第254話 似てる


 「弾呉のサインならあるぞ」


 「え?」


 早速帰って父さんに弾呉さんと知り合いか聞いてみた。やっぱり俺も一回会った事があるらしく、今度の試合は恨みっこなしで一緒に観戦する約束まで取り付けてるらしい。

 そういうのは息子にも情報共有してほしいね。


 で、俺はミーハーな人間なので、知らなくても有名人ならサインが欲しくなっちゃう。

 有名人のサインをいっぱい並べて、部屋で眺めたりしたいんだよね。

 だからサイン欲しいなって父さんに言ってみたら、既に父さんは持ってるらしい。


 父さんの部屋に行くと、サインが綺麗にズラリと並べてある。プロ野球選手はもちろん、メジャーの選手やNBAの選手、プロのサッカー選手のサインとかがあって、その中の一つに弾呉さんのサインがあった。


 ふむ。俺がサインを並べたがるのは血筋かね。父さんも自慢気に説明してくれる。両親の部屋とか滅多に行かないからね。俺もこの部屋に入るのは大分久々だ。


 もしかしたら小学生以来かも。それぐらい入った記憶がない。こんな風になってたっけ。


 「良く見分けがつくね。有名人のサインってどれもこれもミミズみたいで分かりにくいのに」


 「お前もサインをいっぱい書くようになったら見分けられるようになるさ」


 俺は分かりやすいサインを目指してる。

 一目見て、三波豹馬のサインだって分かるようにしたい。色々試行錯誤はしてるんだけど、まだ完成形にはならない。

 豹の絵でも描いてやろうか。




 弾呉チート一家の事はともかく。

 しっかり映像を見て研究しないといけない。


 翌日、練習終わりに部室で映像を見る。

 昨日は話が脱線しまくったけど、今日は真面目です。


 「弾呉兄弟に目がいきがちだけど、どのバッターもみんなブンブン振ってくるな」


 「それでいて打率も悪くないんだよね」


 なんかメジャーリーガーをモロに真似ましたみたいな感じ。高校生で体が出来てないうちは無理なスイングはしない方がいいと思うんだけど。


 「怪我が少ないチームなんだよね。しっかりメカニズムとかを理解してやってるんだと思う」


 俺が不思議に思ってると、輝夜さんが説明してくれた。このチームは体の使い方がみんな上手なんだそうだ。アメリカでは普通にやってる事らしい。


 「日本に情報が入ってくるのが遅いんだよなぁ。10年遅れの情報とか平気であるし」


 そういう意味ではアメリカって変える事を恐れないよね。日本は躊躇しまくるんだけど。お国柄もあるだろうし、指導者が頑固ってのもあるんだろうけど。


 日本の指導者は自分の成功体験を押し付ける印象がある。最近でこそ改善されてきたみたいだけどね。


 自分が苦労したんだから、下の奴らにもその苦労を味あわせないと気が済まない連中は一定数いるしね。先輩にいじめられて、いざ自分が先輩になると、やっぱりいじめる。


 悪しき伝統滅ぶべし。


 最新の理論がその人に合ってるかどうかは分からないし、結局やってみないと分からないってのは事実なんだけど。


 でも無駄な事はするべきじゃないよね。

 歩幅まで合わせてランニングとか絶対いらないもん。


 「この弾呉兄弟の一年生ピッチャー。パンにそっくりだよね」


 「左のサイドスローもどきか」


 似てるかぁ? 俺のなんちゃってトルネードを採用してないじゃないか。あれの意味は特にないけど、俺的には勢いがついてると思ってる。マインドコントロール大切。


 「球種もカーブ、スライダー、チェンジアップ。MAXは130後半だけど、成長したらパンみたいに厄介になるかもね」


 「130後半って。俺の一年の時と大した変わらないじゃん」


 全然知らなかったけど、めっちゃ優秀じゃん。俺の入学したての時と変わらん。

 俺はすぐにMAX更新したけど、それでも一年で130後半は将来有望すぎるでしょう。


 「って事はバッピは俺が中心かな?」


 「エースも左だしね。そうなるんじゃないかな」

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