第16話:佐々木さんと勉強会を始めていく
翌日の放課後。図書室にて。
「あ、ごめん山田。ここの計算ってどうやってやればいいの?」
「うん? あぁ、これはこの定理を使っていくと……」
昨日約束したように、今日は佐々木さんと一緒に図書室で勉強会を開いていた。そしていつも通り図書館は人が全然いないので、今は佐々木さんとほぼ二人きりの状態になっていた。
なので女子と二人きりで勉強会をするなんてドキドキと緊張してしまう……なんて事もなく、俺達はいつも通りお互い気さくな感じで勉強会をする事が出来ていた。
(こんなにも気さくな空気感になるのはきっと佐々木さんだからだろうな)
だって他の女子と二人きりだったら俺は絶対に緊張をしてるだろうしさ。でもそれは俺が佐々木さんの事を女子だと思っていないという事では決して無い。
やっぱり俺は佐々木さんの事を仲の良い友達だと思ってるからこそ、佐々木さん相手には二人きりでも緊張とかしないんだろうな。
それに仲が良い友達だと思ってるのに二人きりになると緊張するなんて、そんなのは相手に失礼だしさ。
「あぁ、なるほどね! うん、ありがとう、凄く助かったよ、山田!」
「はは、それなら良かった」
佐々木さんに解き方を教えていくと、佐々木さんは笑みを浮かべながら感謝の言葉を伝えてきてくれた。なので俺も笑みを浮かべながら良かったと返事を返していった。
「いやー、それにしても山田って勉強を教えるのすっごく上手いんだね。もしかして山田って勉強はかなり出来る方だったりするの?」
「いやいや、そんな事は全然ないよ。平均よりかはちょっと上ってくらいだよ。ただ理数系は他の人よりはほんのちょっと得意かもね」
「へぇ、そうなんだ。でも山田の勉強の教え方は本当に凄くわかりやすかったよ。何となくだけど山田は学校の先生とか塾の講師とかが向いてそうだね」
「そうかな? はは、でも佐々木さんにそんな事を言われたらちょっとだけそっちの進路も目指したくなっちゃうなー」
「私は全然そっち方面の進路を目指しても良さそうだと思うけどね。あ、そういえば山田は進路調査票は何て書いて提出したの?」
「え? 進路調査票?」
ふと佐々木さんは俺に向かってそんな事を尋ねてきた。実はちょっと前に進路調査票を提出する事があったんだ。
まぁ俺達は高校二年生だし、もうそろそろ明確な将来の目標を作る時期が来ているって事だな。
「うーん、まぁ無難に大学進学とは書いたんだけど、でも将来のやりたい事とかは全然思いついて無かったから志望大学とか学部とかはまだ全然決めてないよ。そういう佐々木さんは進路調査票には何て書いたの?」
「あぁ、私も山田とほぼ同じよ。無難に大学進学って書いて提出しちゃったわ」
「そうなんだ。それじゃあ佐々木さんも将来のやりたい事とかはまだ決まってない感じなのかな?」
「そうね。まぁでも目指すなら安定した職業の方が絶対に良いわね。そうなるとやっぱり公務員とかになるのかな?」
佐々木さんは頬に指を当てながらそんな事を言ってきた。
「はは、なるほどね。うん、安定志向なのは何だか佐々木さんらしくて良いね」
「……何よ? それじゃあまるで私がつまらない人間みたいだって言ってるみたいじゃないの?」
俺が笑いながらそう言うと佐々木さんはジトっとした目つきで俺の事を睨みつけてきた。
まぁでも佐々木さんは本気で怒ってない事はわかっているので、俺はまた笑いながら謝っていった。
「はは、ごめんって。そんな事は全然思ってないよ。むしろ安定志向なのは現実をしっかりと見ていて良い事でしょ? むしろ俺はそういう事すら考えてなかったから……って、いや、そう考えると何だか危機感が一気に出てきたな……」
「ふぅん? まぁ確かに高校二年生が終わったらすぐに受験も始まっちゃうし、今の内に漠然とでも進路は考えておいた方が良いかもね。あ、それじゃあさ、山田は子供の頃の夢とかはあったりしないの? そういう子供の頃の夢から将来のやりたい事を考えていったらどうよ?」
「子供の頃の夢? なるほど、それは確かに考え方の一つとして良さそうだね。うーん……でも俺は子供の頃は何になりたかったんだっけなぁ……?」
俺は腕を組みながら子供の頃にやりたかった夢を考えていってみた。
「うーん……って、あっ、やっぱりあれかな? 確か子供の頃はプロ野球選手になりたいって思ってた気がするよ。小学生の頃は草野球とかしょっちゅうやってたからさ、そういうスポーツ選手に憧れてたんだよなぁ」
「へぇ、そうなんだ。それは夢が大きくていい事じゃない。でも今はもうそういうスポーツ関係の夢は辞めちゃったの?」
「あぁ、うん。中学生になってからは友達とゲームとかで遊んだりとかするのが楽しいって思うようになってさ、それで結局野球は全然やんなくなっちゃったなー」
「あはは、それはよくあるパターンのヤツね。新しい趣味とか好きなモノを見つけたらそっちばかり夢中になっちゃうのはよくあるわよね」
「いや本当にそうだよね。あ、それじゃあさ、佐々木さんは子供の頃の夢とかはどんなのだったの?」
「え? 私の子供の頃の夢? えぇっと、うーん、私の子供の頃の夢は何だっけ……って、あぁっ!」
「ん?」
佐々木さんは何かを言いかけたと思ったらすぐに慌てた表情になりながら言うのを止めてしまった。
「ど、どうしたの?」
「え……って、えっ!? あ、い、いや! 何でもないわよ! やっぱり思い出そうとしたんだけど、でも子供の頃の夢なんて思い出せなかったわ、あ、あはは!」
「そ、そうなんだ?」
確実にそれは嘘だとわかる程に佐々木さんは顔を真っ赤になっていた。どうやらそれほどまでに秘密にしておきたい夢を持っていたのかもしれない。
(うーん、ちょっと気になるけど……)
まぁでもそこまで秘密にするって事はよっぽどの事だと思うし聞かない方が本人のためかもしれないな。だから俺は佐々木さんの夢の話を無理に聞くような事はしなかった。
「うん、わかったよ。それじゃあまぁ……いつか思い出したら俺にも教えてくれたら嬉しいって事で、この話はこれで終わりにしとこっか」
「ん……わ、わかったわ。そ、それとその……ごめん、取り乱しちゃって」
「あはは、全然大丈夫だよ。よし、それじゃあ勉強会に戻っていこうか」
「う、うん、わかったわ」
という事でそれからはまたお互いにテスト勉強をひたすらと頑張っていくのに戻っていった。
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