第46話 VS三高4


 「んぎぃ! げほげほ!」


 俺とバッターは交錯して一塁ベース付近で倒れ込んだ。

 体勢的に俺が下で上からのしかかられる様な感じで背中を強打し、思わず咳き込む。


 「だ、大丈夫か!?」


 バッターの人がすぐさま心配して声をかけてくれるが、ちょっと大丈夫じゃないですね。


 「んっ! ごほごほ! 背中打っただけなんで大丈夫っす」


 「え? あ、いや、そうじゃなく…」


 「豹馬!! 立てるか!?」


 ファーストのキャプテンも駆け寄って来て手を貸してくれる。


 「大丈夫大丈夫っす! ささっ! 俺のお陰でピンチは凌ぎましたよ! さっさと点取って楽にさせてくださーい!」


 俺はそう言いながらそそくさとベンチに戻る。

 あーやばいやばい。背中痛い。

 なんか変に捻ったかな? 打撲で済めばいいんだが。


 「豹馬、結構派手に転んでたけど大丈夫か?」


 「大丈夫じゃないですよ! 見て下さい、このユニフォーム! 雨のせいでドロドロです! ちょっと裏行って汚れ軽く落としてきますね!」


 俺は戯けながら、ベンチ裏に下がる。

 背中は、まぁいい。問題は踏まれた足首である。

 アドレナリンが出てるだろうにも関わらずズキズキが止まらん。


 「うげぇ。結構ザックリいってるな。よりにもよって軸足かよぉ」


 スパイクの刃で切れたのか血がドバドバでてる。

 こいつは参った。どうやって誤魔化そう。

 とりあえず絆創膏貼って包帯でぐるぐる巻きにしよう。

 俺は救急箱から、絆創膏と包帯を取り出して応急処置をする。


 「よし! とりあえずこれでなんとか!」


 ささっと汚れを落として、シャドーピッチングをしてみる。


 「うぎぎぎぎ! 背中というより、脇腹か! 痛すぎてトルネード出来ん!」


 とりあえずトルネード封印。

 くそっ! せっかくのロマン投法が。


 「そして、足は足で踏ん張れないと。おや? これは詰みでは?」


 どうする? どうする? どうする?


 流石に手投げで抑えれるほど、三高打線は甘くない。

 じゃあここで無理するか? 

 それはどうだろうか? 

 無理してここで頑張って勝っても次は? 

 恐らく俺は投げられないし、三井先輩も投げられないだろう。ベンチに待機する訳でもなく、そのまま病院に向かった訳だし。


 怪我には、前世の事もあって人一倍気を付けて来たつもりだった。

 ちょっとした違和感でもすぐに病院に駆け込んだぐらいには神経質に。

 それなのにこれか。


 「くそったれ! くそくそくそ!!」


 三高バッターを責める気なんてさらさらない。

 普通に野球をやってれば起こり得る事故だし、相手も一生懸命やった結果だ。

 仕方ない事なのだ。

 わざとじゃなければね。違うよね?


 「タイミングが悪すぎんよ。今は無しだろうがよぉ!」


 これで後ろに三井先輩が控えてくれているなら問題は無かった。

 だが、先輩も怪我でいない。


 「厄日だ。あー! くそ!」


 あー、足がズキズキ通り越して激痛になってきた。

 やっぱり無理か。無理なのか。


 「やばい、泣きそう」


 とりあえず、キャプテンと監督には報告に行かないと。

 それに、吉見先輩と金子に肩作ってもらわないと。まだ負けたって決まった訳でもなし!


 「よし、行こう!」


 俺は足を引き摺りながらベンチに戻った。

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