閑話 大阪桐生2
「龍宮が勝ったかー」
「良かったな、大鰐。お前が熱望してた先輩との勝負が実現するかもしれへんで」
「そうですね」
桐生高校野球部の食堂にて。
そこでは部員が集まって西東京予選の決勝を見ていた。
そしてそこで声をかけられたのは大鰐。
豹馬達の一つ下のシニアの後輩で、蛟原と共にシニア準優勝まで登り詰めた時の4番打者である。
大鰐は豹馬やシニアの先輩に龍宮高校に来ないかと誘われていたが、どうしても敵として甲子園で豹馬と勝負したかった。そしてスカウトをしてくれた中で一番可能性がありそうな桐生高校を選んだのだ。
シニアの全国大会優勝校のエースと4番もいたりしたが、厳しい練習を耐え抜き、苛烈なレギュラー争いを勝ち上がって、夏の予選から試合に出場している。
「大鰐クンはこの人とお知り合い?」
「ああ。先輩なんだ。中学生の時はとてもお世話になった」
大鰐の隣で一緒に見ていた日本人離れをした体格の黒人男性。二年前から日本に家族で住んでいて、今年桐生に入学したドワイトだ。
アメリカにいた頃から野球をやっていて、日本でも中学の野球部に所属。桐生が真っ先に目を付けスカウトした逸材である。
とても素直な性格で日本の野球にもすぐに順応。しかし、豪快なスイングは失われる事なく、地方大会でチームトップの4本のホームランを放っている。
「この三波サンと戦ってみたいデース」
「俺もだよ。ずっと戦いたかった」
ドワイトと大鰐の顔はキラキラしていた。
「三波もやばいけど三井もえっぐいピッチャーになっとるで。三高打線を0に抑えとるしな。どっちが投げてきても手強い相手になるんは間違いないわ」
「打線もやばいんやで。伊集院は最小失点に抑えとったけど、俺はちょっと微妙やなぁ」
「尾寺サン。僕が投げマース」
「お前は球は速いけどノーコンじゃねぇか」
桐生のエース尾寺が弱気な発言をすると、ドワイトがすかさず投げたいと立候補する。
ドワイトは打つのも好きだが、投げるのも好きなのだ。制球が定まらないが、球だけは速く、そして重い。
「ど真ん中で良いなら投げマス」
「あの打線にど真ん中だけで抑えれる訳ねぇだろ」
「ムムッ」
流石に龍宮打線はど真ん中の真っ直ぐだけで抑えれるほど甘くはない。
ドワイトは残念そうな顔をしながら引き下がった。
「向こうも一年をスタメンに使ったりして、既存の戦力との融合もバッチリやなぁ。この一二三やって、伊集院のシンカーをしっなり打ち返しとるし」
「一二三は怪我したって聞いてたんですけど、復活したんですね。関東では有名でしたよ」
大鰐は初めて一二三を見た時はびっくりした。当時は天才と言われていたが、怪我をしてから全く話を聞かなくなっていたからだ。
よほど怪我が酷かったのか、それとも野球を辞めたのかと思っていたが、なんと龍宮高校にいた。
「打線の層も厚い。投手層も暑い。いつの間に龍宮はこんなバケモンになったんや」
「豹馬君の世代が入ったからですね」
三井、清水、大浦、金子。
この選手達も良い選手だが、原動力になっまのは間違いなく豹馬達シニア組だ。そのうち◯◯の世代とでも言われるようになるかもしれない。
「まっ、龍宮の話ばっかしとるけど、どっちかがこけたら戦われへん訳やからな。先を見据えすぎて足元を掬われんようにせんと」
キャプテンがそう言って締めて、各々は練習を再開する為に食堂から出て行った。
果たして龍宮と桐生は戦う事になるのか。それはまだ誰にも分からない。
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