第109話 休息
寮の中は地獄の有様だ。
まともに笑ってる人間はウルしか居ないんじゃないかな。
あいつちゃんと練習してる? サボったりしてない? この状態で笑えてるなんて絶対おかしいと思うんだよ。
今日も今日とて、ゾンビの様に歩きながら食堂に向かう。
12月24日。クリスマスイブ。
練習は早めに終わると言っていたから、なんとか乗り切りたい。
「はーい、注目ー。今日と明日は豹馬の家のジムに行くぞー。プールでゆっくり泳いで終了や。3km目安に泳いでもらうでー」
ほう。プールとな。
確かに全身筋肉痛がひどすぎて、まともに動けるかも怪しいから助かる。
クリスマスイブとクリスマスは客も少ないからな。
時間も早いし、良いんじゃなかろうか。
「ゆっくりやっても午前中には終わるやろ。そこからは自由行動やけど、ハメ外しすぎんようにな。不祥事とか以ての外やぞ。21時までには寮に帰ってくるように。ほな、行くでー」
午前中で終わるだと。天国かよ。
気合い入れて頑張ろう。
「プールもなんだかんだきついんよ」
3kmなんて余裕っしょ、とか思ってた自分をぶん殴りたい。
筋肉を傷付けないようにゆっくりと泳いでるのに思った以上に体力を持っていかれた。
「ぜひゅー。ぜひゅー」
金子が瀕死寸前です。
それでもなんとかやり切ったのは凄いね。
泣きそうな顔してるけど。
「はい、終わった奴から解散でいいぞー。明日もおんなじ様にやるからなー。今日明日でなんとか筋肉痛をぬいてくれよー。26日から30日までまた追い込むからなー」
それ、なんの地獄宣言?
「あーねむっ。集中できん」
現在寮に戻って来て、冬休みの宿題を黙々とやっている。
お前、イブなのにデートはどうしたのかって?
渚ちゃん、今日撮影のお仕事があるみたいで…。
なので、悲しく勉強をしてるという訳です。
明日はご飯行けるみたいなんで良いんですけどね!
「仮眠するべきか。でも今寝たら起きれなくなる可能性が高い」
しかし、体は睡眠を欲してるのだ。
思えば、この冬休みまともに休んでないし、ここで寝てもバチは当たるまい。
宿題も量が多い訳でもないし、今日やらなければならない事でもない。
「よし! 俺は寝るぞー!」
これで夜寝られなくなるんだよな。
目が覚めたら朝とかになってくれんもんか。
何かとても大事な事を忘れてる気がするけど、眠過ぎて頭が回らん。
☆★☆★☆★
ピンポーン。
「はーい! ウル君! いらっしゃい!」
「今日はお邪魔します」
今日はクリスマスイブでウル君とお家デートだ。
もう残念ながら夕方だけど。
ウル君がどう思ってるかは分からないけど、私はデートだと思っている。
練習が終わって、一旦家に帰って着替えてきたのか、かっこいい私服になっている。
「今日の神奈ちゃんの服も可愛いね」
「ありがとうございます。渚に選んで貰ったんです! ウル君も似合ってますよ!」
「あはは。僕はパンに選んで貰ったんだ」
そういえば、結局お兄ちゃんは家に帰って来なかったな。
絶対邪魔しに来ると思ってたのに。
パパもうるさそうだから、ママにお願いして遠ざけてもらった。
今日はママとデートしてると思う。
「神奈ちゃんの手料理を食べれるなんて、楽しみだなぁ」
「そ、そんなに期待しないで下さいね!」
ウル君からクリスマスの予定を聞かれた時は、舞い上がっちゃったけど、その日も練習はあるみたいで遠出は出来ない。
つい、冗談で手料理でも作りましょうかって言ったらウル君がその気になっちゃって。
引くに引けなくなって、結局今日を迎えちゃった。
ママとレオン君のママに及第点は貰ったから大丈夫だと思うんだけど…。
「じゃあ、料理持って来ますね!」
「何か手伝う事はある?」
「もう準備出来てるから大丈夫です!」
お昼から準備してましたからね。
用意は万端です。
温め直して提供するだけ。
ローストチキンやピザ。
ビーフシチューに簡単なスイーツ。
重たい食べ物ばっかりだけど、ウル君はお肉が大好きだと聞いてたから大丈夫だと思う。
「うわー! 豪華で美味しそうだね! 写真撮って良い?」
「良いですよ! 恥ずかしいですけど」
ウル君は目をキラキラさせて、写真をパシャパシャと撮る。
ここまで喜んで貰えるとやっぱり嬉しいですね。
「いただきまーす! おいしー!!」
「本当ですか!? 良かったです」
「神奈ちゃんは良いお嫁さんになりそうだなぁ」
満面の笑みでパクパクと料理を食べてる姿を見るとこっちまで幸せな気分になってきますね。
良いお嫁さんさんですか。
なんの気もなく言ったんだと思うけど…私はその気になっちゃいますよ?
これは責任とって貰わないとダメですね!!
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