第65話 QBK


 「レト様…」


 グレースが呆れた顔で見てくるので、全力で目を逸らす。

 仕方なかったんや。


 「だって、急に冒険者が来たから」


 QBKってやつですよ。

 俺は悪くない。




 妲己の試運転が終わり、森の一角で休憩していた。

 いつも、影の中で休憩してたから油断していたと言われればそれまでなのだが。

 冒険者が近くまで来てるのに気付かず、呑気に煙草をぷかぷかとふかしていた。


 4人組の熟練者の様なやり手風冒険者がひょっこりと俺達の所まで来たのだ。


 「……」


 「……」


 「ブラッドショット」


 そこからはもう反射よね。

 もう体が勝手に魔法を使ってた。

 我ながら惚れ惚れする様なスムーズな魔力操作。


 「なっ!?」


 「いぎっ」


 「ぎゃっ!」


 「ぐえっ」


 そして俺の目の前には死体が4つ積み上がり、グレースにジト目で見られてるってわけよ。

 ご褒美かな?


 「ほら、最近殺してなかったし? 俺の内なる何かがなんやかんやでこうなったんだ!」


 自分でもなんで言い訳してるのかは分からない。

 その言い訳も意味わからんし。


 「はぁ。別に私は殺した事に関しては気にしてません。レト様ですし。どうせ気分でやったんでしょう。しかし、こうも衝動的に殺すのは困ります。今は周りに誰も居ないから良かったものの、未知の強者に目を付けられたりしたら面倒です。殺人は計画的にお願いします」


 そんなサラ金会社みたいな事言われましても。

 俺が計画的に人を殺した事なんてあったっけ?

 流れに身を任せて、殺りたい時に殺ってるだけなんだが?


 「だって急に冒険者が来たし。その、なんていうか、殺らなければ! みたいな義務感がですね」


 「そういうのはもっと強くなってからお願いします。全く、これが超越者だったらどうするんですか。せめて【魔眼】で確認するぐらいはして下さい」


 「すみません」


 グレースママがぷりぷりしてるので素直に謝っておく。

 確かにこれが超越者だったらやばかったしな。

 妲己の進化が予想以上に強くて、嫉妬でモヤモヤしてのをスッキリさせたかったのかもしれん。

 ……嫉妬もしてないし、モヤモヤもしてなかったから単なる都合の良い言い訳だが。


 「おや? この冒険者達は、中々良い武器を持ってますね。私のサブにしましょうか。あらあら? レト様! 魔道具もありますよ!」


 この女騎士。

 俺に文句を言いつつも、ノリノリで身ぐるみを剥いでやがる。

 それはそれ。これはこれってやつか。

 この変わり身の早さは見習わなければ。


 「なになに? どんな魔道具?」


 まぁ魔道具は嬉しいのでどうでも良いか。

 

 「キュン!」


 「ゴギャ…ゴギャギャ!」


 妲己とアシュラは俺たちの話に興味を示さず、冒険者の首で遊んでるし。

 アシュラも進化のお陰か、リフティングが上手くなったなー。

 その調子ですくすくと育ってほしい。


 「ふーん、初めてみたな。魔法鞄マジックバッグ


 「容量はそんなに大きくないですが、中身は悪くないですね。中々の儲けになりそうです」


 まるで盗賊の様な物言いをするグレースだが、確かに中身は悪くない。

 ここまでの冒険で手に入れたのか、魔石と素材は大量に入ってたし日用品も未使用なのが結構ある。


 「【影魔法】があるから今まで欲しいと思わなかったけど、結構便利そうだな。グレースが使えば?」


 「良いのですか? ありがたい限りですが」


 「今の所【影魔法】で事足りてるし。容量無限とかなら欲しかったけど」


 【影魔法】を維持する魔力を減らせるから。

 その分、攻撃に回したり出来るしね。


 「では、お言葉に甘えて使わせて頂きますね。神聖王国でも魔法鞄は数が少なくて持たせて貰えなかったんです」


 ウキウキで腰に魔法鞄を装備するグレース。

 見た目がポーチみたいだから、ギリギリスーツ姿からは浮いてないな。

 これで、冒険者殺したのも結果オーライという事で。


 「ってか、そんな貴重な魔法鞄を良くこんな弱っちぃ冒険者が持ってたな」


 「タグを見るとBランクみたいなので、弱い事はないと思いますが。まぁでも、運が良かったんでしょうね。ここは迷宮都市ですし。宝箱から手に入れたんでしょう」


 「魔法鞄は製作出来ないのかな?」


 「理論上は出来る筈です。神聖王国には昔作れる人が居たみたいですね。品質までは分かりませんが。空間魔法と錬金術の両方の適性がいりますからね。そんな人材中々居ませんよ」


 空間魔法なんて絶対希少属性だもんな。

 そう上手い話はないか。


 「いや、分担でやれば良くない? 鞄に空間属性を付与して錬金術は別の人がやるとか」


 「分担ですか…。確かに出来るかもしれないですね。余り詳しくないのでそれが可能かどうかは分かりませんが、やってみたいです」


 まぁ、俺は興味ないから空間魔法の魔法書でも手に入れば誰かにやらせてみてもいいよね。

 まだ魔法書すら手に入れてない俺達からすると夢物語の様な話しだが。


 「ま、思いがけない物が手に入ったし、殺して良かったと思おうじゃないか」


 「そうですね。しかし、次から確認を忘れない様にお願いしますね」


 「その件につきましては、持ち帰って検討するのでこの場での発言は控えさせて頂きます」


 「レト様?」


 「前向きに考えます」


 「はぁ」


 だって、衝動的に殺したくなる事があるかも知れないじゃんね。

 俺から殺しを取ったら何も残らないよ?

 言質は取らせない立ち回りをしたが、心配してくれてるのは分かってるのでね。

 出来る限り確認はしようと思います。

 努力目標ってやつですな。

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