旦那の実家

御厨あると

第1話

職場で知り合ったAさんから聞いた話。

結婚を機に旦那さんの実家で暮らすことになったAさんなのですが、一週間を過ぎた頃から夜中に目を覚ますことが多くなったそうです。トイレを済ませて水を飲もうとキッチンへ向かうと、そこには見覚えのないお婆さんのような人影があるらしい。幸い恐怖を感じることはなかったそうです。というのも水差しからグラスへ水を注ぐ行動が人間そのものだったからと話してくれました。用事を済ませると人影はキッチンから消えてしまったそうです。


家族構成は旦那さんの両親と兄、そしてAさん夫婦の五人だけです。最初は目の錯覚『実際にAさんは視力が弱かったので見間違いが多かったらしい』を疑ったそうですが、あまりに頻繁に同じ容姿の人影を見かけたため、旦那さんにそれとなく相談してみたそうです。話を聞いた旦那さんは慌てて祖父母の仏壇から数枚の写真を取り出してきました。内容を確認したAさんは旦那さんの祖母であることを確信したそうです。


「夜中にキッチンで見かけたのはこの人で間違いない」


そう伝えたAさんに旦那さんは苦笑いを返したそうです。


「よく出るんだよ。でも害はなかっただろ? ほかの家族もしょっちゅう見かけるらしいから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃなくて怖いの!」


特に霊感体質でもなかったAさんは霊の存在を当たり前に受け容れている旦那さんの発言に絶句しました。なんとかしてくれないなら車の中で寝ると騒いだところで、ようやく旦那さんは重い腰を上げて仏壇に向かったそうです。


「Aが怖がるから夜中に出てくるのはやめてほしい。伝えたいことがあるなら俺の枕元にでも立ってくれ」


このあと旦那さんの祖母が現れることはなくなったそうですが、霊感体質に目覚めてしまったらしく、金縛りや怖い体験をする機会が増えてしまったそうです。旦那さんの一言でAさんの前には現れなくなったので、悪い類の霊ではないと考えられるのですが、その後もほかの家族の前には度々現れていたそうです。夜、トイレへ向かうとき家族の独り言がキッチンから聞こえてきたので間違いないとのことでした。


確かに自身は祖母の霊を見なくなったとはいえ、金縛りで目覚めるなど不安は募ったそうです。情緒不安定になったAさんは昔からの友人を頼り、いわゆる「見える人」を紹介してもらったらしい。とりあえず相談だけでもとラインで連絡を入れたところ、挨拶より先に「窓と襖を開けて!」と助言されたそうです。Aさんはアドバイスに従い窓と襖を全開にしてから会話に戻りました。助言通りにしたことを伝えると「頭が軽くなっていませんか?」と聞かれたそうです。そのときAさんは頭が軽くなったかどうかより友人にも伝えていない間取りを当然のように知っていた「見える人」の能力に驚かされたようでした。


詳しく話を聞いてみると当時「霊に当てられやすい体質」になっていたそうです。元に戻るかどうかは現時点でわからないということでした。旦那さんの祖母は新しい家族『Aさん』がどんな人物か知りたかっただけだろうとのことでしたが、霊の通り道になっている可能性もあるので旦那さんの両親に話を聞いたほうがいいとのことでした。すぐ実行に移したAさんに旦那さんの両親は隠すことなく事情を話してくれたそうです。


Aさん夫婦の使っていた部屋は祖父母が亡くなるまで使っていた部屋らしく、祖母は大切なものを押し入れに仕舞う癖があり、その通り道にAさんが布団を敷いて寝ているため、なにかしらの影響を受けたのかもしれないということが判明したそうです。霊の存在が当たり前のように受け容れられている家族の中に混ざるとなにかあるのかもしれませんね。


妊娠を機に実家へ戻ったAさんはその後に離婚されてしまったのですが、旦那さんの実家でなくても霊体験を繰り返しているそうです。友人に紹介された「見える人」とは息子さんが成人して結婚し、Aさん自身がお婆ちゃんとなった現在も親交があるそうです。

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旦那の実家 御厨あると @mac_0099

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