第6章 春到来
第119話 出発
甲子園への出発前夜。
俺は洗面台の前で一人唸っていた。
「ふーむ。失敗したか? これなら前の方が似合ってた気がする。いや、ありっちゃありか? 分からんな」
甲子園へ向けて気合いを入れようと、髪の毛を染めていた。
他の染めてるメンバーも乗り気だったので、学校帰りにみんなでドラッグストアに寄り、ワイワイと楽しんだものである。
積極的に高野連に喧嘩を売っていくスタイル。
良いと思います。
「インタビューでも言われたもんなぁ」
初の甲子園出場って事で、甲子園が決まってからそれなりに記者の人達が学校に来たりしていた。
自由過ぎる校風に驚いてたし、髪の毛の事についても色々聞かれた。
反対っぽい記者に、甲子園に行くならしっかり染め直した方が良いって言われたので、言われた通り染め直している。
記者の人は黒く染めろって事を言ったんだと思うけどね。
「他のみんなはどうなったんだろ。明日会うのが楽しみだ」
新幹線で東京から新大阪へ。
その道中にて。
「赤坊主って…。桜木花○かよ」
綺麗に染めたもんだなと、隼人を見る。
まさか坊主にしてくるとは思わなかった。
「パンが金髪にしてくるって言うからよぉ。被るのは嫌だし、丁度髪も切りたいと思ってたんだよ。これなら目立つだろぉ?」
目つきが悪いからチンピラにしか見えないね。
彼女さんは、それに納得したのかね? え? 大好評? はいはい、爆発爆発。
「なんか気合い入れるってなると金髪が増えたな。くそっ。隼人が正解だったのか? これじゃあ俺が埋もれてしまう」
俺、タイガ、ウルが金髪である。
しまったな。考える事が馬鹿と一緒じゃないか。
俺も馬鹿と思われてしまうのでは? ……こんな髪型してたら今更か。
他のみんなは茶髪が多い。無難な奴らめ。
俺も染める前は茶髪だったから、人の事言えないが。
「これでとりあえず始まる前から目立つ事間違い無しだな。後はしっかりとプレーで魅せるのみ。一回戦負けとかしたら大恥だぞ。良いプレッシャーになるな」
「パンの金髪って思ったより普通だね? なんか違和感がないっていうか…」
「身長のせい? 僕は日本人の平均身長より、ちょっと高いぐらいだけど、パンは大きいからねぇ」
身長は関係ないでしょうよ。
まぁ、言いたい事はなんとなく分かるけど。
「逆にレオンの黒髪が目立つな。その手があったか」
「迷ったんだがな。みんな染めるならこういうのが居ても目立つだろうと思ってな」
小賢しいやつめ。そういう作戦は俺にも教えろよな。お前だけ目立つなんて絶対許さんぞ。
そうこうしてる内に、新大阪に到着。
そこからバスでいつも、東京組が使ってる宿舎へ。既に記者が待ち受けていたので、軽くインタンビューを受ける。
前から思ってたけど、高校生にこういうの求めるのってどうなんだろうな。
プロじゃあるまいし、スルーしても良いと思うんだけど。写真だけでよくない?
「ネットで早くも注目を集めてるねー。三波勝弥のドラ息子とか、良く知らない人達が叩いてるよ。多分試合も見た事ないんじゃない? 背番号が15だから親の情けでベンチ入りとかもちらほらあるし」
「わははは! ドラ息子!! わははは!」
マリンが早速宿舎で寝転がってスマホでSNSでサーチしたらしい。
ドラ息子ってなんだよ。タイガ爆笑しすぎ。
「結果で黙らせてやんよ。俺やってやんよ」
まぁ、そういうのはある程度予想してました。
そういう奴らは結果を出したら一気に掌を返すから。試合が終わった後が楽しみだね。
まぁ、初戦の先発は俺じゃないんだけど。
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