閑話 両親
「何か、特に波乱もなく甲子園出場を決めたな」
「そうねぇ」
豹馬の両親、勝弥と沙雪は家のリビングで二人今日の試合を思い返す。
試合に勝った時は人目を気にせず泣いてしまったが、時間が経つと少しは冷静になる。
「あの豹馬が甲子園か。子供の成長は早いなぁ。ついこの間までこんなだったのに」
「ふふっ。今ではあなたより大きいわよ」
勝弥が自分の腰辺りに手をやり、豹馬の小さい頃のやんちゃぶりを思い出す。
「2歳ぐらいから一人でボール投げたりして遊んでたもんなぁ」
「あなたの真似をしてたんでしょう。小さい頃から物覚えも良い子で、手の掛からない子だったわ。初めての子供だったから不安だったんだけど」
「その割には、ガラスは何枚割られたか分からないぐらいやられてるがな」
「あれは、あなたも悪いのよ? 野球に興味がありそうなのを良い事に一緒になってやってたんだから」
「まぁ、そのお陰で広い家に引っ越す為にもっと良い成績を残して頑張ろうって思えたんだ。年俸も上がって結果オーライだろ?」
「物は言いようですね」
二人して笑いながらお酒を飲み交わす。
現役時代はオフシーズンにちょびっとしか飲めなかったお酒だが、今は健康を阻害しない程度には嗜む。
「豹馬はもうプロでも十分通用する投手になってると思う。何故打者じゃないんだと今でも思うがな」
「あら? あなたは豹馬ちゃんにはまだ負けてないわよ?」
「なんでだろうな。流石に40歳も超えて、体も色々ガタが来てるんだが。何故か、豹馬が投げてくるボールが分かるんだよ。癖とかでもなく。そのお陰で打てているが、投げてくる球種が分からなかったらもう豹馬には勝てないよ」
「父としてどこまであなたが壁でいられるかしらね。レオン君もいる事だし。才能に溺れる事なく頑張って欲しいわ」
「同級生にレオンがいたのはお互いに取って幸運だろうなぁ」
甲子園出場を決めた息子を酒の肴に会話が弾む。
それからも、豹馬の事や神奈の進学について話ながらお酒を飲んでると渦中の人間が帰ってきた。
「たっだいまー!」
「ただいまー。あー! ママ達もうお酒飲んでるよ!」
「ちょっと待ちなさい、神奈ちゃん! さっきの話はまだ終わってませんよ! ウルとまたデートだって? お兄ちゃん許しませんよ!」
「私もジュース飲もーっと!」
「神奈ちゃん!? 無視しないで!」
祝勝会から帰って来た(神奈は便乗)二人は、いつも通り。
甲子園出場を決めたのを忘れてるかの如く。
「豹馬、甲子園おめでとう」
「おめでとう」
「ん? ありがとう! これで一つ父さん超えは果たせたな! 後は勝負で打ち取るのみ! 最近やっと体に慣れてきた事だし、そろそろ勝てるんじゃないかなぁ!! わはははは!」
「おいおい。ちょっと調子に乗りすぎじゃないか? また鼻が長くなってるぞ? これは念入りに折っておかないとなぁ?」
「ま、まあ? 今日は投げたばっかりで疲れてるし? 1週間後ぐらいにお願いしようかな? わは、わはは! よし! お風呂入ってくる!」
意外と乗り気な父にビビった豹馬は逃げる様に、リビングから出て行った。
「パパ泣いてたんでしょー? お兄ちゃんに知られたらそれをネタに精神攻撃してくるよー」
「盤外戦術でやられるほど、やわな性格はしてないさ。それよりウルとデート? 詳しく聞かせてもらおうか? 場合によっては、ウルは甲子園に出られない体になるかもしれないぞ?」
「はぁー、やだやだ。男ってどうしてこんなに過保護なのかな。ねぇ? ママ?」
「言わなくても良いわよ。恋愛ぐらい好きにしなさい。避妊はしっかりするのよ?」
「私はまだ中学2年だよ!?」
甲子園出場を決めた夜もいつも通り賑やかに。
これが三波家の日常である。
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閑話はこれにて終了。
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