第8話:佐々木さんが何やらおかしな事を言ってくる

 次の日のお昼休み。


「お疲れ様、佐々木さん」

「ん、お疲れ様」


 屋上にやって来るといつも通り佐々木さんが待ってくれていた。なので俺は挨拶をしながら佐々木さんの隣に座っていった。


「それじゃあ、はいこれ」

「ありがとう、佐々木さん!」


 俺が佐々木さんの隣に座っていくと、佐々木さんは俺に向けてお弁当を渡してきてくれた。昨日と同じく黒いお弁当箱だ。


 俺は感謝の言葉を送りながら早速お弁当の蓋を開けていった。するとお弁当の中身はピーマンの肉詰めとサラダに卵焼きが詰められていた。昨日と同じく非常に彩りのある素敵なお弁当だった。


「今日も凄い美味しそうだね。それじゃあ、いただきます!」

「うん、どうぞ」


 という事で俺はいつも通りしっかりと手を合わせながらそう言っていった。そしてそれからすぐにオカズのピーマンの肉詰めを一口食べていってみた。


「もぐもぐ……うん、このピーマンの肉詰めかなり美味しいよ! 中に詰められてる肉は凄くジューシーだし、かけられてるソースもピーマンと肉に合ってて凄く美味しいよ!」

「そっか、それなら良かったわ」


 俺がそう言うと佐々木さんは少しだけ嬉しそうに笑ってくれていた。 俺はそのままパクパクとピーマンの肉詰めを食べていった。


「うん、これは本当に美味しいよ! それにピーマンってもっと苦いイメージがあったんだけどさ、でも佐々木さんの作ったピーマンの肉詰めは全然苦くないっていうか、むしろ旨味が勝ってるよね! これはご飯がめっちゃ進むなー!」

「確かにピーマンってそういうイメージが強いわよね。でもしっかりと種とわたを取り出して、ちゃんと丁寧に火入れをすれば苦味って結構抑えられるのよ」

「へぇ、そうなんだ。なるほどー、料理って中々に奥が深いんだね!」

「ふふ、そうね。だからこそ料理をするのは楽しいなって私は思うんだけどね」


 佐々木さんは嬉しそうにしながら料理についての知識を俺に教えていってくれた。俺はそんな佐々木さんのタメになる料理話をしっかりと聞きながらもお弁当を食べ続けていった。


(うーん、それにしてもこれだけ美味しいピーマンの肉詰めだったら真唯も食べれそうだなぁ……)


 そしてその時、俺はふとピーマンが苦手な妹の真唯の事を頭に思い浮かべていった。


 昨日はめっちゃ細かくしたピーマンだったから真唯も食べてくれたけど、でも昨日の感じだと形がわかってしまうようなピーマン料理はまだ食べてくれそうにもないよな。


 でも佐々木さんの作ったこのピーマンの肉詰めは全然苦味は無いし、これなら真唯も食べれる気がするな。


 うーん、これは今度佐々木さんにこのピーマンの肉詰めのレシピを教えてもらおうかな? まぁ教わった所で俺は料理なんて出来ないんだけどさ……。


「あ、そうだ。そういえばさ、ちょっと山田に聞きたい事があるんだけど」

「うん? どうしたの?」


 俺は真唯について考えていると、急に佐々木さんが俺に聞きたい事があると言ってきた。なので俺は何事かと思いながらも佐々木さんにそう聞き返していった。


「いや、そういえばさ、昨日の放課後に教室の窓からグラウンドを見てたわよね?」

「えっ!? って、あ、あぁ……もしかして佐々木さん達が部活をやってた時の話?」

「そうそう。その時の話よ。それでアンタさー……女子達の事をじっくりと眺めてわよねぇ? 女子達を覗き見するなんていやらしいわねぇ」

「え……って、えっ!? い、いや、それはその……!!」


 覗きだと言われて俺は一瞬焦ったけど、でもよく考えたら昨日の放課後に覗き見してたわ。昨日は夏江と一緒に女子バレー部とバスケ部の合同練習を覗き見していたっけ……。


 でも佐々木さんにいやらしい男だと思われるのだけは絶対に嫌なので、俺はその誤解を解くために何か良い言い訳がないか全力で悩んでいった。


「……ふふ、冗談よ。別に私は山田が覗いてたとかいやらしい男だなんて思ってないわよ」

「え? え?」


 しかしその時、佐々木さんは笑いながらそんな事を俺に言ってきてくれた。


「まぁどうせ夏江君に誘われたんでしょ? 一緒に春香の応援をしてほしいって言われたんじゃないの?」

「え? ……って、あ、あぁ! うん、そうそう! 実は夏江が桜井さんの応援をしたいから一緒に応援してくれって言われてさー! あ、あはは!」

「ふふん、やっぱりね。まぁそんな事だろうと思ったわよ」


 どうやら桜井さんは勘違いをしてくれてるようだったので、俺はこのまま親友を全力で売っていく事にした。すまん夏江。


「あ、あはは、実はそうなんだよー。あ、そういえばさ、夏江と桜井さんって付き合い始めたのって先週くらいかららしいね。本当につい最近から付き合い始めたんだってね」

「うん、そうらしいわね。ふふ、でも昨日も部活の時に思ったけど、春香と夏江君ってとても仲が良さそうで羨ましいわよね」

「あぁ、それは俺も同じ事を思ったよ。あの二人って結構お似合いなカップルだよね」

「うん、そうだよね。私もそう思うわ」


 という事で俺達はそう言いながらお互いの親友同士のカップルを祝福していった。


「あ、でもそういえばさ……そういう山田は夏江君みたいに彼女を作ったりとかしないの?」

「え? 俺? う、うーん、そりゃあ俺だって彼女は出来れば欲しいけどさぁ……」


 すると佐々木さんは唐突にそんな話を俺に振ってきた。


 いやもちろん俺だって彼女は欲しいけど、でもどうやったら彼女が作れるのか全然わからない俺にはハードルが高すぎるよなぁ……。


(いやでもまさか佐々木さんともそんな話をする事になるなんてな)


 昨日も夏江とそんな感じの話をした気もするけど……でもまさか佐々木さんともそんな話をするとは思わなかった。


 まぁでもせっかくの機会だし俺も佐々木さんに同じような質問をしてみる事にした。


「えっと、そういう佐々木さんこそ彼氏とかは作ったりしないの?」

「え? 私? う、うーん……」


 という事で俺も佐々木さんにそう尋ねてみたんだけど、でも佐々木さんはあまり気乗りしないような表情を浮かべ始めていった。


「あれ? あんまりそういうのは興味ない感じなの? あ、もしかして今は部活が忙しいから彼氏とかそういうのは要らないって感じなのかな?」

「う、うーん、まぁ確かに部活で毎日忙しいから、今はそういうのはあんまり興味はないってのは多少はあるかもだけど。でもそれよりもさ……」

「でも?」


 バレー部が忙しくて彼氏とか作ってる暇はないのかなって思ったんだけど、でも佐々木さんの雰囲気的にはそういう事ではなさそうだ。でもそれじゃあ一体……?


「え、えっと、いやそもそもだけどさ……私みたいなのと付き合いたい男子なんていないでしょ?」

「……えっ??」


 佐々木さんが唐突に放ってきたその言葉の意味が理解出来ず、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。


“私みたいなのと付き合いたい男子なんていないでしょ”


 い、いや……マジで何を言ってるんだこの人は??

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