走馬灯
突然妻から離婚を言い渡された。
俺は理由を聞いたが、そんなことも分からないくらい無関心だったのねと呆れられてしまった。
途方に暮れ、外を散歩していたら、なぜか歩道に車が突っ込んできて俺の意識はそこで途切れた。
その後、俺の意識が戻ると、俺は何故か妖精みたいになっていた。
「はーもう嫌になる!」
そこにはキレ散らかした妻がいた。
「ねー聞いてよ妖精さん!旦那ったらひどいのよ!」
どうやら俺は妖精で、嫁の愚痴を聞く立場らしい。
愚痴の原因は旦那である俺が圧倒的に多い…
「私だって頑張ってるのに…いつも旦那は怒ってばっかり…どうしたらいいのよ…」
「うーん…ごめんね、多分会社で仕事がうまく行かなかったりしてイライラしちゃってるんだよ…それを奥さんにぶつけちゃうのは悪いんだろうけど、そこまで考える心の余裕がないんだよ…」
「じゃあ私は黙って怒られたらって言うの!?」
「いや、その、ごめんなさい!」
俺は妖精という立場であるにも関わらず、思わず謝ってしまった。
「…なんで妖精さんが謝るの?悪いのは旦那なのに…」
「…これも妖精の力なのかな…旦那さんの気持ち、わかっちゃうんだ。仕事がうまく行かなかったり、後輩のミスを尻拭いしたりして、ストレスが溜まっちゃって、でも職場でそれを言えないから、どうしても家に持ち帰ってきちゃう…それで、怒鳴っちゃった後に後悔するんだ…でも、謝るタイミングを見逃して、いつも怒っては後悔して、でも謝れないの繰り返しなんだ…」
「…後悔しても、伝えてくれなきゃわからないのよ…」
そう言って嫁は泣いていた。
「ごめんね…」
俺はそう言って寄り添うしかなかった。
「ったく、なんでお前はこんなこともできないんだよ!」
俺が声を荒げている。
覚えている、あの時の喧嘩だ。
「仕方ないじゃない、私だって仕事と家庭を両立させるの大変なのよ!あなたが少しでも手伝ってくれれば…」
ああ、ダメだ言わないでくれ俺…
その思いも虚しく、俺は勢いよくテーブルを叩いた。
「俺の母親はそれをこなしてきたんだよ!お前もこの家に嫁いだなら、母親みたいにしてもらわないと困るんだよ!そうでないと俺のリズムが狂うんだよ!」
そして自室に戻った。
嫌味ついでに、ドアをわざと大きな音を立てて閉めた。
「っ…母親みたいにって何よ…私はあんたのお母さんになるために結婚したんじゃないのよ…」
嫁はその後、静かに泣いていた。
おそらく嫁が離婚を決意したのはここだ…
なら、俺が死んで嫁は解放されただろう…
「あなた!」
俺は目を覚ました。
奇跡的に一命を取り留めたらしい。
双方の家族もいた。
親は安心して帰って行ったが、嫁はその後も一緒にいてくれた。
「事故に遭う前、俺と離婚したいって言ったよな…」
「…言った。でも一時の気の迷いだってわかったの。ごめんなさい。」
「謝るのは俺のほうだよ…ごめん。お前の気持ちに気づいてやれなくて…離婚しよう。もう俺みたいなやつから解放されたいだろ?」
嫁は首を横に張った。
「あなたが死ぬかもしれないって思って、そう思ったら胸に穴が空いたような感覚になったな。少なくとも今の状態のあなたとは離婚できないわ。あなたが元気になって…それからまた考えさせて…」
そう言って、ひとまず離婚はしない事にした。
でも、人はそう簡単には変われない…
俺も俺なりに頑張ったけど、好きなのに、一緒にいればいるほど、互いにストレスを溜め込んでしまって…その後俺たちは離婚した。
でも、好きな気持ちは変わらなくて、まるで結婚前に戻ったように俺たちはまた付き合いだした。
もう結婚は懲り懲り
このくらいの距離感がちょうど良い
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