第十七話 友人 前半
ミーニャたちの発情期に関しては、アルファの胸のうちに収めてもらうことになった。彼女たち自身も私と触れ合ったことで、少しだけ気持ちを落ち着けることができたそうだ。
あとは、体を動かすことで発散したりできていると報告を受けた。
また何かあれば相談に乗ることをミーニャに伝えて、一旦の終息を迎えることができた。
「コロン伯爵ですか?」
「ええ、あなたが言っていた友人の心当たりなのだけど、私の知人で男性がいるのはコロン伯爵だけなの」
私は初めて聞く名前に戸惑ってしまう。
過去の記憶に、コロン伯爵と言う人物は現れたことがない。
そのため、どのような人物なのか全く検討がつかない。
「コロン伯爵は、魔導具開発のスペシャリストなんだけど、ほとんど研究をしていて引きこもっている人なの」
「母上は仲が良いのですよね?」
「ええ。昔から、何かと助けてもらっているわ」
「そうなのですね。では、私も息子さんとは仲良くしたいです」
母上を助けてくれている人なら、かつての先入観を持つことなく接することができそうだ。
私が知るかつての男性たちは、太っていて傲慢で怠惰な人種が多かった。
唯一、まともな見た目をしていたのがナルシスだが、彼とは全くソリが合わなかった。
♢
馬車に乗って相手の屋敷に向かう途中で、ため息を吐いてしまう。
「ふぅ、あまり男性に良いイメージがないな」
「大丈夫ですか? マクシム様」
「ああ、ありがとう。私が友人を作りたいと言ったのだ。大丈夫だよ」
コロン伯爵の息子さん。
プリン君は同い年だそうだ。
家庭柄なのか、魔導具に興味があり、研究熱心な人物だと聞いている。
「到着したようですね」
そう言われてたどり着いた場所は、屋敷というよりも研究室のような建物だった。
屋敷の中に入ると、メイドではなく、白衣をきた女性が出迎えてくれる。
アルファは時間が来たら迎えに来てくれると言うことで、一旦別れた。
「本日はコロン伯爵家にお越し頂きありがとうございます。お坊ちゃま研究の途中のため、しばらくお待ち頂けますか?」
「どのような研究をしているのか見させていただくことはできるだろうか?」
「面白いものではありませんよ?」
「構いませんよ。私が個人的に興味があるだけなので」
「わかりました。ではこちらへ」
案内されたのは研究室で、様々な液体や見たこともない物質がたくさん置かれていた。
「不思議な物がたくさんありますね」
「危険ですので、触らないようにお願いします。あちらです」
案内された部屋の中は、研究材料で埋め尽くされていた。
本当に研究が好きなことがよくわかる。
「お坊っちゃま。お客様をお連れしました」
「えっ?! 待合室で待っててもらうように言っただろ?」
そこにいたのはふっくらとした体型をしているが、太っているというわけじゃない。ポッチャリとして、可愛らしい容姿をした少年がこちらを見る。
「お邪魔するよ。プリン君」
「おや? おやおやおや!!! ほう、君がブラックウッド家のマクシム君か! いや、すまない上流貴族の人間など、傲慢で不細工な男を想像していた。だが、君はなんというか美しいな」
どうやら私が考えていたようなことをプリン君も考えていたようだ。
髪の色がプリンのようなに、上が茶色くて、 下が黄色くなっている。
「君は熱心だね」
「くくく、研究に対して理解がある。性格もいいようだ」
「今は何をしているの?」
「興味があるのかね?」
「魔導具なら、かなり興味があるね」
「いい趣味をしている。来た前!」
そう言って案内された先には、見たこともない三体の虫型魔導具が置かれていた。
芋虫、
「魔導具?」
「そうだ。ふふ、これは我が開発途中の最高傑作だ。
「守護虫?」
守護ということは守ってくれるということだろうか? こんな虫が? 掌サイズほどの小さな虫の魔導具だ。
「そうだ。こいつに魔力を流し込んだ相手を主人として認識して、主人の成長とともに、こいつも成長を遂げて守護する力が強くなるんだ。そのように開発してあるんだぞ。えっへん」
自慢する姿は本当に年頃の少年で、話し方は変だけど面白い。
私は男性の友人を持ったことがなかったが、好感が持てる。
「凄いな! それは凄い魔導具だ!」
「ふふふ、聞いただけでこの凄さがわかるとはお主できるな! 気に入ったぞ。守護虫の一匹をお主にくれてやる!」
「えっ? いいのかい? 開発途中なんじゃないのかい?」
「すでに数億匹作っては失敗して破棄した。その中で、この三体だけは我が完成したと思える出来だ。だが、一匹は我が使うつもりだからな。ただ、三体も要らぬ。一体は母上に渡すつもりだった。だから、一体をやろう」
なぜか顔を背けて、一体を選ぶがいいと指をさす。
そっと、先ほど案内してくれた白衣の女性が私の後ろに立つ。
「お坊ちゃまは初めてのご友人に喜ばれております。そして、ご自身の研究が誉められたことに照れておられます。最後に友人への贈り物として使って欲しいとドキドキしておられます」
白衣さんの言葉は本当だろうか? プリン君を見ると顔を真っ赤にして恥ずかしそうに指まで震えている。
「ありがとう。快くいただくよ。代わりにプリンくんが必要な材料や困ったことがあったら私に言ってほしい。力になれることなら、協力するよ」
「それは本当か! 助かる! 我はどうしても女性が苦手でな。あまり外に出れぬ」
そこで言葉を止めたプリン君。
またも、そっと白衣さんが後ろに来て語りかけてくる。
「学園が始まったら友達になって欲しいと思っておられます」
「なるほど」
私はプリン君の正面に立つ。
「ならば、学園に行ったら私と友人になってくれ。プリン君と話していれば退屈しなさそうだ」
「そっ、そうか! マクシム君がそういうなら仕方ないな。喜んでその任を引き受けよう」
嬉しそうに満面の作るプリン君。
どうやら面白い友人ができたようだ。
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