【百合短編】ポテト、シャーベット、魔法少女。

羽黒楓@借金ダンジョン発売中

----第一話----

 派手なドレスを着ているその少女は、私を軽々と抱き上げた。

 お姫様抱っこってやつだ。

 私はこれでも成人女性なので、女の子にこんなにも簡単に抱き上げられるほど軽くはない、はずなのだけれど。


 私は彼女にしがみつく。

 彼女の身体の柔らかさと体温を感じた。

 ドレスから甘いお花のような匂いがふわりと香る。

 それは私の脳細胞を支配していってしまう。

 とろんとした恍惚感が私を包んだ。

 少女のドレスを彩るたくさんのレースとフリルが目に入る。

 なんてかわいらしいんだろう。

 少女は私を抱えたまま、まるで重力なんて無視するかのようにビルの屋上から屋上へと飛び跳ねていく。


 視界を流れていくのは都会の夜景。


 それをバックにして、私の目のピントは彼女の顔にあったまま。

 彼女のピンク色のツインテールが風になびく。

 大好きな彼女の顔を見つめる。

 年齢は中学生くらいに見える。はっきりした目鼻立ち、眉はくっきりとしていて、強い意志を感じさせる。

 血色の良い薄紅色の唇が、キリッと一直線に引き締められている。


 彼女の名前はミスティシャーベット。


 この街の平和を一途に守る、魔法少女だ。


 私は今彼女に助けられ、家まで送り届けられる、その途中なのだ。

 あまりの幸福感にくらっと意識を持っていかれそうになった。

 いつまでも永遠にこの時間がつづけばいいのに。


 でも、彼女はやっぱり私には微笑みかけてくれなくて。


 それはいつものことで、それがもどかしくて私はさらにこの子に焦がれてしまう。

 あっというまに、私のマンションのドアの前まで来てしまった。


 やさしく優雅に私を立たせてくれる魔法少女。

 私は服をパタパタとはたいてしわをのばす。

 そして、まっすぐ彼女を見た。


 ツインテールと同じピンク色の戦闘用ドレス、膝上丈のスカートにはパニエがみっしりつまっている。

 肘まである真っ白なオペラグローブがとてもかわいらしい。

 こんなにも完璧に愛らしい女の子なんてこの子以外、世界のどこを探してもいないだろう。

 私は心臓の鼓動があまりに早くなって、うまく息もできない。

 ほっぺたが赤く火照るのを感じた。


「ありがとう、ミスティシャーベット」


 私はやっとのことで彼女にそう言った。

 ミスティシャーベットは私の方を見もせずに、自分の足元だけを見て、


「……こんなの、私たち魔法少女の仕事じゃ、ありません」


 といった。


「でも、今日も助けてもらっちゃったよ。あなたのおかげで助かった」


 ミスティシャーベットは不機嫌そうな声で、


「わざとですよね?」


 と私に聞いた。

 私はそれには答えず、


「ありがとね」


 ともう一度お礼を言った。


「別に、いいです。でも、お姉さんはちょっとやりすぎです。次からは、もう助けませんから。だから、今後は絶対に危ないことはやめてくださいね」


 そう言ってミスティシャーベットは、夜の街の中へと消えていった。





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