第22話 対決、シノザキ!
外が暗くなったころ、わたしと葛葉君は、そろってタクシーを降りた。
って言っても、今の葛葉君は、大人の男の人に化けている。こんな時間に子どもだけでタクシーに乗ったら、変に思われるかもしれないからね。
そうまでしてやってきたのは、コックリさんが指し示した場所。ここに、スズちゃんがいるかもしれない。
「ここで合ってるよね」
「ああ、まちがいない」
そこは、一見するとごくふつうの、二階建ての家。住宅地からは外れていて辺りには何もないけれど、とても妖怪の隠れ家なんて思えない。
けどわたしの家も似たようなものだから、案外そんなものかもしれない。
家の中には電気がついていて、どうやらシノザキはまだ逃げてはいないらしい。ってことは、やっぱりスズちゃんもこの中にいる。
すぐに飛び込んでいきたかったけど、もちろんそんな無茶はできない。
助けるには、作戦が必要。そのために、役に立つかもしれないもの、片っ端からリュックに入れて持ってきた。
「本当にそれでいいのか? 役割、交代してもいいんだぞ」
話し合って作戦を決めたところで、葛葉君が確認してくる。
実はこの作戦、わたしと葛葉君にそれぞれ別の役割があるんだけど、どっちの方が危険かっていうと、わたしだ。
けど、役割を変わってほしいとは思わなかった。
「さっきも言ったじゃない。わたし達の力を考えたら、こうするのが一番だって」
「それはそうだけど……」
わたしだって、当然危ない目になんてあいたくない。これからのことを思うと、早くも怖くなってくる。
けど迷ってる時間なんてない。こうしてる間にも、シノザキはスズちゃんを連れて、どこか他の所に行くかもしれない。そうなったら、もうどうしようもない。
そんなの、葛葉君も本当はわかってる。
「わかった。けど危ないって思ったら、すぐに逃げろよ」
「うん。葛葉君もしっかりね」
最後まで心配しながら、葛葉君はこの場を離れて、家の裏に回っていく。これからは、わたしと葛葉君は別行動だ。
それから少しだけ待って、もうそろそろいいだろうと思った頃、そっと目を閉じ、全身の力を頭に集中させる。全身に流れる、鬼の力を。
頭の上から二本のツノが生えてきて、顔の色が赤に変わっていく。これで、わたしの力は全開まで発揮される。
その力をいっぱいに使って、勢いよく足で地面を蹴る。家の二階にあるバルコニーまだジャンプする。普通の人間ならオリンピック選手だってできないようなことでも、鬼のわたしならできるんだ。
バルコニーに立ったところで、一度大きく深呼吸。
作戦は、これからが本番。そして、危なくなるのもここからだ。
けど、ためらってる暇なんてない。
持ってきたリュックの中から、一枚の布のシーツを取り出す。それを手に巻き付けると、そばにあるガラス戸を、思い切り殴りつけた。
ガシャーン!
大きく音を立てて、ガラス戸が割れる。けど、このまますぐに中に入ったりはしない。
これだけ派手な音をたてたんだから、当然シノザキにもそれは聞こえているはず。
それこそが狙いだった。
バルコニーからさらにジャンプし、屋根の上に登る。するとその直後、家の中から、誰かが慌てたように顔を出してきた。
引き締まった体に、目の細い男の人。シノザキだ。
そして今が、この作戦の最大の山場。わたしにとって一番のチャンスだった。
バルコニーに出てきたシノザキ。だけど屋根の上にいるわたしには、少しの間気づかない。その少しの間に、さっきまで手に巻いていたシーツを今度は大きく広げて、シノザキに覆い被さるように落とした。
「なっ────!?」
いきなり視界を奪われ、シノザキが声をあげる。
もちろんこんなの、シーツをとればすぐになんとかなる。けどそんなことさせやしない。シーツの上から、シノザキの体を力いっぱい押さえつける。
「くそっ、離せ!」
怒鳴りながらもがくシノザキ。だけど、わたしがそれを力づくで取り押さえる。
そして鬼であるわたしの腕力は、シノザキよりも上だった。
葛葉君でなく、わたしがその役割になった理由がこれだ。
シノザキが大人でも、たくさんの術を使えても、力技で戦えばなんとかなるかもしれない。わたし達はそれにかけていた。
もちろん、こうして押さえてるだけじゃ、わたしの方が先に疲れるかもしれない。だからその前に、しっかりやっつける!
一瞬だけシーツから手を離し、シノザキめがけて一気に振る。
「えぇーーーーい!」
鬼の力を全開に込めたパンチ。こんなのまもともくらったら、ひとたまりもないはず。だけどそれが命中する直前、シーツの中にいたはずのシノザキが、パッと消えた。
「えっ?」
わたしのパンチは何の手応えもなく、カラッポのシーツに当たるだけ。
シノザキはどこにいったの?
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