第135話 三回戦の相手


 「次の試合、先発は金子な」


 「え? 俺ですか?」


 三回戦の相手が決まった。

 江陵高校。神宮でも当たって8-2で勝ち、金子は完投している。


 「舐めてる訳じゃないけど、前回投げ勝って自信もあるやろ。一回甲子園の先発の空気も知っといてほしいしな」


 「が、頑張ります!」


 金子の野郎。まさか中継ぎはあっても、先発はないと思ってやがったな?

 俺が完全試合した後の試合って事で、プレッシャーはやばいだろうけど。

 キャプテンが居なくなったら、俺と金子で盛り立てていかないといけないんだから、ここらでバシッと更に自信をつけてほしいもんだね。



 「展開によっては、三井か大浦に投げさすからな。大浦は試合の合間にブルペンでの練習もしといてくれ」


 「うっす!」


 おやおや? 豹馬君は完全休養ですか?

 完投したとはいえ、100球ぐらいしか投げてないからやる気はマックスですよ? 肩肘も軽いし。

 それに、豹馬君フィーバーが起こってるうちに、もっとアピールしておきたいんだが。


 そんな感じの意図を含んだ視線を監督に向けてアピールしたんだが、華麗にスルーされた。

 どうやら出番無しになる模様。


 「豹馬はブルペンで野次馬と遊んどけや」


 「遊んでた訳じゃないんだけど」


 諦めずに抗議の視線を向けてもダメだった。

 次の試合はベンチを盛り上げますかね。




 試合前日。

 投げる予定がないから、調整が楽ですわーなんて思いながらソシャゲをしていると、金子がやってきた。

 どうやら緊張して寝れないらしい。


 「なんでそこまで緊張するんだよ。神宮では投げ切ったじゃん」


 「それはそれ。これはこれだよ。神宮と甲子園じゃ全然違うんだよ」


 神宮も全国大会なのだが。

 まぁ、俺もあの時はやる気無かったりしてたから、あんまり人の事は言えないんだけど。


 「大丈夫だって。自信持てよ。お前は充分凄いピッチャーだ」


 そう言って、アイポンを操作して掲示板を見せる。神宮辺りのスレッドを見せてやれば、自信もつく事だろう。

 掲示板民には何故か金子のウケが良いからな。


 「へぇー。掲示板って初めて見たよ。豹馬はいつも見てるの?」


 「結構な頻度で見てるな。面白いし、承認欲求を満たせるし」


 そんな事を話しながら、黙々とスレを読み進める金子。俺のじゃなくて、自分ので見せてやれば良かった。暇じゃんね。


 「カーブマスターってここで言われてたんだ」


 「そうだな。それを俺が部内で広めた訳だが」


 緊張して青い顔をしていたが、段々とリラックス出来てきたらしい。

 やったな、掲示板民。お前達の声が本人まで届いたぞ。これでもう便所の落書きなんて言わせねぇ。


 「うん。うん。ありがとう。なんか元気出てきたよ」


 「そりゃ良かった。書き込みをしてる人達も喜ぶだろうさ」


 すっかり晴れやかな顔しちゃって。

 まぁ、緊張がほぐれたなら良かった。


 「よし! 今なら寝れそうな気がする! ありがとう豹馬! おやすみ!」


 「はい、おやすみー」


 金子は元気良く部屋に戻っていった。

 緊張する性格は損だねぇ。

 俺のメンタルは超合金で良かったぜ。


 「俺も書き込みしておこうかな。あ、でも金子の事を書くと明日先発ってバレるかも? こんなのを相手校が見てるとは思わないけど、迂闊な事は控えるべきか」


 ネットリテラシー大事。

 これからどんどん過激化していくからね。

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