第2章「目覚めた場所は、君の隣で」1
俺のこれまでの人生の中で、ここまで真剣に取り組んだことがあっただろうか。
愛しい相手への想いこそ、この胸にはいつもあったことだが、いざそれを言葉にして彼女に伝えるということを、俺は……
いつまでも、逃げていた。
そして……俺は、違う女の婚約者となってしまった。
彼女の元になんて、行けるはずもなかった。だって俺は、何もしてなかったのだから。
『俺が貴女を守ります』
その自分の言葉に、自分の心の一番醜い部分が漏れ出ていたことにはっとする。本当に大切にしなければならない相手には言えなかった言葉。本当に大切だと自覚していたからこそ、口に出して言うことが出来なかった言葉。
失敗を極度に恐れる余り、彼女との先に進むための関係を築くことなく、思い入れもない婚約者には何の感情も湧かないまま告げられてしまった。
もう、絶対にこんなことは繰り返さない。愛しい彼女に指輪を渡したあの時を思い出す。
何故あの時、俺は指輪と共に言葉を伝えなかったのだろう。
その失態に気付かされたのは、皮肉にも元婚約者との生活の中でだった。
『相手と両想いになるには、自分の想いをちゃんと伝えないといけない』と、教えてくれたのは元婚約者だ。
彼女は俺からの恋愛感情がないことに薄々気が付きながら、なんとか自分達の関係を『理想の夫婦像』に落とし込もうと必死だった。
俺が成人するまでの二年間、愛を言葉にすることを告げられ、そして行動にも示すように告げられ、それに俺は、愚直なまでに努めたのだ。それが彼女からの要望で、そうしていくうちに俺自身の中でも、これまでの自分に足りなかったものが見えて来た。それはもう、はっきりと。
そしてそれを知った時、人生最大の後悔が俺を襲った。
どうせ自分のものにはならないだろう。どうせ自分には想いを言葉にする勇気なんて一生でない。それよりも、彼女とずっと村にいれば良い。そうすればそれなりに幸せな生活をおくれる。
そう逃げるように考えて、でも、そんな“平穏な生活”から逃げたくて……
逃げたかった。俺は、リグから。
いつか自分から離れていくであろうリグから、俺は中央へ逃げたのだ。そのいつかを見たくなくて。自分からは決して手を伸ばさずに、卑怯にも逃げたのだった。
だが、運命は俺を逃がしてくれなかった。
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