第141話 次戦の相手はまさかの


 「センバツ初出場でベスト4って普通に頑張ってるほうだよな」


 「僕達の他にもう一校あるなんてね」


 準決勝の相手はまさかの21世紀枠の公立校。

 富山の凍見高校で、部員も少ない中での勝ち上がりだ。


 「かなり綱渡りな勝ち方をしてきてるけどな」


 「勝ちは勝ちだよ」


 間違いない。結果が全てですわ。

 3-2、2-1、3-2と全部の試合を一点差で切り抜けてきている。


 「全部逆転勝ちなんだよね。試合が進むにつれて打率が上がっていってる」


 「なんで? 前半は癖とかでも探してるの?」


 なんでだろうね? 見た感じ特に変わった事はしてなさそうなんだけど。


 「応援だろう」


 俺とウルが映像を見ながらうんうんと唸っていると、レオンが横から口を挟んできた。


 「応援?」


 「日本人は判官贔屓が好きだからな」


 あー、なるほどな。

 そういうことか。接戦で試合が進むと、甲子園全体が凍見の応援に回るんだろう。

 21世紀枠で部員数も少ない健気な高校球児。

 いかにも甲子園おじさん達が好きそうなシチュエーションじゃん。


 「って事はまた俺達はアウェイかな」


 「いつも通りじゃーん」


 ウケが悪いからね。次の試合、先発する人は甲子園全体が敵と思って投げないといけないのでは?

 ここまで勝ち上がった事で少しはファンを獲得したと思いたいが。

 レオンのホームランとか俺の完全試合とか。

 応援したくなる層もいると思うんですよ。


 「次の先発俺かなー? ここで抑えたりして悪者になったらどうしよう」


 「自信過剰だね」


 過剰ではない。事実だから。甲子園の豹馬君はノリノリであります。

 まっ、手を抜くなんて失礼な事はしません。

 抑えた結果、悪者になるならそれはそれで良し。

 ヒール路線も悪くないだろう。



 ☆★☆★☆★


 凍見高校の宿舎にて。

 野球部のメンバー全員で次の試合で当たる、龍宮高校の試合映像を見ていた。


 「監督。次の試合は流石に無理じゃないです?」


 「それな」


 見ている映像は、豹馬が先発していた試合。

 圧巻のピッチングに改めて驚く。

 本当に同じ高校生なのか疑いたくなるレベルだ。


 「今までは小賢しく勝ちを拾ってきたけど、今回は小細工が通用するとは思えんな」


 「まず、塁に出れるか怪しいっす」


 「それな」


 凍見高校は徹底したスモールベースボールでここまで勝ち上がってきた。

 しかしそれもランナーが出れないと、そもそもの作戦を立てようがない。

 監督と選手達は唸りながらも映像を見続ける。


 「いや、それよりも問題は打線じゃないですか? 誰があの上位打線を抑えられるんです? 三波はもしかしたら投げてこない可能性があるわけで。こっちの対策の方が急務だと思います」


 三波じゃなくても、三井か金子が出てくる訳だが。それは置いておいて。


 「1番〜6番までがやばいよな。東京大会の記録とかほとんどの人が4割超えだぜ」


 「この3番の浅見は甲子園で既に三本打ってるんだぞ。4番も二本打ってるし。5番は得点圏打率がおかしい。8割ってなんだよ。とりあえずクリーンナップは全員おかしい」


 「1.2番も出塁率高いし、6番も長打が期待出来ると。なんでこれだけ揃ってるんだよ。新設校なんだろ?」


 「それな」


 「監督。さっきから「それな」しか言ってません」


 「ごめんな」


 やいのやいのと、分析がもはや愚痴になってしまっている。

 結局、その日は愚痴混じりの映像解析だけで、特に攻略法を見つけれずに終わった。

 監督もため息吐きつつ、なんとか糸口を見つけようと四苦八苦していたのだが。


 「強すぎるんだよな」


 単純な実力差とは非情である。

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