第80話 VS秀徳3


 試合は四回表。

 先頭バッターはクリーンナップの3番レオンから。

 前の回に、ウルがぼてぼての内野安打でツーアウトから出塁して盗塁し、得点圏にランナーを進めたものの、タイガがセカンドフライに倒れて先制点ならず。

 金子も踏ん張ってるし、そろそろ点を取りたい。


 「あ、お兄ちゃんだ!」


 「ん?」


 サプラーイズ!!

 そろそろで肩を作るかとブルペンに向かうと、応援席にプリティエンジェル神奈とビューティフルエンジェルの渚ちゃんが居た。

 なんだなんだ!

 応援に来るなら言ってくれれば良かったのに!

 このツンデレさんめ!


 「ウル君の応援に来たんだ!」


 「あ、左様ですか」


 もう神奈ちゃん、ウルに惚れてるの隠す気ないよね。

 それは良いんだけど、嘘でも俺の応援にも来たと言って欲しかったな…。


 「私はパン君の応援に来ましたよ〜」


 「俺、滅茶苦茶頑張ります!!」


 うおー!!

 やってやんよ! 俺やってやんよ!!

 さーて、気合い入れて肩作るぞー!


 ガキン!!


 「危ねぇ!!」


 ファールボールが俺目掛けて飛んできた。

 あ、レオンさんがこちらを睨んでおられる。

 まさか、わざとこっちに向かって打った訳じゃないよね?

 イライジャ相手にそんな余裕ないよね?


 でも、段々と球威が落ちてる様な感じがするんだよなー。

 毎回20球以上投げさせてるから、多分この回で球数100球は超えるだろうし。

 とか思ってる間に、レオンがセンター前ヒット。

 この試合、初めてノーアウトでランナーが出た。


 4番は確変中の大浦。

 さっきも良い当たりだったし期待が持てる。

 ただ何故か大浦はイライジャを目の敵にしとるからな。

 ムキにならないといいんだけど。


 俺の心配は無用だったらしい。

 3球目のカーブを、大振りする事なくコンパクトに振り抜きレフト前ヒット。

 ノーアウト1.2塁で隼人を迎える。


 俺は肩を作りつつ観客席を見渡す。

 うむ。今日も彼女が応援に来ておるようだな。

 前回の三松学舎との試合でも、打点は上げてたけど珍しくチャンスで力んで凡退してたからな。

 流石に反省してるだろう。


 初球。

 スライダーを打ってファール。


 2球目はストレートを見送りボール。


 3球目はカーブでタイミングを外されてファール。


 あれだな。

 打撃センス皆無の俺から見てもゴリゴリに力んでる。

 いつもより目付きも悪そうに見えるし。

 隼人は、一旦打席を外して深呼吸。

 どうやら、自分でも力んでるのは分かってるらしい。

 なんか、俺の方をチラッとみて何かを呟いた様に見えたけど。


 「あ、やべぇ。俺笑ってるじゃん」


 なんと。

 自分でも気付かぬうちににやけていた。

 人の失敗を笑うとは。

 俺はここまでリア充を憎んでいたのか。


 そして4球目。

 真ん中から落とされたフォークを綺麗に合わせて、センター前にヒット。

 当たりが良すぎてレオンは返ってこれず、ノーアウト満塁の大チャンスである。

 

 一塁に到達した隼人は、俺の方に振り向き中指を立てて見せた。


 あ! お行儀が悪いですよ!

 いくら俺が笑ったのが悪いとはいえ、それはいけません!

 っていうか、俺がにやけてたお陰で力みが抜けたのでは?

 逆に感謝してほしいね!


 俺はプンプンしながら、次の清水先輩に目を向けた。


 

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