強引

「はぁっ、はぁ……」




僕はしばらく歩くと、小さめの町を見つける。そして安堵感から、建物の名前も見ずに一番大きな施設に入った。そこは、掲示板が置いてあったり、軽く語り合うための酒場があったり、小さめの図書館があったりと、色んな施設が併合したような場所だった。すると、職員のお姉さんが話しかけてくれる。




「冒険者ギルドへようこそ!見ない顔ですね、旅人さんですか?冒険者登録に来たんですか?」




「冒険者登録……?」




聞きなれない言葉に僕はたじろぐと、すかさず職員さんは説明してくれる。




「有名魔道学院首席の生徒でも、元犯罪者でもなれる仕事、冒険者!魔物を倒したり人助けをしたりなどの依頼を受けて、ギルドからお金を貰うお仕事。荒くれ者だったり、男の花形だったり、人によってイメージがかなり違う職業ですね。ここは、そんな冒険者たちが集まるギルドです!」




「まずは冒険者登録ですね!この名前に名前と年齢と性別と実績とスキル……」




「スキル……?」




僕が小さく疑問を零すと、それを拾い上げるかのように職員さんが反応する。




「えっ!?スキルを知らないんですか?どんな田舎から来たんですか!?あ、いや……失礼しました!スキルとは、十三歳になったら神様から授かる不思議な力のことで、これをパッシブスキルと呼びます。自らスキルを取得する例もあるにはあるんですが……まあこれについては割愛します!それで、スキルを知らないということはパッシブスキルの鑑定もまだですよね?」




職員さんは僕を別の部屋に案内してくれる。そこには神秘的に光る水晶玉があった。『佐藤一』を前世と呼ぶならば、美術とか芸術とか、通り過ぎることしか出来なかった僕でも目を奪われるほど美しい。




「これは神聖な力が宿る魔道具なんです!あ、危険なものでは全くありませんよ!さぁ、触れてみて。神様の声があなたの頭の中に流れ込んでくるはず……神様はあなたにあなたのパッシブスキルを教えてくれるはずですよ」




少し戸惑いながらも、水晶玉に手を触れる。何・か・と繋がった感覚。頭の中に魂がふわふわするような心地のいい声が流れ込んでくる




『あなたのパッシブスキルは……超消化……毒でも……物でも……あなたは消化できる……栄養に変えられる……自らの胃を自由に操れる……』




それだけが頭の中に流れると、との接続が途絶えたのが感覚的にわかり、僕は水晶玉から手を離す。




「パッシブスキル、分かりましたか?」




「えっと、超消化、だとか……」




職員さんはニコニコ笑いながら冒険者登録用紙を僕に押し付けてくる。




「戦闘向きではなさそうなパッシブスキルですね。しかし、戦闘用スキルを持っていなくても努力しだいで剣も魔法も使える!スキルはあくまで特性ですから!それに、食べ物に困ることがないと言うのは冒険者にピッタリ!さあさあ冒険者登録しちゃいましょう!」




「いっ、いや、大事なことなので……!それに僕、えっと、色々あって疲れてるので!宿に泊まります……」




間違ってインターホンを確認しないで出てしまった時のセールスマンくらいに強引な職員をどうにか振り切る。冒険者ギルドは宿も兼ねてるそうで、銅貨100枚で一番安い部屋に泊まれるらしい。冒険者になるともっと格安で泊まれると念を押して言われたが、僕は冒険者になるのはもう少し考えると、銅貨100枚を出して部屋のベッドに潜り込む。今日はとにかく眠りたい……




それにしてもあの職員……勧誘ノルマとかそういうのあるのかな……すごく強引な人だったな……ライオリアさん……優しい……人……








――――




『聞こえていますか……?』

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