第158話 春の覇者


 「甲子園優勝か」


 九回表のツーアウトランナー無し。

 カウントはツーボールツーストライク。

 スコアは5-2で龍宮がリード。


 油断してる訳じゃないが、何故かこのタイミングで感慨深くなってしまった。

 龍宮ベンチは歓喜の瞬間を今か今かと待ち望んでいるし、桐生ベンチは諦めずに声を張り上げている。


 俺は一度プレートを外す。

 観客からはドッとため息が漏れた。


 「緊張してる訳じゃないんだけど」


 なんとなく深呼吸してから投げたくなった。

 春のセンバツとはいえ、全国制覇。

 嬉しいに決まってるじゃんね。一応中学の時に世界制覇もしてるけど。

 やっぱり甲子園は格別か。


 俺は大きく深呼吸をした後、タイガのサインを確認する。

 俺は何度か首を振り、そして頷く。


 相手バッターの肩に力が入ってるのが、マウンドからでも良く分かる。

 最後のバッターになりたくないんだろう。俺も逆の立場ならそうなるかもしれない。


 「いや、俺には代打だろ」


 俺は少し自笑しながらも足を上げる。

 俺が最後に選んだウイニングショットは。


 「残念。チェンジアップでした」


 甲子園優勝を決める大事な一球。

 傲慢な俺が何度か首を振り、最後に投げたいのは誰もがストレートだと思った事だろう。

 甘い甘い。勝てば良かろうなのだ。


 バッターは明らかにストレート待ちだったんだろう。あまりにも来ないボールに尻餅がつくほどの空振り。ゲームセット。優勝だ。


 俺は左手を天に突き出し、高々とガッツポーズ。

 カメラマンの皆さん。シャッターチャンスですよ。カッコいい画をお願いしますね。


 内野外野、ベンチからもみんなが飛び出してきてマウンドに集まる。


 「わはははは! 優勝じゃーい!」


 こうして、春の甲子園は龍宮高校が優勝という、最高の結果で幕を閉じた。




 閉会式。

 その前に軽く取材やらなんやらがあったけど、無難にこなせたと思う。

 流石の俺も甲子園優勝は嬉しいので。

 高校球児らしく満面の笑みで受け答え出来たはずだ。


 他にも監督やらレオン、大浦、キャプテンにも取材陣は殺到。

 誰もが笑顔で嬉しそうである。


 そして優勝旗をキャプテンが受け取り、優勝杯は清水先輩が。

 これから学校に持ち帰ってしっかり飾ってくれるだろう。


 「優勝したなぁ。夏も欲しかったけど」


 「今年優勝すればいいじゃん」


 まっ、それもそうか。

 出来れば北條先輩に優勝旗を持たせてあげたかったなって思うけど。

 あの人は結局、全試合応援してくれたからな。

 大学の方は大丈夫なんだろうか。



 球場から出ると、応援団やベンチ入り出来なかったメンバーが出迎えてくれる。


 「優勝したらやる事は一つ」


 「わははは! 胴上げじゃー!」


 優勝したら胴上げ。東海道中膝栗毛にも書いてある。十返舎一九さんも分かってらっしゃるな。


 「怪我せんようにやれよー」


 帽子を真上に放り投げて、胴上げ開始。

 まずは他人事のようにしていた監督からだ。


 「その立派なビール腹を放り投げてやるぜー!」


 わっしょいわっしょいとみんなで楽しく胴上げをする。


 「夏もこのまま突っ走るぞー!」


 俺達の戦いはこれからだ!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 って事で、第6章の春の甲子園編は終了でーす。

 ここまでご覧頂きありがとうございました。


 当初の予定では、人気が出なかったらここで打ち切りにしようとしてました。

 しかし、ありがたい事に結構なご評価を頂いておりまして。

 まだ、更新を待って下さる読者様がいるので、ここまま連載を続けようと思っています。

 いつも応援本当にありがとうございます。

 これからも豹馬君達の物語をよろしくお願いします。


 次話は掲示板です。

 それと、閑話をいくつか挟んで、2年生編へ進みます。

 新入生が入ってきたり、かなりわちゃわちゃしそうな予感…。

 作者にまとめ切れるか不安ですね、はい。


 それとフォローや☆の評価がまだの方は是非お願いしますー。

 モチベーションになりますのでー。


 ではまた次章で〜。

 

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