第365話 こちらの様子


 ☆★☆★☆★



 「くっそー。せっかくの祭りだってのによー」


 「くじで決まったんだ。仕方ねぇよ。それに来年は行けなかった奴から優先的に選ばれるんだ。それで我慢しようぜ」


 「でもよぉ。ヴェガ様の新曲のお披露目もあったんだぜ? 生で見たかったよなぁ」


 「それはそう。なんなら毎年祭りの最後に新曲発表でもしてくれないかな」


 「それは良いな。よし! 上司にお願いしておこう」


 人間大陸の『ヴァンピー商会』にて。店番を任された『RSG』の面々は盛大に愚痴っていた。


 人間大陸への派遣はとにかく人気がない。給料はかなり高額で貰えるが、何もかもが不便なのだ。


 誰にも見られない自分達の生活範囲は便利な魔道具やらを導入しているが、それ以外の場所はかなり不便を強いられる。


 「一年って最初聞いた時はすぐに終わると思ってたんだけどな。思った以上に長いわ」


 「これでも最近はまだマシになった方らしい。初期の頃は飯も不味いし、住むところも不潔だったり、毎日お風呂に入れなかったりと、散々だったみたいだぞ」


 「ミネリ長官が陛下に上申してくれたお陰で随分改善したって話だな。それでも不人気な仕事場だが」


 「まあ、俺達は諜報員だからな。あの便利な生活に慣らされた身体には酷だけど、どこにでも潜入出来ないと仕事にならないさ」


 「諜報員だって色々な形があるだろ? 潜入向きの奴もいれば、色んな会話から情報を抜き取る奴のが得意な奴とかさ。俺は潜入には不向きだと思うんだよなぁ」


 二人は『ヴァンピー商会』のバックヤードで駄弁りながら、懐中時計を確認する。そろそろ休憩時間が終わる頃だ。


 「そういえば潜入と言えば『RSG』の幹部何人かはこの国の中枢に食い込んでるらしいな」


 「ああ。親魔王派閥を作る為に色々工作してるらしい。金銀財宝、魔大陸ではもう旧式の、でも人間大陸では便利すぎる魔道具なんかで、懐柔しまくってるらしい」


 「十数年前にあれだけ派手にやった魔王勢力だってのに、そういうので懐柔されるあたり、やっぱり馬鹿はどこにでもいるんだな」


 やれやれと首を振りながら男二人は、バックヤードから店頭へ向かう。『ヴァンピー商会』は、相変わらずの大盛況。


 国の一大事に無償で食料や衣類を提供し、落ち着いた後も良心的な価格で必要なものを売り続けてる事もあって、たった数年で大陸でも有数の商会に成り上がった。


 そして大商会になったからには、色々なコネクションが出来る。この国の有力者と繋がり、徐々に徐々に腐らせていってるのだ。


 『RSG』の面々はこんな面倒な事をしなくても、武力で叩き潰せば良いのではと思ってるのだが、上からの命令なのだから仕方ない。


 きっと何かしらの意味があるのだろうと思っている。


 実際はレトが面白そうだからやっているだけだが。毎回正面から叩き潰しても楽しくないでしょと。


 後は人間の数を減らしすぎない意味合いも一応ある。生活が安定しない事には、出生率も上がらない。まあ、異世界には娯楽があんまりないから、生活に余裕がなくてもおせっせして子供を作ってしまうのだが。


 とにかく減らしすぎたら玩具で遊べないと、減らしすぎないようにしてる訳だ。


 100年で増やして、魔王達が攻めてきて、また100年で増やして。『遊び道具の永久機関や!』とレトは高笑いしていたが、果たしてそんなに上手くいくものなのか。


 そこは『RSG』の働きにかかってるのかもしれない。

 

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