はんなり探偵の事件簿
赤眼鏡の小説家先生
第1話『闇夜を舞う怪盗』
「まてぇや、怪盗ビックボイン––––っ!」
屋根の上から、闇夜を切り裂く怒声が上がりました。
声の主の名は、しーちゃんこと
去年王都探偵学院を主席で卒業した、エリート探偵です。
そして私は、その助手で事件の記録係を務めるシャーロット・ワトスンと申します。
現在、最近王都を賑わせている怪盗ビックボインを追跡中です。
怪盗ビックボインはその名の通り、圧倒的なスタイルの良さと美貌を合わせ持つ怪盗で、今日もほぼ裸に近い怪盗衣装を
そして、しーちゃんも時折怒声を発しながら屋根の上を全速力で走り、怪盗ビックボインを追います。
私ですか?
私は路面を走ってますよ?
自転車で。
いやいや、屋根の上なんて危ないですし、そもそも登れませんし。
どうして怪盗という人たちは高いところが好きなのでしょうか?
怖くはないのでしょうか?
それにしーちゃんもしーちゃんです。
道端にあった木をよじ登って屋根の上にあがったんですよ?
まるでお猿さんです。
流石毎日バナナを食べているだけはありますね。
自転車のカゴの中でも、先程購入したバナナが揺れていますし。
実は、食料品を買った帰りに怪盗ビックボインと遭遇してしまい––––晩御飯そっちのけで追跡中というわけです。
正直に申しますとお腹がぺこぺこですが、頑張ってペダルをぺこぺこと漕ぎます。
「もう後がないで! 怪盗ビックボイン!」
頭上では、しーちゃんが屋根側に怪盗ビックボインを追い詰めていました。
屋根から屋根へと飛び移り逃走を図っていた怪盗ビックボインですが、それも終わり。
この先に、飛び移れそうな建物はありません。
一番近くの建物まで、十メートル以上離れていますし、今立っている屋根よりも高さがあります。
いくら身体能力に優れている怪盗ビックボインでも、流石にあの距離の跳躍は不可能です。
しかし、怪盗ビックボインは余裕の表情で笑い声を上げました。
とても、艶っぽい声で。
「ふふふっ、それはどうかしら……?」
「はっ、強がりは
善子さんがどなたかは存じませんが、ここまで追い詰めれば捉えたも同然。
急いで警察にアパートを囲んでもらい、包囲網を作っていただきましょう。
ですが、次の瞬間。
怪盗ビックボインは煙幕を撒き、そして––––勢いよく煙幕から飛び出した怪盗ビックボインは、ひらり、ひらりと。
宙を舞ってみせました。
「なっ、そんなっ、あり得ないっ」
「けっほっ、けっほ、シャロ! 怪盗ビックボインはどこや!」
「と、飛んでますっ」
「けほっ、けほっ、んなことあるかっ!」
むせながら脱いだ上着で煙幕を払い、目を凝らすしーちゃん。
「なぁっ……! そんなアホなっ! 人が空を飛ぶなんて……!」
間違いありません。
怪盗ビックボインの身体は完全に浮いており、空中を飛んでいます。
しーちゃんは急いで左右上下を確認し、怪盗ビックボインの身体に目を凝らしておりました。
「そんな、アホな……ワイヤーも、ロープも見当たらへん……」
私も下からですが、目を凝らして怪盗ビックボインの身体と周囲を観察します。
……間違いなく何もありません。
怪盗ビックボインは、そのまま数十メートル離れた屋根の上に着地しました。
着地した建物の高さのせいで、下からでは怪盗ビックボインの姿は見えません。
と、思いましたら、怪盗ビックボインはヒョコッと姿を表し、しーちゃんに投げキッスをしてから、私に向かってニッコリと笑い手を振ってきました。
とりあえず、手を振り返しときましょう。
すると、しーちゃんが私に向かって大声で怒りだしました。
「シャロ! なに手を振り返しとるねん!」
「え、だって、振られたから……」
「煽られとるんやぞ!」
そ、そうだったのですねっ。
わ、私ったら何をのほほんと手を振り返してるんでしょう。
そうこうしているうちに、怪盗ビックボインは闇夜に溶けていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます