第196話 覚醒一二三VS大天狗豹馬


 今日はこれで最後って事で、部員の全員が俺達の戦いを見守る。

 一二三少年は満面の笑みだ。これだけ見られても物怖じしないらしい。


 「ふむ」


 マウンドに立って一二三少年を見る。

 なんか風格的なサムシングがあるような。

 まるで中学の頃、頭角を現し出したレオンを見てる感覚。


 「つまり油断は出来ないと」


 キャッチャーはプリンス。

 タイガは戦いを俯瞰で見たいらしく、交代していた。どんなサインを出すか気になるし、とりあえずはプリンスのリードに従おう。


 「ほう。俺好み」


 初球はインハイへのストレート。

 一番ボールが速く見えるコースだな。


 俺は頷いて構えた所にしっかり投げ込む。

 多分、投げた感覚的に150キロは超えてると思う。しかし、一二三少年はそれにしっかりと反応。

 ボールは前に飛ばなかったが、真後ろへ飛んでいった。タイミングはばっちり合わせられている。


 「生意気な」


 一二三少年はバッターボックスを外して、何回か素振りをしている。自分の中でさっきの球をどう打つか反復してるんだろう。

 後何回か投げれば本当にアジャストしてきそうだな。


 「しかし、俺は勝つ為に手段を選ばない男」


 二球目はアウトコースへチェンジアップ。

 ストレートを意識し過ぎなんじゃなかろうかと俺とプリンス君は思った訳ですな。


 一二三少年は泳ぎながらも片手一本でバットに当てる。頭に無かった球だろうにそれも当てるのか。

 一塁ファールゾーンに転がった球をみて少し驚く。今のは一応空振りを取りに行ったんだけどな。


 「しかし追い込んだのはこっちだ。じっくり料理してやる」


 俺は基本的に無駄球を投げずに追い込んだらすぐに勝負する。

 レオンとかが相手ならまた話は別になってくるけど。あいつはしっかり布石も込みでやらないと抑えられないからな。

 一二三少年はレオンと同等と見た。敬意を持って俺の全力で抑えてやる。


 三球目。

 アウトコースへのボール一個分ほど外したナックルカーブ。

 若干の反応を見せたが、結局手を出さずにボール。


 そういえば一二三少年はコース関係無しに打てると思った球は全部手を出してくるタイプのバッターだったな。今のは少し危なかったかもしれん。


 四球目。

 インコース低めへのツーシーム。

 ボールからストライクになるフロントドアの予定だったんだけど、少し指に引っ掛かった。

 これじゃあストライクにならん。


 一二三少年は打つ気だったがギリギリでバットを止めた。振ったんじゃなかろうかと審判の父さんにアピールしてみたけど実らず。俺には思いっ切り回ってるように見えたんだけど。

 父さんは真顔で首を振る。あ、これは振ってますね。多分、終わり方が面白くなかったから、振ってない事にしたんだろう。


 「八百長じゃねぇか」


 まぁ、ここは先輩として?

 見逃してあげるけども?

 もし打たれたら俺はその事をぶり返すよ?

 心が広い豹馬君でも勝負には負けたくないのです。


 って事で秘密兵器使います。

 五球目。

 プリンスのサインに首を振りつつ、自分からサインを出す。びっくした顔をしたプリンスに早く構えるように促しつつ足を上げる。


 俺が投げたのはど真ん中への半速球のストレート。130キロぐらいしか出てないんじゃないかな。

 普通なら絶好球だ。

 しかし一二三少年は固まった様に動けなかった。

 見逃し三振で俺の勝ちである。


 「わはははは! これが偶にやると効くんだ! レオンにも通用するからな」


 一二三少年は信じられないような顔をして俺を見てる。うむうむ。気持ち良い。

 その顔が俺を強くする。


 全く意識してないボールを投げられると、どんな天才打者でも固まっちゃうんだよね。

 まぁ、頻繁に出来る事じゃないけどさ。


 「まだまだ後輩には負けんわい!」


 でもこれからは要注意だな。

 レオンクラスと認定して勝負しないと。

 まぁ、龍宮高校が強化されたと思えば、良い事だろう。関東大会に行く事があれば、是非大暴れしてくれたまえ。

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