」


 白衣の従者が、綺麗なお辞儀をして立ち去ろうとする。


 僕は頭に血が登って手を伸ばした。


 しかし次の瞬間には腕を掴まれて後に手を組まされて捕まってしまう。


「護衛術もご存じないご様子。手荒な真似はしたくありませんので、このままお引き取りいただけませんか?」

「わっ、わかった。もう帰るよ」


 そうって手を離される。


 痛みで手首をさすっていると、白衣の従者が綺麗な一礼を見せる。


「よろしい、花婿候補は王女様の夫になる方です。女子生徒は花婿には手をだしません。王国に住まう女性なら誰もが知っている暗黙のルールです。覚えておいてくださいね。アクラツ様」


 女はそれだけを告げると立ち去っていった。


 何もかもが上手くいかなくてイライラする!


 クソ!

  

 

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