知恵の弾丸はバカに効かないようでして

豆木 新

プロローグ 



「陰キャが強いのは物語の中だけだろうが」

「そんなことも分からないのかよ。陰キャって」

 俺——言野辺悠いのべ ゆうは仰向けで地面に倒れ込んだまま不良生徒の話を聞いていた。

 だが、こんなバカたちに言われなくても分かりきっている。

「先生! こっちです! 早く!」

「……ッ! クソ! 逃げるぞ!」


 ……自分が喧嘩で不良に勝てないことくらい。

 俺よりガタイのいいこいつらに、もやしの俺がどうやったって勝てるわけがない。そもそも人数だって二対一で俺の方が不利なんだから、負ける未来が確定しているようなものだ。

 そんな負け確定イベントに首を突っ込むという馬鹿な事、普段なら絶対にしない。

 

 それでも、わざわざこいつらに喧嘩を売ったのは。

「——やっぱ上手くいかないよな」

 女の子の前でくらい格好つけたかったからだ。結果、格好つける前よりダサいことになっているのだが。

「……ちょっと、だいじょうぶ?」

 助けに来てくれたのであろう幼馴染——田浦杏理たうらあんりに「別に大丈夫」と返して立ち上がる。が、フラついてまともに歩けない。

「鼻血で制服真っ赤になってるのにだいじょうぶなの?」

「——分かってるなら助けてくれてもよくね?」

 俺は懲りずにまた格好つけようとして結局、杏理の肩を借りて保健室に行くことになった。




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