第213話 部活対抗リレー


 「時は来た!! 者共! 準備は良いか!!」


 「「「「いえっさー!!」」」」


 日曜日の関東大会で結構活躍したのに、あんまりチヤホヤされなかった豹馬君。

 しかし、その二日後。

 俺達とシニアから一緒のメンバーは、今までに見た事がないような団結力を発揮していた。


 五月下旬。

 そう。体育祭である。



 龍宮高校の体育祭は平日に行われる。

 スポーツに力を入れている事もあり、土日だと部活の大会等で参加出来ない生徒が出てしまうからだ。まぁ、平日に大会がある事もあるんだが。

 明後日の金曜日は試合ですし。おすし。


 何故俺達がこんな団結力を見せているか。

 スカしてる隼人やレオンもいつもとは違い、並々ならぬやる気を見せている。

 それは何故か。


 「今年こそ! 陸上部とサッカー部には負けられん!! 去年、負けた後の屈辱を思い出せ!! あの顔を思い出せ!!」


 「「「「さー! いえっさー!」」」」


 部活対抗リレーというものがある。

 名前の通り、部活毎に足の速い選手を6人選出して、順位を競うというシンプルなものだ。

 そして、去年の我が野球部の成績は3位。


 別に勝ったからといって、何がある訳でもない。

 部の予算がアップされる訳でもない。そんなの、陸上部が大体勝つから不公平だし。

 

 しかし俺達には勝たねばならない理由がある。


 「おーおー。弱者の野球部が吠えておるわ」


 「くくくっ。今年も陸上部が勝ちを頂く」


 「然り然り」


 これだ。教室のど真ん中で椅子の上に立ち、レオン達に喝を入れてると、去年一位の陸上部の連中がやってきた。


 「待て待て。今年はサッカー部が勝たせてもらう」


 「甲子園に行ったからって、短距離で俺達に勝てると思うなよ?」


 そしてそれを見たサッカー部の連中が聞き捨てならぬとばかりにやってきた。

 こいつらは去年二位である。


 去年はこいつらに屈辱を与えられた。

 負けた後の嘲笑は忘れられない。

 今年こそ。そのにやけた面にガツンとやってやらねば気が済まないのである。


 「ふっ。今年の野球部は一味違う! 今のうちに勝者の気分に浸っておくが良い!」


 「くくくっ。口だけは達者だな」


 「結果が全てだ。今日の午後には誰が勝者かはっきり分かるだろうよ」


 俺、陸上部、サッカー部で教室の中央で火花を散らしていると、担任が教室に入って来た。



 「おーい。お前達。そろそろ入場の時間だぞー。馬鹿な事をやってないでさっさと準備しろー」


 「「「はーい」」」


 因みに俺達の仲は良好である。


 リレーのメンバーは以下の通り。

 ウル、レオン、大浦、速水、キャプテン、隼人。


 あれだけでかいことを言ってたのに出ないのかって? 俺は足が速い訳じゃないので。

 平均より少し速いレベルです。


 部内トップ6を選出したガチ陣営。

 これで負けたら言い訳のしようがない。

 負けられん。負けられんぞ。


 「いや、普通に陸上部に勝つのは無理だよね。インハイでベスト4とか言ってたよ?」


 「正論なんて聞きたくありません」


 まもなく始まるレースをタイガと見てるんだが、物凄い正論パンチを頂戴した。

 スポーツに絶対はないんです。俺がごく稀にホームランを打つように。チャンスは誰にでもあるはずなのだ。


 そしてリレーが始まった。


 「いけー! 速水ー! ぶっちぎれー!!」


 第一走者は速水。

 一年にスタートを任せるのはプレッシャーが凄いだろうが、中々どうして頑張っている。


 「いや、陸上部速すぎ」


 速水は速い。だが、それ以上に陸上部が速い。

 なんとか食らいついて二位でバトンを次の走者へ。そのすぐ後ろにはサッカー部、バスケ部、テニス部と続く。


 「よしよし。差が縮まってるんじゃね?」


 「大浦って足速いよねぇ」


 第二走者の大浦がじわじわと陸上部との差を詰める。そしてサッカー部以下との差は広がる。

 そこからレオン、キャプテン、隼人と走者を繋いでいくが、ずっと二位。

 抜けそうで抜けない。インハイベスト4は伊達ではあるまい。


 しかし普通のリレーは四人でやる。

 付け入る隙はそこだ。部活対抗リレーは六人。

 なんかいつもと違うから連携とか崩してくれないだろうか。そんな淡い期待を抱きつつ、最後の走者ウルヘバトンが渡る。


 「ウルさん! やっちゃってくだせぇ!」


 陸上部との差は2mほど。

 しかし、陸上部のアンカーを任されてるぐらいだ。いくらウルといえども簡単には抜かせない。


 「やっぱり陸上部はつえーや」


 「ここまで追い詰めただけでも大金星だよ」


 結局ウルが微妙に差を縮め始めた所でゴール。

 残念ながら今年も一位を取れず。

 二位でフィニッシュである。

 そして、その後にバスケ部、テニス部と続いて…


 「あれ? サッカー部は?」


 「途中でこけたみたいだよ」


 何やってるんだあいつらは。

 リレーの場面でファールをもらう練習でもしてたのかしら?

 よし。帰ったらあいつらを『やーいやーい! ネイマー○!』って煽ってやろう。

 

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