《完結》エフ -- ありすと、ある兄弟をめぐる物語--
雨の夜
双子 《有栖》
私は、夢を見ていたのかしら。
目が覚めたら、弟の竜之介が私を抱きしめるように眠っている。
すこやさな寝顔。
竜之介は双子の弟。
私のかたわれ。
大切な竜之介。
私たちは高校生になっても一緒に眠っている。
学校で話したら笑われるに決まってる。
でも……
私は1人では眠れない。
私がぼうっと竜之介を見つめていると、気配を感じたのか、竜之介が目を覚ました。
「あれ…眠れなかったの?有栖…」
とろんとした甘い声で竜之介が訊ねる。
「ううん…今、ちょっと起きてしまっただけ…パパの…パパの夢を見ていた気がする…」
「今日は兄貴は帰ってこないだろうから…もうすこしここでおやすみ…眠れそう?」
言いながら竜之介は手をのばして、ふとんに誘う。
「わかんないけど…こうやってリュウにくっついてると落ち着くから…こうしてる…」
昼間ならちょっと照れくさいけど、まだ明けない闇の中、私はちょっとだけ甘えてくっついていく。
「ふふ…有栖はあまったれだな…」
竜之介はにやにや笑いながらも私を受け止めてくれた。
「…だってあったかいんだもん」
私もつられて笑うと
「有栖は夏もくっついてくるよ」
と竜之介はまたとろんとした声で言う。
まだ眠いのだろう。
竜之介は…私が眠るまで起きていようと毎晩頑張ってくれているから。
そんなことないと彼はいうけれど、私は知っている。
私とは似ていない真っ直ぐの黒髪が、微かに窓から入る月光を反射して光っている。
「明日も大学あるのに…お兄ちゃんは朝までお仕事かな?それとも…」
私が言いかけると、竜之介がばふっと毛布をひっぱりあげて、ふたりの頭まですっぽりとかぶせてきた。
「わ…!」
「俺たちだって明日も学校だよ?
少しでも眠っておいたほうがいいよ」
吐息がかかる距離で竜之介が言う。
そうだね…私は唇だけ動かして、幼い頃から馴染みのある彼の胸に顔を埋めた。パジャマからは私とおなじ香りがする。
私はこうしているときがいちばん安心できる。ちいさな頃からずっとこうして眠ってきたのだから…
「おやすみ……俺のちいさなお姫さま……」
竜之介はよくふざけてこんな風に言う。
耳元でささやく声を聞きながら、私は眠りに落ちていった……。
私たちは双子のきょうだい。
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