第153話 VS桐生5


 「あー、これは追いつかないな」


 4番が打った打球は前進守備をしていたセンターの後方へ。

 いくらウルが俊足といっても、これは無理だ。


 打球はバウンドしつつもフェンスまで到達して、二塁ランナーが帰ってくる。

 とりあえずこれで同点。打ったランナーは三塁まで到達。


 「前進守備が裏目にでたな。普通の守備位置ならウルが追いつけたかもだし、無理でも二塁で止めれてた」


 「結果論だけどね」


 それはそう。でもタイガは悔しいだろうな。自分のサインのせいとか思ってなけりゃいいけど。


 「ってか、まず打たれたのはキャプテンの失投だろ。多分スプリットが抜けたんだろうけど」


 「ほぼど真ん中の半速球って感じだったもんね」


 桐生が執拗に揺さぶってきた結果が最高の形ででたな。こっちは最悪だけど。失投を見逃さず打った相手の4番もお見事。


 「まぁ、打たれたもんは仕方ない。ここで切り替えて後続を抑えれるか」


 まだ四回だし同点だ。うちの打線ならどうとでもなるはず。気落ちせずに抑えてほしい。

 そう思ってたんだけど。


 「綺麗に打たれたな」


 5番にレフト前ヒットを打たれて逆転された。

 今回のボールは悪くなかった。ただただ打った5番が上手かった、


 「落ち着いてるように見えるし、大丈夫だと思いたいけど」


 6番をセンターフライに打ち取り四回表が終了。

 2-1と桐生が一点リードに変わった。

 甲子園は大盛り上がり。かなり良い試合だし、緊迫感のある展開だからな。

 観客はハラハラドキドキで楽しいだろう。



 「打たれたー。すっぽ抜けたー。やらかしたー」


 キャプテンはベンチに戻ってくるや、すぐにタオルを顔に置き愚痴を吐き出している。

 俺と金子も様子を見る為にベンチから戻ってきたんだけど、心配はいらなかったみたいだな。


 「疲れは大丈夫っすか? 揺さぶりをかけて消耗させられてると思いますけど」


 俺はスポドリを渡しつつ話しかける。

 近くでみると、やっぱり少し疲れてそう。


 「うーん。ここまでハードだとは思ってなかったかな。まだ投げれるけど。譲らないけど」


 おお。やる気メラメラじゃん。打たれた事を根に持ってるご様子。


 「俺と金子は準備完璧なんで、いつへばっても大丈夫ですよ」


 「はぁー? へばらないしー? 疲れてないしー? 今日は完投するしー?」


 なんだなんだ。キャプテンが俺みたいに馬鹿な子になってるぞ。本当に大丈夫か? 頭どっかおかしくなってない?


 「あー落ち着いてきた。ムカつくなー。なんであそこでスプリットが抜けるんだよー」


 落ち着いてないじゃん。なんかキャプテンの情緒が不安定だぞ。


 「まぁ、うちの打線がすぐに取り返してくれますよ。失点の反省は試合が終わってからにしましょう。今は切り替えて、打線が点を取ってくれるまで踏ん張る事が重要です」


 「わかってますぅ。頑張りますぅ」


 えぇ。めんどくさぁ。キャラ崩壊してるよ。

 普段のタイガはこんな俺を相手してくれてたんだな。この立場になると分かる。

 かなりめんどくさい。今度からもっとタイガには優しくしよう。愛想を尽かされないようにしないとね。

 態度を改める事はしないけど。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る