第60話 31階からの変化


 「んー? なんだこれ? 20階台と明らかに雰囲気が違うな」


 ボス戦を終えて、31階に足を踏み入れると突き刺す様な視線がいくつもあった。

 【魔眼】で確認してみると、魔力濃度が全然違う。


 「ここからが本番って事かねぇ。探知してみるとモブ魔物でオーガが出てくるっぽいな。知らない反応もいっぱいあるし」


 「妲己はともかく、アシュラには中々厳しいのでは?」


 「そうだなぁ。攻略階まで最短で行こうと思ってたけど、これは考えを改める必要がありそう」


 ここからはゆっくり探索するか。

 それこそ端から端まで舐める様に。

 アシュラをせめて、もう一段階、欲を言えば二段階進化させないと楽は出来ないだろう。


 「オーガが群れで来たりしたら、流石にきついしな。妲己はオーガなら余裕だろうけど」


 【超念力】で捩じ切るだけだからね。

 未だに、あれが通用しない敵に出会った事がないからどれだけ強いのか未知数なんだよな。


 「時間には余裕がありますからね。ゆっくり行きましょうか。レト様にも進化して頂きたいですし」


 「それを言うならグレースが超越者になるのかも気になるよな」


 眷属化した人間は超越者になるのか。

 なるなら問題ないけど、ならないなら今後、人間を眷属にするのはちょっと躊躇う。


 「お、早速きたな。この階はとりあえず妲己とアシュラがメインで。グレースはサポート。俺もちょこちょこ手を出そうかな」


 「かしこまりました」


 「キュン!」


 「ギャ!」


 オーガが3体でやってきたので遠慮なく狩る。

 モブでこれだけ出てくるなら経験値効率が良さそうだな。

 最近みんなに出番を譲りすぎて、俺の経験値はまだ3割ってところだし。

 このラビリントスで、全員2.3回は進化しときたいな。




 「ふぃー。みんなお疲れさん」


 あの後、森に入るとひっきり無しにオーガとその上位種がやって来て大変だった。

 毎回3.4体でやって来て、肉弾戦を仕掛けてくる。

 これ幸いと、体術の練習も兼ねて魔法禁止で戦ってたんだけど、これが中々に疲れる。

 俺は1人で戦い、他は連携して戦う。

 経験値がどういう感じで分配されているのかは分からないけど、とりあえず今日は誰も進化しなかった。

 で、丸一日ぐらい戦ってたので今は影の中に入って休憩中って訳だ。


 「結構倒したのにアシュラは進化しないな。妲己はリブラのスタンピードの時にしたから、まだ納得なんだけど」


 「私ですら、格下のオーガを倒してレベルが上がってるんですけどね。不思議です」


 「ギャ?」


 俺は煙草を吸いつつ、魔石をつまみにオーガの血を飲む。

 うーん、デリシャス。

 やっぱり強い相手の血は美味しいね。

 グレースも眷属になってから血を飲むようになったけど、魔物の血はあまり好みじゃないらしい。

 弱くても人間の血の方が美味しいんだとか。

 俺とは真逆だな。

 俺は弱い人間の血を飲むくらいならゴブリンの方が美味しいんだが。

 そういう事なので、もっぱら人間の血はグレース専用になっている。


 「うーん、ここで進化打ち止めは無いと思うんだけどなー。俺の願望も入ってるけどさ」


 「見た事ない種ですからなんとも言えませんね。ここからどういう進化するのか想像出来ませんが」


 「俺はオーガみたいに脳筋タイプになると思ってるけどな。能力がそれっぽいし」


 「ギャギャ!!」


 「キュンキュン!」


 当の本人は、俺達の心配をよそに妲己と肉の取り合いをしている。

 妲己が魔法で肉を焼きつつ、アシュラが調味料をかけて仕上げてるんだけど、それを横から掻っ攫おうとしてお互いが牽制し合ってる感じ。

 いつもの事なので好きにさせてるが。


 「なんかあれを見てるとこっちが心配してるのが馬鹿らしくなってくるな」


 「ですね」


 グレースも苦笑いしながら、様子を眺めてる。

 まあ、本格的に狩りを始めたばっかりだし焦る必要もないか。

 暫くこの階層で様子見するかね。





 「ギャギャー!!」


 アシュラが、飛び上がってオーガの頭に金棒を叩き込む。

 この階層で戦い始めて1週間ぐらいが経ったが、その間に全員の戦い方が洗練され始めてきて、今ではアシュラでも普通のオーガならタイマンで勝てる。


 残念ながら進化はまだしてないけど、Bランクの魔物に1対1とはいえ勝てるようになったのは凄い事なんじゃないだろうか。

 本能で戦ってる魔物が修行するとこんなに強くなるんだね。

 かと言って、上位種がAランクなのかと言えば違うらしいけど。

 同じBランクなんだよねぇ。

 ランク内での振れ幅が大きい。

 もう少し分かりやすくランク分けして欲しいもんだね。


 「今日はこの辺にしとくか」


 この階層はオーガ系が無限に出て来る。

 スーパー修行スポットだ。

 そしてなにより嬉しいのが人気が無いのか、他の冒険者はこの階層をスルーするんだよね。

 何回か遠目に冒険者を見たけど、魔物避けの香水を振り撒き、さっさと次の階段に向かっていた。

 オーガ素材は換金効率悪いのかな?

 売った事ないから分かんないや。


 「技量が目に見えて上がっていくのは嬉しいけど、流石に飽きてきたな。オーガハンターの称号貰えそうなぐらい狩ってるぞ」


 「相変わらず、アシュラは進化しないですしねぇ。私のレベルも上がらなくなりましたし」


 グレースは3日程前に、レベルが99になりそこから上がっていない。

 100になると、超越者になるのではと期待してたんだがまさかのブレーキ。

 100になるには、何か切っ掛けがいるのか、それとも99から100になる間に膨大な経験値が必要なのか。

 謎が増えた感じだよね。


 「ギャギャ!」


 アシュラは今も美味しそうに肉を食べている。

 能力にある【鉄の胃袋】は簡単に言えば、どれだけでも食べれる能力。

 後、ほんのちょびっと食べるだけで経験値が貰えるらしい。

 アシュラのせいでエンゲル係数爆上がりよ。

 ほっといたらずっと食べてるからな。

 幸い食べれるならなんでも良いらしく、偶にオーガが落とすオーガ肉も嬉しそうに食べてる。

 妲己は筋張ってて、好きじゃないらしいからこの肉だけは、喧嘩しなくても大丈夫っぽい。


 「キュン!?」


 「ギャギャ!? ギャッ…」


 妲己と並んで食べてたアシュラが急に光に包まれ、パタリと倒れる。


 「キュン! キュン!」


 慌てて【回復魔法】をかけたりしているが、無意味である。

 普段喧嘩してくる癖に、やっぱり妲己は優しいな。


 「落ち着け、妲己。進化してるんだろう。俺も意識失った事があっただろ?」


 「キュン…」


 俺が言い聞かしても心配そうにアシュラを見て、オロオロしている。

 なんやこいつ。可愛すぎるやろ。

 どれだけ喧嘩してても大切な存在になっているみたいで嬉しい限りです。

 ツンデレちゃんなのかな?


 「それにしても突然でしたね。まさかご飯を食べてる最中に進化とは。アシュラらしいですが」


 「確かにな。多分、後一体でもオーガを倒してたらそこで進化してただろうに」


 俺がやめ時を間違えたとも言えるけど…。

 いや、アシュラはこういう星の元に生まれた運命だとでも思おう。


 さーて、特殊進化っぽいし、どんな魔物になるのか楽しみだな。

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