第2話 失墜






カゲロウ

失墜


 時間って命の一部なんですよ。


          平尾誠二






































 第二影【失墜】




























 ジリリリリリリリリリ・・・


 これは決して、目覚まし時計ではない。


 街中、国中に設置されている警報の音である。


 とても激しい音で、寝ているときに鳴ったりすると、とてもじゃないが寝ていられない、下手すると心臓発作を起こしそうなほどの強い音である。


 それがいきなり鳴り始めた。


 なんだろうと、すぐに起き上がったレイモンドが外に出ようとすると、そこにはすでに起きていたレイラたちがいた。


 五月蠅い警報が鳴ってすぐに出てきたというのに、どうしてこんなに早いのかという疑問もあったが、レイラたちもたった今起きてきたとのことだった。


 瞬発力の問題かと勝手に納得したところで、一体何の警報なんだろうと聞いてみる。


 「これなんだ?ミサイル?」


 隣にいるレイラは煙草に火をつけると、反対の隣にいるサバンが代わりに答える。


 「違うよ。影が暴走を始めたんだ」


 「影が暴走って・・・。こっちに向かって来てるってこと?殺しに来てるってこと?」


 「まあ、ざっくりとそういうことだね。レイモンド、どうする?」


 「警報が鳴ったんなら、警察だって動くだろ。役に立たねえけど」


 「それが分かってるなら、このチャンスを上手く利用しない手はないね」


 ふー、とレイラは煙を吐きだしていると、しばらく黙っていた。


 何か考えているのか、それとも考えていないのかは知らないが、一本吸い終わったかと思うと、家に入りながら言う。


 「行くぞ。準備しろ」


 「わかった」


 サバンとタツトはすぐに返事をしたが、レイモンドだけは返事をしなかった。


 ぼーっとしてるとレイラに急かされたため、サバンたちに何をするのかと聞きながら、準備を眺めている。


 「何するの?」


 「これから喧嘩しに行くんだよ」


 「喧嘩って・・・。だって、警察動くんだろ?俺達が動く必要ある?」


 「レイモンドが言ってたろ。役に立たないって。警察って言ったって、昔みたいに自分の命を懸けて、最期まで一般市民を守ろうなんていうご立派なものじゃないんだ」


 サバンの話によると、優先第一は自分の命らしく、危険だと判断したら警察でもなんでもすぐに逃げて良いということになっているらしい。


 市民を守ろうなんていうのは、もはや古い考えと言われているようだ。


 「なら、市民っていうか人間を守るロボットとかは?あれだけ技術が進んでたんだから、いてもおかしくないよな?」


 「技術が進んだからといって、それが全て正義のために正しく使われるとは限らないよ。それに、ロボットは所詮ロボット。どれだけ知識や経験を与えても、人間とは違う」


 「そういうもんか」


 がちゃ、と重たい音が聞こえてきて、レイモンドが視線を動かすと、タツトが手に銃を持っていた。


 合法なのか聞く勇気はなかったが、サバンも持っていたし、奥から出てきたレイラも、腰に銃を収めているところだった。


 銃を持っていないと危険な世界なのかと思っていると、銃をいじっていたタツトが、まるで玩具のようにソレをレイモンドに手渡してきた。


 いらないと断ったのだが、持っていて損はないと言われ、仕方なく携帯する。


 「おら、ぼーっとしてねぇで。行くぞ」


 ぺしっと頭を叩かれレイラを睨みつけるが、すでにレイモンドはドアを開けて外に出ており、その後を着いて行く。


 それから少し歩くと、急にレイラが足を止める。


 「どうした?レイモンド」


 「・・・ラッキーだな」


 「何が?」


 ひょこっと、レイラの横から顔をのぞかせたサバンは、目を丸くする。


 視線の先には、黒い影がこちらに向かって歩いてきているのが見えたからだ。


 それも、大群で、まるで黒い雲の塊のよう。


 「あれ全部相手にしてたら、研究所まで辿りつけないよ」


 「相手にする必要はねえだろ。適当に避けて、一直線に向かうしかねえよ」


 なにも、人間はレイラたちだけではない。


 通常の生活を送っている人間たちは、影よりは少ないかもしれないが、同じくらいの人数が揃っているのだ。


 警報が鳴った時点で、警察など信用していない人間たちは、すでに各自銃を所持して警戒していることだろう。


 案の定、周りにはレイラたちの他にも人間が銃を構えて準備をしている。


 「影の逆襲ってか。いや、復讐か?」


 「どっちでもいいけど、ここはみんなに任せて、俺達は別ルートから研究所に向かおう」


 「だな」


 サバンを先頭に、レイモンドたちは遠周りにはなるが、裏から進むことにした。








 あまり人通りのない道を走っていた。


 しかし、声や音が聞こえないわけではなく、家と家の間から見える光景は、まるで戦争のようだった。


 人間と影が対峙し、人間が影を仕留めるシーンもあれば、形を変えられる影に惑わされ、殺されている人間もいた。


 影は殺した人間にのしかかると、その顔を剥ぎ取り、自分の顔の部分に貼りつける。


 元の人間の顔は不気味に歪みながら微笑み、影の感情が読みとれるものになったが、あれでは人間ではなく、悪魔のようだ。


 顔だけでは満足いかないのか、影は横たわっている人間の腹を裂くと、その中に詰まっている臓器を鷲掴みする。


 その光景を見ただけで吐き気がして、気持ち悪くなる。


 掴んだ臓器を、首を傾げながら見ていた影だが、そのうち、自分の身体の中にソレらを収めようと押し込んでいた。


 しかし、元は影だからか、臓器を身体に入れることは出来ない。


 入れたところで機能するのかさえ、この時勢でもまだ無理なのだろうが、これがもっと進んだ未来で、影にも臓器を設置することが出来るとなれば、とてもじゃないが、まともな精神では生きられないだろう。


 自分の身体から臓器が落ちてしまうため、影は色んな臓器を取り出してチャレンジしているようだが、結局は出来なかった。


 そのうち、近くにいた人間に銃で撃たれて、地面に磔のようにされていた。


 すると突然、頭を掴まれて、そちらに向けていた顔を前に戻された。


 「他所見してんじゃねえよ」


 「よくこんな世界で生きられるな。気持ち悪くてしょうがねえよ」


 レイモンドの顔を正面に向けたレイラは、口に火のついていない煙草を咥えていた。


 「気持ち悪くてもなんでも、お前の未来であることに変わりはねえんだ。ここ以外で生きて行く世界があるならまだしも、ここしか選択肢がねぇなら、ここで生きて行くしかねえだろ?」


 「だからって、なんでこうなるまで放っておいたんだよ」


 「お前、自分の性格分かってんだろ?だからこうなったんだよ。ま、俺以外の連中だって、同じようなもんさ。どいつもこいつも動かねえから、こうなった。その末路なんだよ」


 面倒臭がりで、誰かがやると思っていて、他人に干渉されるのが嫌いで、生きて行くのも億劫で、だからといって、死ぬのもなんだか癪で。


 なんとなくで生きてきただけの人生。


 動きださなかったのは、いつだって自分で。


 なんとかなると思って、あんな窮屈でつまらない、退屈な世界を適当に生きてきた。


 「だが、その末路ってもんは、お前なら変えられる」


 「・・・・・・」


 「立ち止まっては歩いて、また立ち止まっては歩いての人生だったが、お前は今、こうして走ってる」


 ああ、そういえば走っていたのかと、レイモンドは思い出した。


 だからこんなに、苦しいのかと。


 「今ならまだ、変えられる。お前にしか出来ねえことと、俺にしか出来ねえこと。俺達はやっと一人前だからよぉ」


 走るなんて、久しぶりだろうか。


 小さい頃はよく走っていたのかもしれないが、それも大きくなるにつれて徐々に減って行った。


 そのうち、走ることが面倒になって、なんで走らなくちゃいけないのかと思う様になって、もう全部が嫌になって。


 こんなに苦しい思いをしてまで走る意味なんて、絶対にないと思っていた。


 心臓が乾いて行く、呼吸が乱れて行く、身体がストップをかけてくる。


 もう走るな、走らなくていい、走ってほしくない、どうして走るのか。


 どんなに一生懸命走っても、どんなに一所懸命もがいても、追いつくことの出来ないものは必ずあって、それを追いかけるだけ無駄な体力だと。


 意地を張って走ることが偉いのか。


 棄てられないプライドを持ったまま走ることが偉いのか。


 人生なんて、呼吸の無駄遣いだと。


 「俺もお前も、まだ途中だ」


 人生なんて、酸素の無駄遣いだと。


 「俺の過去がお前であれ、お前の未来が俺であれ、お前よりも過去のお前がいて、俺よりも未来のお前がいる。俺もお前もまだ中途半端にすぎねぇ」


 ずっと、そう思ってた。


 「俺とお前で一人前なんて言ったが、多分それはオーバーに言い過ぎだ。まだまだ一人前にもなっちゃいねぇ。俺もお前も、これから先まだ生きて、ようやく死ぬとき、やっと一人前だな」


 「割合的には、俺が一人前の8割は占めてるな」


 「お。お前それ、こっちの立場になったときに言われるんだぞ?」


 「・・・そっちの立場になったときだって、同じこと言ってやるよ」


 「でかく出たな」


 走りながらも、まだ視界の端に映る光景。


 しかしこれは、決して目を背けているわけではないのだと。


 「俺をこっちに連れてきておいて、何も出来なかったじゃ馬鹿にされるからな。やれることはやってやるよ」


 「おーおー、頼もしいねぇ」


 人間の身体を漁り、臓器を眺めている影を見て、レイラはぼそっと呟く。


 「俺の影じゃねえって思いてぇなぁ」








 「はぁはぁ・・・着いた」


 「思ったよりも近かったな。入口はどこだ?」


 「こっち」


 今度はタツトを先頭にして、研究所内に侵入をする。


 中に入ると、サバンとタツトはレイラとアイコンタクトをし、レイモンドたちとは別行動を開始する。


 「あいつらは?」


 「ああ、少し別行動だ」


 「もしかして、タツトってもともとここにいたとか?」


 「ああ。科学者として働いてた。だから建物内部の構造とか、実験の内情とか知ってるんだ」


 「なんで辞めたの?」


 「なんでって、普通の感覚を持った奴なら、嫌気がさすようなとこだぞ。あいつだってよっぽどの変人だが、それでも嫌になるくらいだから、相当だろうな」


 「じゃあ、科学者ってどのくらいいるの?」


 「さあな。タツトがいた頃は、科学者と研究者と、合わせて30人いたかいないかくらいだって言ってたな」


 「ふーん。少ないんだ」


 「多ければ多いほど、情報漏洩の可能性もあるからな。現に、仕事辞めるときは、研究内容を忘れさせる薬を飲まされるらしい」


 「・・・へ?じゃあなんてタツトは覚えてたわけ?」


 「それを知ってたから、薬を飲んでも胃で溶けないような薬を作って、それ飲んだんだとよ。俺にもよくわからねぇけど、頭良い奴って変なこと考えるよな」


 「それは同感。馬鹿なのかなって思う時がたまにある」


 「理屈では成り立つのかも知れねえけど、実際やってみねぇとわからねぇことってあるのに、それを全部理屈と計算でやってのけようとするんだから、すげぇよ」


 「じゃあ、サバンは?ただのオタク?」


 「ああ。あいつは立派なオタクだ」


 「その言い方もどうかと思うけど。もともと知り合いだったとか?」


 「そりゃお前、そのうち会うだろうから、別に今言う必要はねぇだろ。てか、俺ってそんなに背低かったか?」


 「そんなに低くないだろ。そっちがでかいんだよ。なんで俺これからまだ成長しなくちゃいけないの。これ以上はいらない」


 「んなこと言ったってよぉ・・・。お、ここか?」


 話している間に目的の部屋に着いたようで、レイラは中の様子を窺いながら、そーっと開けてみる。


 「!!!」


 そこには、床に血を流して倒れている男女と、1人だけ立ってモニターに釘づけの男。


 「素晴らしい・・・」








 モニターには、人間たちを襲っている影と、その影と戦っている人間の映像が流れていた。


 人間によって身体を拘束されてしまっている影たちもいるが、それ以上に、躊躇なく人間を殺し、その人間の皮を剥いでいる影の姿が多い。


 その映像も気になるのだが、今目の前に頃がっている10人以上の男女の身体だ。


 血が流れていることからも、動かないことからも、きっと死んでいるのだろうが、不気味に感じたのは、その遺体が綺麗に並んでいることだ。


 モニターを見ている焦げ茶の髪の男は、未だモニターを見たまま動かない。


 しかしそれからすぐに、ゆっくりとレイモンドとレイラの方に身体を向けてくる。


 「おや、来客かな」


 「・・・これはこれは、なんだっけ。誰だっけ」


 「俺はトレイ。君たちは、何をしに来たのかな?ここはもう戦場の真っただ中だよ」


 「・・・確かに、ここは戦場だったようだな」


 床に並んでいる遺体を見ていると、その視線に気付いたトレイは、「ああ」とだけ言って、鼻で笑った。


 「そこに倒れてるのはみんな、ここの職員だよ。影が暴走したって言ってここに来たんだけど、殺されちゃってね」


 「あんたが並べたのか」


 「違うよ。それをやったのは影さ」


 「影が・・・?」


 トレイは、その時の光景を思い出しながらなのか、斜め上の方を見つめながら、恍惚とした表情で話し始める。


 「影にも、悼む気持ちが生まれたんだ。その決定的瞬間に立ち会えたのだから、みんなは幸せ者だよ。人間が人間を痛むように。人間は決して動物を心から悼むことはない。それは、家族のように大切にしている動物でさえ、所詮は人間ではないと思っているからだ。しかし彼らは違う。すでに人間と同等の個体として、そこに存在している。素晴らしいことだと思わないかい?」


 「・・・だとよ。どう思う、ジュニア?」


 「俺に聞くか」


 トレイは遺体の方に歩いて行くと、その中の数体を見つめる。


 まだレイモンドくらいの若い人もいれば、すでに定年しそうな年寄りの人もいるが、割合としては若い人が9割以上だろう。


 遺体を見つめているトレイは、仲間を悲しむでもなく、憐れむでもなく、悼むでもなく、愛おしいものをみるかのように目を細め、微笑んでいた。


 「こいつはドミノといって、影を切る仕事をしていた。こっちはミルフィーユ。無口だけど仕事は文句なし。こっちはライク。影に意識を与えていた研究員で、明るくて良い奴だったなぁ・・・」


 「あんた、仲間が殺されたってのに、なんで笑ってるんだ?」


 「なんで・・・?」


 泣く様子も、泣いていた様子もまったくないトレイは、悲しみなどの負の感情よりも、別のものが勝っているらしい。


 それが何なのかは、すぐに分かることとなる。


 「俺達の研究と実験は、間違っていなかったことの証明だろ?影は、独立した存在としてそこに立っている。これはとても素晴らしいことだ・・・!!」


 「間違っていなかった?」


 トレイの言葉に、煙草に火をつけようとしていたレイラは手を止め、目つきを鋭くする。


 咥えていた煙草をそのままに、本当は火をつけて吸いたいのだろうが、そこに火をつけることはなかった。


 しかし吸いたい気持ちはあるようで、ライターの蓋をカチカチと上下に動かしている。


 そんなにイライラしているならつけてしまえば良いと思うのだが、レイラの苛立ちの矛先はそこではないらしく、トレイから身体ごと逸らしていた。


 「光あるところに影がある。しかし、影はいつまでたっても光になることはない。出来ない。しかしいつも光とともにいる。俺はそんな影に魅了されてきた。我々と共に生きている影を、なぜ生きている間気にも留めずいられるのか。不思議でしかたがなかった。そしてついに、あの人と出会った」


 「あの人・・・?」


 「あの人は研究熱心だった。とても優秀で、とても人懐っこい、誰もに好かれる性格をしていた。影について興味があると話すと、快く協力してくれた。俺のことを一番に理解し、考えていることを真っ先に表現してくれた。この研究所を建てるにあたって、必要不可欠な人材だった」


 すでに死んでいる仲間の髪を撫でながらも、とても澄んだ瞳で話しているトレイは、同じ人間とは思えない。


 死んだ人を弔う様に、お腹の上に両手がおいてあるのも、影がやったということなのか。


 トレイは触れていた髪の毛から手を離すと、再びモニターの前に足を向かわせ、そこに映しだされている人間と影の姿を見つめる。


 「ここは技術の集大成だ。そう思わないかい?君たちも、影の魅力に導かれ、ここに来たんだろう?」


 「ちょっと何言ってるか分かんねえけど、あんた、おかしいよ」


 「おかしい?なぜ?」


 「だいたい、仲間が死んで笑ってることもおかしいし、人の死よりも技術が証明されたことを喜ぶなんて、どうかしてる」


 「科学者なんて、みんなそうさ。自分の命よりも、家族よりも、権威より、ずっとずっと、自分のエゴが大事なんだ。興味を持ったことにのみ全身全霊をかける。表面上は未来の為、人間の為と言ってはいるが、本当はただ自分の感心や興味の為なんだ。ただただ、追究することが趣味なんだ。君たちだって、自分の知りたいことや興味のあることは、最後までなんとしてでも知ろうと思うだろ?それと同じさ。ただ、それ以上に探究心があるだけのこと」


 瞬間、ずっとカチカチと鳴り続けていたライターの開閉の音が止んで、結局火をつけずにライターをポケットにしまったレイラ。


 その表情は穏やかなものでも、面倒臭そうなものでも、ましてや無表情なわけでもない。


 レイラにしては珍しく、苛立ちを露わにした顔つきで、レイモンドでさえ、ゴクリと唾を飲み込むほどのものだった。


 口に加えていた煙草も、指でつまんで掌で握りつぶす。


 「胸糞悪ィこと言ってんじゃねえぞ」








 「胸糞悪い?一体何が?」


 「てめぇの言ってること全部だよ。さっきから黙って聞いてりゃ、反吐が出る」


 「残念だよ。君とは分かり合えないようだね」


 「最初っから無理な話だな。俺ぁ例え興味のあることでも、それが人道に反してりゃ求めようとは思わねえ。世の中には、知らねえことや出来ねえ方が幸せなことがあんだよ」


 「それは、能のない人間の言葉だな。ただ出来ないだけだ。やろうと思っても、その能力がない。我々は違う。出来るだけの能力がある。だからするんだ」


 鼻で笑って首を横に振りながらそういうトレイに、レイラは握っていた煙草を再び口に加える。


 少しは落ち着いているのか分からないが、レイラは煙を吐く代わりにため息を吐く。


 「こんな腐った世の中だ。腐った奴等が生き残る。どれだけの英雄たちが世界を変えようとしてきたか知れねえが、その結果がこれじゃあ、合わせる顔がねぇってもんだ」


 「永遠に理解し合えないようだね」


 「ああ。分かりきってたことだけどな」


 レイラとトレイが互いの顔を見ていると、レイモンドは何かの気配を感じた。


 視線を動かせば、そこには一体の影が、こちらを見て佇んでいた。


 いつからそこにいたのか、たった今来たところかもしれないが、その影はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


 それはまるで、自分たちと同じ人間のように。


 その気配に気付いたのか、レイラも影の方に視線を向けると、レイラが動いたことで自然と視界に入った影に、思わず顔がほころんでいた。


 「見てくれ・・・!!こんなにも人間らしいんだ、彼らは!!」


 両手を広げながら、まるで愛している人を迎え入れるかのように、目を細めている。


 レイラは、影からレイモンドを隠すように歩き、腰にある銃に腕を伸ばす。


 影はレイモンドにもレイラにも見向きもせずに、真っ直ぐにトレイの方を目指して行く。


 それをじっと、半ば睨みつけながら見ているレイラと、その後ろにいるレイモンドは、この後衝撃的なシーンを目撃することとなった。


 両手を広げて待っていたトレイの前に行くと、影はしばらくそのまま立っていた。


 トレイは自ら影に近づいていき、自らの成果ともいえるその影を抱擁しようとしたが、瞬間、影の腕部分がトレイの腹に垂直に入って行った。


 「なっ・・・!?」


 「・・・・・・」


 もしもあの影が普通の人間であれば、なんとも残酷な光景だと思うのだろうが、それを黒い影がしているから、ただ不気味なだけだ。


 表情も読みとることの出来ないその影は、突き刺した腕をトレイの腹の中でもぞもぞ動かしたかと思うと、一気に左右に引き裂いた。


 「・・・うっ!!」


 レイモンドは思わず口を押さえ、力が抜けそうになった足になんとか力を入れる。


 トレイの身体からは血が噴き出し、さらには人間なら誰しもに備わっている臓器が露わになり、床に落ちて行く。


 口から血を吐いたトレイは、目の前にいる影にしがみつくと、先程のように笑みを浮かべ、そのまま倒れた。


 「おい、へばるんじゃねえぞ」


 「・・・大丈夫だよ。見慣れてないから驚いただけだ」


 気付けば、レイラはもうその手に銃を握っていた。


 笑みのまま死んでいるトレイを見ることもなく、影はモニターの方に歩いて行った。


 確か影には視力がなかったはずだと思っていると、急に影がレイモンドたちの方に顔を向けてきて、いや、どちらが前かなんて分からないのだが、今までの動きからして多分こちらを向いてきた。


 これまでゆっくり歩いていた影は、いきなり素早い動きになり、レイモンドたちを襲ってきた。


 「ちっ。おいジュニア」


 「なんだおっさん」


 「お前を助ける心算はねぇが、お前が死んだら俺の存在も消えちまう。死なねえように自分の身は自分で守れよ」


 「それなら助けてほしいもんだよ」


 レイラは銃を影に向かって撃つ。


 とはいえ、そこに入っているのは銃弾ではない。


 影を捕獲するために改良されたもので、銃口から出てくるのは、壁や床などに影を張りつける太い針だ。


 それには少なからず電気も通っているため、影はしばらくの間動きを止めることになる。


 見事に影を壁にはりつけたレイラが使った分の針を補充していると、そこへまた別の気配が現れた。


 また影かと思い、レイモンドは過敏に反応すると、その気配の正体を見ていないレイラは、知っていたかのように言う。


 「よお、戻ってきたか」


 「さ、サバンに、タツト・・・」


 別行動を取っていたサバンとタツトが戻ってきて、部屋に並んでいる遺体と、壁にはりつけられている影を見て、おおかたの状況を把握したようだ。


 臭いが気になるのか、サバンは手の甲を鼻にあてながら歩いてきたが、タツトは慣れているのか、そのまま来た。


 臭いは平気なのかと聞くと、息を止めてたと言っていた。


 「で、何か分かったか」


 サバンはニッと笑うと、何かの資料を鞄から取り出した。


 「結構被害が出てるね。まあ、制御するだけの能力がありながら、その機能を取りつけなかった人間のせいだけど」


 「影の暴走を止める手立てはあるのか」


 「そうだね。タツトと話してたんだけど、影を止める方法があるとすれば、それは2つ」


 1つは、実験内容にもある影に対する“意識”を排除すること。


 もう1つは、影を本体に戻すこと。


 どちらも、決して簡単なことではない。


 「意識を排除って・・・」


 「ショックを与えるんだよ。まあ、意識を与えるためにショックを与えたようにして、意識を奪うことにも使える。けどまあ、正直言ってすごく時間がかかるし、状況を見る限り、困難だろうね」


 冷静に話しているサバンは、ペラペラと資料を捲りながら話す。


 「じゃあ、もう1つの影を本体に戻す?それも時間かかりそうだけど」


 「だね。本体に影を戻せば、幾ら意識のある影とはいえ、本体の意識には敵わない。本来の影として戻るだろうけど、これも一体ずつ、しかもどの影が誰の影か分からない状態の今、時間がかかるね」


 にっこりと言うサバンは、本当にこの状況を分かっているのか疑いたくなる。


 口に加えていた煙草に、ここでようやく火をつけたレイラは、それを聞いているのか聞いていないのか、それとも聞き流しているのか、首を傾けていた。


 何度目かの煙を吐いたあと、タツトに言う。


 「タツト、何か方法ねぇのか」


 「ないね」


 きっぱりと言われ、レイラは短くなった煙草の火を消す為、両膝を曲げると、床にぐりぐりと押しやっていた。


 淡々と、タツトは話す。


 「さっきサバンが言った、意識を奪ってから影に戻すっていうのが、本来ならベストなんだけど、それを確実に遂行出来るか聞かれると、多分無理だろうね。人数的にも、効率的にも」


 「お前、この研究所にいて、もっと楽な方法とか知らねえのか?」


 ヤンキー座りのままだったレイラは、おっさん臭い声を出しながら立ち上がる。


 「知らない。俺がいた時は、そもそも影がここまで暴走するなんて考えられてなかったし、影に意識を与えること自体、無理だと思われてたから。あんな実験、本当にするとは思ってなかったよ」


 「要するに、ここまで予測出来ずに、実験を進めちまったってことか」


 「そうなるかも。それに、多分意識の実験が成功したら、知識や教養なんかも教えようとしてたって」


 「一体何がやりたかったんだかな」


 はあ、と盛大なため息を吐く。








 「はい」


 「はい、レイモンドジュニアくん」


 急に、レイモンドが挙手をすると、それをサバンが名指しする。


 「全然関係ないことだけど、ここって給料出るの?てか、あんまり働いてる人見かけないんだけど、みんな何で喰ってるの?」


 「なんだ、そんなこと。レイモンド、話してなかったの?」


 「聞かれなかったからな。それに、今教える必要なんてねぇだろ」


 新しい煙草に火をつけながら、レイラは答えた。


 「人間は、必要最低限なんだよ」


 「必要最低限?」


 「そう。だいたいはロボットが仕事してるんだよ。だから、人間はいらない」


 「いらないって、じゃあ、どうやって生活を?」


 「ベースとして、まあ、昔で言うところの生活保護みたいなものかな?意味合いも名称も違うんだけど、そういうのを貰ってるんだ。まあ、正直って贅沢しなければそれなりに生活は出来るからね」


 「ふーん・・・。え?でも、政治家とか警察いるって言って無かった?それも全部ロボット?」


 「それはね、ここの研究所なんかもそうなんだけど、贅沢したい人は、そうした職について、倍か、それ以上の給料をもらう事が出来るんだ。ほら、働いてる人とそうじゃない人と、もらってる金額が一緒じゃおかしいでしょ?」


 「まあ・・・」


 「とはいえ、政治家も警察も他の職にしても、本当に人間でないと出来ない仕事は良いとして、余計な人材が多いんだよ。だから、税金も結構とられるんだ。かと言って、将来安泰かと言われると、そういうことでもない。昔もこの時代も、生き辛いことに変わりはないってことだよ」


 「なるほどね。働くのが好きな人は、働けるし金ももらえるからそれで良し。働きたくない人は、最低限の金で生活をするってことか」


 「まあね。だけど、ロボットや機械に囲まれてる生活なんて、つまらないものだよ。確かに人間関係は面倒臭いし、ストレス発散の場を間違えてる奴等が多いから、その辺はロボットたちが代わりにやってくれるから良いとしても、やっぱりつまらない」


 何か言おうとしたレイモンドよりも先に、口を開いたのはタツトだった。


 「知能も知識も要領も、人間より上だとしても、それだけじゃ解決しないこともある。幾ら人間に近いものを作ったとしても、それは人間に近いだけで、完全な人間じゃ無い。人工知能を搭載されたロボットは、怒りもしないし嘆きもしない」


 「まあ、人間じゃないからね」


 「・・・・・・」


 そんなことを話しているうちに、レイラはまた新しい煙草を吸っていた。


 それをじーっと見ていると、急にレイラがレイモンドを見たものだから、目が合う形となってしまった。


 「なんだよ、気持ち悪ィ」


 「いや、なんで煙草吸う様になったんだろうと思って」


 「あ?ああ、これな。この旧型はあんまり吸ってる奴いねぇなぁ。洒落た煙草吸いやがって」


 「いや、答えになってないから」


 「今聞くことか?そのうち吸う様になるんだから、そん時分かんだからいいだろ。いちいち聞くんじゃねえよ」


 「俺絶対こうはならないと思う。何を間違えたらこうなるんだろう」


 「間違えちゃいねぇだろ。俺のやりてェようにしてたらこうなったんだよ。お前、自分の人生を間違えたって、相当だからな。俺の姿はお前の縮図だからな」


 「レイモンド、それは言い過ぎかな」


 またしても言い争いになってしまいそうになった為、サバンが止める。


 「あ」


 「どうしたタツト・・・」


 タツトが声を出したため、何かと思ったレイラたちは、タツトの目線の先を追いかけると、ドアから影が数体姿を現した。


 ぞろぞろと、10体以上が部屋に入ってくると、レイラを始め、サバンとタツトも、準備しておいた銃を構える。


 影は思っていたよりも個性的で、動きが速いものもいれば、遅いものもいた。


 次々に襲いかかる影たちに、レイラたちは冷静に銃を撃って行く。


 とはいえ、先程の説明同様、銃に入っているのは銃弾ではなく針のため、出来るだけ壁際に寄せてから撃っていた。


 影は形を変えられるため、ひらりと紙のようにかわされてしまうことも多々あるため、狙いは慎重に行う。


 動きを鈍らせるために、タツトが開発した水鉄砲のようなものを撃つと、影は油がなくなったブリキのおもちゃのような動きになるため、そこを撃つ。


 影に筋肉や骨があるわけではないのに、どうやって人間を殺しているのかと言うと、レイモンドの時代には到底理解出来ないと言われてしまった。


 理屈や道理、物理的なものではない、ということらしい。


 まさに、復讐のように、影は影の本能に従って動いている。


 影たちは次々に壁や床にはりつけにされていき、部屋中真っ黒になりそうなほど、影を捕えることが出来た。


 すると、タツトがリュックからごそごそと何か取り出し、それをレイラとサバンに手渡していた。


 何だろうと思って見ていると、それは影の意識を奪うための手段として作られたもので、強い電気ショックのようなものだと説明された。


 「あれ、こいつもうやったっけ?あれ?ま、いっか。もう一回やっておこうっと」


 一体どこまで電気ショックを与えたのか、それが分からなくなるほど沢山の影を前に、レイラは適当にやっていた。


 2回も刺激を与えて大丈夫なのかと、こそっとタツトに聞いてみたら、2回ショックを与えたからといって、意識がまた戻るなんてマンガみたいなことはないと言われてしまった。


 1人大人しく待っていたレイモンドは、トレイが見ていたモニターの方に近づく。


 色んなスイッチがあったため、適当にいじってみると、色んな場所で、それこそ世界中の人間と影の戦いがあった。


 こんなものを見ているなんて悪趣味だ。


 運の良い人は、自分の影を見つけて、本来あるべき姿に戻っていた。


 「あ、あれって」


 そこに映っている人間が手にしているのは、今レイラたちが持っている銃と同じものだった。


 「ああ、あれ。タツトが渡しておいたんだよ。数は多い方が早いからね」


 「それで・・・」


 幾つ作ったかは知らないが、多めに作っておいたその意識を奪うための銃は、近場の人に配っておいたらしい。


 こんなときの為にと、無償で。


 こういう商売すれば儲かるのに、と心の中では思ったレイモンドだが、止めておいた。


 すると、同じことを思っていたのか、レイラと目が合って、ニヤリと笑われた。


 すぐにまたモニターに視線を戻したとき、叫び声が聞こえた。


 それは自分の名前を呼ぶもので、レイモンドはなんだと怪訝そうな顔でそちらを見るが、針でやられたように見せかけた影が一体、レイモンドの方に走って来たのだ。


 はっきりとした黒い影は、まるで恨みの塊のように黒いモヤを纏いながら、レイモンド目掛けてくる。


 「ちっ」


 すぐに影に銃を向けたレイラだが、レイモンドと影と、一直線上にいるため、下手をすればレイモンドに当たってしまう。


 それでも銃の腕には自信があったし、何よりも、レイモンドを死なせるわけにはいかないと、怪我した方がマシだと、狙いを定める。


 同時にサバンとタツトも、影に銃口を向けるが、それよりも先に、別の銃声が聞こえた。


 いや、それは銃声と呼ぶにはあまりにも小さくて、弱弱しくて、なんというか、可愛らしい音だった。


 ぴゅっ・・・・・・。


 「おい、どういうことだ、これは」


 「そういや、忘れてた。あれ渡してたんだった」


 「ああ、タツトが渡したんだ。あれ何?」


 それは、出発前にタツトに渡された謎の銃だった。


 思いっきり玩具だと思っていた銃は、やはりほぼほぼ玩具の銃だったのだが、そこから出てきた液体は、影を溶かした。


 「影を消すアレか。脅かしやがって」


 ふう、と銃を下ろしたレイラは、額に手を当ててため息を吐いた。


 レイモンドが来てすぐの頃、レイモンドの影がとられないようにと、タツトが作った影を消す薬を影に落とした。


 その薬品を入れた銃を、レイモンドに渡していたのだ。


 これなら、狙いが正確じゃなくて少しズレていても、どこかに当たれば液体が飛び散る為、影に当たる確率が高くなる。


 「ちなみに、これ補充用。使う?」


 そう言って、リュックから無造作にとりだした補充用の薬品入りの替えを見て、レイモンドは一応貰っておくのだった。


 「その手があったな。てか、そっちの方が楽じゃね?なんで俺達の分も作っておかなかったんだよ、タツト」


 「えー、だって面倒だし。それに、影を消すと自分の影見つけにくくなるじゃん」


 「あ、そういえば。もしさっきのが誰かの影だったら・・・。先に謝っておく。ごめんな」


 「大丈夫だよ。別に永遠に消えるわけじゃないし。時間制限ありだから」


 「え、そうなのか」


 「けど1週間くらいはもつかな。レイモンドジュニアだった、数日経てば影は戻るよ。じゃないと、元の時代に戻ったとき、大変でしょ?吸血鬼だって思われちゃうよ」


 「そこ?」


 自由人の発想だな、と呆れながらも、タツトの銃によって救われたことに感謝する。


 「ま、時間稼ぎにはなるからね」


 研究所を出ようと歩いていたレイモンドたちだが、出てすぐ、研究所の周りには影たちが沢山いることに気付いた。


 まるでレイモンドたちを待ち伏せしているかのように、ウロウロと同じ場所を歩く。


 「あー、いっぱいいるねぇ。こりゃ参ったな。針足りるかな」


 「俺は逃げることに専念する」


 「さすがだジュニア。お前が死ぬ時は俺が死ぬ時だ。そうしてくれ」


 「お前が死んでも俺は死なないから、放っておいても良いってことだよな」


 「まじブン殴りてェ」


 「レイモンド抑えて抑えて。君の方が大人なんだからね」


 「あ」


 すると、何かひらめいたのか、レイモンドが手をぽん、と叩いた。


 だが、レイラには分かっていた。


 どうせ碌なことは考えていないということを。


 「俺、良いこと思い付いた」


 「わかった。一旦その思い付きを忘れろ」


 「なんでだよ。名案だよ名案」


 「俺だから分かるんだよ。どうせ名案じゃねえんだよ。自分で言うのもなんだけど、どうせ良いことでもねぇんだよ」


 「よし、そうとなれば、サバン」


 「どうしたの?」


 「タイムマシンって、家にある?」


 「あるけど、もしかして使う気?」


 「使う使う。ここから家まで、裏通って行くと遠いから、屋根の上でも走って行くか。操作って難しい?」


 「・・・さすがレイモンドジュニアだね。操作に関してはさほど難しくはないよ。説明書も一緒に入ってる。だけど、何する気?」


 サバンの問いかけに対し、レイモンドはただニマニマと笑っていた。


 ああ、やっぱりレイモンドだな、とサバンとタツトが思っている隣で、レイラはがっくりと肩を落としていた。


 「だけど、あれはまだ完成品じゃないから、数回しか乗れないよ。無茶すれば、元の時代に戻れないことだって有り得るからね。くれぐれも、丁寧に扱ってね」


 「勿論。じゃ、俺行ってくる」


 そう言うと、レイモンドは影を消す薬品の入った銃を片手に、ひょいっと近くの民家の屋根に上ると、そこからジャンプして次々屋根を通って行く。


 その姿を見て、サバンとタツトは思わずレイラを見る。


 「レイモンドって、悪いことしてたでしょ」


 「・・・聞くな」








 「よし、これだな」


 襲ってくる影は銃で溶かして、無事に家まで辿りついたレイモンドは、タイムマシンに乗っていた。


 サバンの言っていた通り、操作はそれほど難しいものではなかったのだが、何しろ初めてのため、時間が少しかかってしまった。


 「えっと、これを前に押して、こっちを3にして・・・これでいいのかな」


 もしも間違えたりすれば、2度とこの時代にも、元の時代にも戻れないかもしれない。


 だが、そんなことを思っているだけでは何も出来ないと、レイモンドは覚悟を決めてスタートを押す。


 物凄い音と共に、タイムマシンは宙に浮き始めた。


 「うわ、すげぇ」


 そういえば、エチケット袋を持ってきてなかったと後悔したが、車酔いも運転をするとしなくなると言うし大丈夫だろうと、勝手な判断を下した。


 レイモンドを見送ったレイラたちは、もちろんレイモンドの心配もしていたのだが、このまま別の時代に行ってしまうのでは、という心配もしていた。


 タイムマシンが壊れること自体は良いとして、と言ったらサバンは怒るかもしれないが、最悪、本当にこれっきりということも有り得なくもない。


 「レイモンド、行かせて良かったの?」


 「・・・仕方ねぇだろ。俺だぞ」


 「まあ、そうなんだけどさ」


 「何処まで行ったんだろう。平安時代とかまで行ったのかな」


 「なんでだよ」


 あれからかれこれ2時間近く経とうとしていたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 「まじか」


 「無事に戻ってきたみたい、だ、ね・・・」


 3人は、あっけにとられてしまった。


 影の軍団と対峙している人間たちは、みな、どこかで見覚えのある顔だったからだ。


 「連れてきた!!俺!!」


 きっと沢山の時空から自分を連れてきたのだろうが、その光景はもはや、レイモンド祭りだ。


 サバンとタツトは静かにレイラを見る。


 レイラは目元に手を被せながら、一言呟く。


 「・・・怖ぇ」


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