第14話:図書室で佐々木さんと出会う

 それから数日後の放課後。


 今日も俺はまた図書室にやって来ていた。でも今日はテスト勉強のためではなく、図書室の受付係をするために訪れていた。


 この学校では全員何かしらの委員会に入る事になっていて、俺は図書委員に所属しているんだ。


 それで図書委員の仕事として週に1回は図書室の受付係をやる事になっている。という事で今日はその仕事の担当日だったんだけど……。


「ん-、今日も暇だな……」


 でも前にも言ったように、この学校の図書室を利用する生徒は全然いないんだ。だから受付係をしていても暇な時間の方が圧倒的に多かったりする。


 それに勉強をしたい生徒も大多数は綺麗な自習室を利用するので、テストが近くなっても図書室を利用する生徒が増えるという事はなく、いつも通りガラガラの状態が続いているというわけだった。


「はぁ、仕方ない。テスト勉強でもやって時間を潰すかなぁ……」


 という事で図書室を利用する生徒が全然来なくて暇だったので、俺は英単語帳を開いてノンビリと勉強をしながら時間を潰していく事にした。すると……。


「あれ? 山田じゃん」

「……うん?」


 受付の椅子に座りながら単語帳を開いて勉強をしていると、唐突に名前を呼ばれた気がした。


 俺は誰だろうと思いながら急いで顔を上げてみると、そこには佐々木さんが立っていた。


「あぁ、佐々木さんか。うん、お疲れさま」

「うん、お疲れさま」


 俺は英単語帳を閉じてから佐々木さんに挨拶をしていった。


 もちろん今日のお昼休みも佐々木さんと一緒に屋上でご飯を食べていたので、佐々木さんとはそれぶりの再会だ。


「山田が受付の席に座ってるって事は……あぁ、そういえば山田って図書委員なんだっけ? それじゃあ今は仕事中なの?」

「うん、そうだよ。まぁでも仕事という程の事は何もしてないけどね。図書室を利用する生徒は全然いないしさ。だから今も時間潰しに英単語帳を読んでたくらいだしね」

「ふふ、なるほどね。まぁ今時本を読む人なんてだいぶ少ないだろうし、勉強目的なら図書室よりも最新の空調設備が付いてる自習室に行くもんね」

「そうそう、そうなんだよ。あ、でも佐々木さんがこんな利用客の少ない図書室に来るなんて珍しいね?」


 俺は一年の頃から図書委員をやっているんだけど、佐々木さんが図書室に来るのを見たのは今日が始めてな気がする。だから俺は佐々木さんにそう尋ねていってみた。


「んー? いや別にそんな珍しい事でもないわよ? だって月に1~2回くらいは図書室に来て本を借りてるしね」

「へぇ、それだと結構な頻度で本を借りに来てるんだね。という事は単純に俺の受付担当の日と被ってなかっただけかな?」

「うん、多分そうだと思うわよ。だって私も山田が図書室にいるのは初めて見たしね。だから私も山田が図書室にいて珍しいなーって思っちゃったわ」

「あはは、そっかそっか。やっぱり佐々木さんも同じ事を思ってたんだね。あ、それじゃあ今日は本を借りに来たって事だよね? もし何か見つからない本があったらいつでも言ってね」

「うん、ありがと。見つからなかったら頼りにさせて貰うわ。それじゃあまたね」

「うん、わかった。それじゃあね」


 そう言って佐々木さんは奥の本棚の方に向かって歩いて行った。俺はそれを見届けてからまた単語帳を開いて自分の勉強に戻っていった。


◇◇◇◇


 それからしばらくして。


 奥の本棚から佐々木さんは何冊かの本を手に持って受付の所まで戻ってきた。


「これ、貸出させて貰っても良い?」

「もちろん大丈夫だよ。それじゃあすぐに貸出の受付を済ませるからちょっと待ってね。えぇっと……ってこれは、料理本? あ、もしかして毎回借りに来てるのってこういう料理系の本なの?」


 佐々木さんが持ってきた本を一つずつ確認していくと、それらは全て料理のレシピ本だった。


「えぇ、そうよ。この図書室は料理とかレシピに関する本を沢山置いてくれてるし、それに結構な頻度でそういう料理系の本も沢山入荷してくれるのよ。だから私はこの図書室をちょくちょく利用させて貰ってるのよ」

「あー、そう言われてみれば料理系の本は割と入荷する頻度が高いかもね。確か生徒側からの要望で料理とかレシピ本をもっと置いて欲しいっていう投書が頻繁に来てるから司書さんが多めに入荷するようにしてるんだよね」

「へぇー、なるほどなるほどー……ふふ、それなら入学してから毎月ちゃんと図書室に投書し続けてきたのは正解だったって事ね」

「えっ? って、あぁ、なるほどね」


 俺が図書室に料理系の本が多い理由を言っていくと佐々木さんはふふっと笑いながらそんな事を言ってきた。


「はは、それじゃあ佐々木さんがそれらの要望をいつも投書してくれてたんだね。そういえば前にも本とかネットとかを使って料理の勉強してるって言ってたもんね」

「そうね。そういうのを利用して料理の勉強する事が多いわね。でも料理の本に関してはネットが使えなかった小学生の頃からずっとお世話になってるから……ふふ、だからもう今までに数えきれないくらいの本を読んできたかもしれないわね」

「へぇ、そうなんだね。でもきっとそれだけの努力を子供の頃からずっと積み重ねてきたからこそ、今の佐々木さんは料理が物凄く上手になったんだね。それは本当に素敵で立派な事だし尊敬もするよ」

「う……ちょ、ちょっと……ま、真面目な顔をしてそんな事を言わないでよね。は、恥ずかしいじゃないのよ……」


 俺は笑みを浮かべながらそんな事を言っていくと佐々木さんは顔を赤らめながらもプイっとそっぽを向いてしまった。どうやら佐々木さんはあまり褒められ慣れてないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る