第97話 夢の舞台へ
いよいよ最終回の九回。
8番からの打順で、三高は代打を出してくる。
控えといってもそこは強豪校。
守備がイマイチでも、打撃は一級品の人材が豊富にいるので油断は出来ない。
「緊張しすぎだろ。顔がなんかおかしい事になってるぞ」
マウンドから見るタイガは、かなり緊張してる様に見える。
顔が引き攣るのをなんとか抑えようとしてるのか、凄い馬鹿面に見えるな。
イケメンが台無しだ。
俺はパスボールさえしなければいいやと気楽に投げる。
やっぱり1点じゃなくて、2点リードは大きいな。
ソロホームラン打たれても大丈夫という安心感。
緊張する要素が無いじゃんね。
8番をストレートとチェンジアップで追い込み、ナックルカーブでショートゴロに打ち取る。
相変わらず隼人の守備は安定感があって助かる。
困ったらショート方面に打たせておけばなんとかなるもんね。
9番にも代打を出してくるが、初見で俺のボールを打てるとは思えん。
ツーシームを2球続け、高めに外れたストレートを投げて空振り三振。
タイガは緊張しながらも、しっかりリード出来てるな。
最悪俺からサイン出そうかと思ったけど、心配は要らなそう。
世界大会決勝でもスタメンだったくせに、なんでただの都大会で緊張するのか。
それだけ甲子園って大きいんだろうなぁ。
甲子園、甲子園かぁ。
なんなんだろうね、甲子園って。
なんでこんなに神格化されてるんだろう。
何がそこまで駆り立てるのか。
目指してる俺が言うのもおかしな話か。
とりあえず最後の一人、厄介な柳生を仕留めて終わろうか。
柳生への初球。
ストライクからボール一個分外れていくスラッターをアウトコースへ。
流石の好打者も力んでるのか、空振り。
選球眼も悪くないバッターだった筈だけど、自分が最後のバッターになるものかと気負ってる感じかな?
これなら思ったより簡単に終わりそう。
2球目はボールからストライクになるツーシームをアウトコースへ。
手が出ずに見逃してストライク。
中々苦悶な表情をしてるな。
俺からしたらご褒美だが。
3球目。
このボールで決まるかもしれない。
俺はロージンを指にしっかりつけて振りかぶる。
アウトコースへ、最初からボール一個分外したスラッター。
初球、2球目と外の出し入れでカウントを取った布石もある。
柳生も手を出さざるを得ないだろう。
もしかしたらまたツーシームでストライクになるかもしれないと、なんとか柳生はカットしようとしてきた。
しかし、そこから更にボールは逃げていく。
タイガも後ろに逸らす事なくしっかりキャッチ。
空振り三振でゲームセット。
自然と左手の人差し指を天に突き上げていた。
甲子園だ。
レジェンドの父さんでも行けなかった甲子園。
「パーン!!」
タイガが涙目で駆け寄って来る。
ふはははは!
いつもはツンケンしてる癖に可愛らしいではないか。
内野も外野もベンチの人間も一斉にマウンドまでやって来る。
スタンドを見ると三井先輩も大喜びだ。
既に部を去った、初代ゴリラの北條先輩もいるな。
応援に来てくれてたらしい。
改めて周りを見てると俺も涙が出て来た。
色々理屈をつけてたがやっぱり俺も甲子園は嬉しいらしい。
「でも、北條先輩達とも行きたかったな…」
誰にも聞こえない様にボソッと呟き、試合後の挨拶に向かった。
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