第107話 やはりバケモノ


 「じゃあ、豹馬と大浦君は肩作っててくれ。俺はこっちでレオンに教えとくから」


 「あいよー」


 「了解っす!」


 室内練習場に着くと早速父さんは指導を開始した。

 レオンはいつも通りっぽいが、やっぱり少し不安そう。

 そんな姿をみるのは新鮮ですな。


 「飯食ったばっかりだから、体が重いなぁ」


 「分かるっす。あんまり動きたい気分じゃないっすね」


 レオンがパワーアップするなら協力するけどさ。

 ガチで投げる訳でもないし、怪我しない程度にアップだけはしっかりしますか。



 「よーし。じゃあとりあえず大浦君からお願いしようかな」


 アップも終わり、父さんも基本的な指導は終えたのかこちらにやって来た。

 レオンはさっきの不安そうな顔から、180度違う自信に満ち溢れた表情をしている。


 「うわぁ。嫌な予感がするなぁ」


 「あんな短時間で、手応えなんて掴めるものかしら? いや、レオンだもんね…」


 そう。レオンなんだよ。

 なんて説得力のある言葉。

 少しは心配してあげたのが馬鹿らしくなってきたぞ。


 「足、もう半歩縮めて。…そう。軸足に体重乗せすぎるなよー。軸の外側に乗せすぎると上手く体重移動出来ないからな。上半身はもうトップを作った状態で。後は手打ちにならないように気を付けて」


 打席に立ったレオンに一通りアドバイスすると、大浦に視線で投球を促す。

 タイガはキャッチャーで、俺とマリンと父さんはネットを挟んでそれを見守る。

 そして、投げられたボールを綺麗に打ち返した。


 「まだ手打ちになってるぞ。打つ時はもっと腰の骨盤を捻るように。芯に当たれば、力を多少抜いても柵越え級の当たりは打てるはずだ」


 俺には良い当たりに見えるんだけど、ダメらしい。

 あれでも手打ちになってるのか。


 「スイングの軌道も変わってるよね? レベルスイングだったのが、アッパー気味になってる?」


 「お! よく気付いたな、マリンちゃん。俺が現役の頃は上から下に叩き付けるダウンスイングが主流だったんだが、最近のトレンドはいかにバレルゾーンで捉えて、長打を増やすかだからな」


 フライボール革命ってやつか。

 あれって打球速度とか条件があったんじゃなかったっけ?

 高校生にその基準は目指せるもんなのかな。


 「大浦君、慣れてきたら変化球も混ぜてくれー」


 「はいっす!」


 レオンのスイングが段々最適化されてきてるような気がする。

 父さんも満足気な顔してるし、悪くないんだろう。


 「うん。まずまずだな。これで下半身が安定するともっと鋭い打球も増えてくるだろう。今は探り探りだから、力も余り入れてないし」


 「力入れてなくてあれなの? 勘弁してくれよ」


 「羨ましいぐらいのセンスね」


 室内だから正確には分からないけど、普通に柵を越えてそうな当たりもぽんぽんと出てる。

 木製バットであれかー。

 この状態で金属使ったらどうなるんでしょうね。



 「よし! それじゃあ豹馬いってみようか!」


 大浦の公開処刑が終わり、次は俺の番。

 父さんの目がギラギラしてるし、なんだか断頭台に上がる気分だな。

 こんなに投げたくないなと思ったのは初めてかもしれん。


 「まっ、流石にフォームを変えたばっかりの奴に打たれる訳にはいかん。気合いを入れて抑えてやる」


 そう意気込んで、俺は高めを中心に攻める。

 アッパーは高めを捉えにくいしな。

 フォームを変えたてなら尚更だ。


 「うーん、段々合ってきてるんだよなぁ」


 15球ぐらいしか投げてないんだが?

 バケモノかよ。バケモノか。バケモノなんだな?


 「豹馬ー! 変化球も混ぜてくれー!」


 「ういー」


 変化球なぁ。

 ノーステップに変えたから、タイミング取りやすくなってるんじゃないの?

 打たれそうだなぁ。


 結果、案の定ツーシーム以外はしっかり打たれた。

 でも、変化球の合間にストレートも混ぜてるからか、ツーシームとの選球が出来てない。


 「うーん。普通なら多少の変化は気にせず持っていけるんだけどな。豹馬のツーシームは、詐欺なんじゃないかってぐらい落ちるから」


 「もはや、スクリューっすよ、あれは。それがストレートとほぼ変わらない球速で投げられるんす。分かってても打つのが難しいっすよ」


 その後も、合計で50球ぐらい投げて終了。

 良い当たりは数えるぐらいだったけど、後半は捉えられてたな。


 「で、どうよ新しいフォームは」


 「悪くない。いや、それどころか手応えもある。始める前は不安だったが、これなら冬の間にモノに出来そうだ」


 バケモノから真・バケモノにレベルアップってか。

 これは俺も負けちゃいられねぇな。

 練習に対するモチベーションがギュンギュン湧いてきたぜ。



 「今日はここまでにしようか。時間も遅くなってるしね。今日はこれで解散で。レオンと渚ちゃんは、お母さんが車で出勤してるから帰りは一緒で大丈夫だよね? タイガ君とマリンちゃんは俺が送っていくよ」


 「「ありがとうございます」」


 さてさて、風呂入ってしっかりクールダウンしますかね。

 明日からは、勉強もあるけど猛練習だ。

 このままではレオンに置いていかれてしまう。

 管理者にチート貰ってるのに情けないぜ。


 俺は自分のレベルアップの事を考えるのに必死で渚ちゃんをクリスマス誘う事をすっかり忘れていた。

 

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