傍観女神の特異点(お気に入り)

鈴川 掌

観測世界《 》 狂った瞳は、その結末(たましい)までを否定する。

プロローグ この世界について、そして彼らについて

 これは私の日記の様なモノ、この観測がどのような物であったか、どのような時代であったか、どのようなヒトが居たか、そのヒト達がどう行動したかを記したものだ。


 けれどこの活動を初めて長くなる。なのにも関わらず最初に観測した訳でもない、この世界を最初の1ページにしたのは、理由は…、まずは私の説明をしよう、その方がいい…筈。




 私はこの世界における、神と呼んで差支え無いモノ、多次元、多世界を作りだし、そこで起こった事象を観測、報告する事が仕事の傍観者。この時空、世界は私の管理下だが他を探せば同僚も存在する、けれど別時空などは私達にしか認識できない存在のだから居ない者としてもさして問題は無い、だからこそ私のみがこの世界に君臨する神の様な存在だ。


 私の役目は、起こった事象の観測、そしてその事象から複数の世界パターンを作りだし、別々な可能性を辿った世界を観測する事のみを許された傍観者。




 私は、ヒトから見れば想像する神に近しい存在だ、世界の観測を始めるその瞬間までは、複数の権能を持つ全能たる存在だ、けれど私は世界を作りだす時、観測を開始するとき、即ち世界が始まる前にしか介入を許されない、故に見る事しか出来ない者、傍観者である訳だ。


 そしてもう一つ、例えばAという世界があったとする、私がAの世界の誕生から1000年目を観測したとして、そこまでにAという世界は1000年の歴史を歩んでいるが、これは確定した歴史ではない。いわば観測した時間に存在する誰かがそう思っているだけの歴史だ、その歴史を正しい歴史する為には、誰かが積み上げてきた1000年の歴史を私自身が観測しなければ、その世界の歴史は固定化されないという仕組みが存在する。




 今回このような事をするきっかけは、その仕組みが作用した結果起きた、二人の恋に起きた異常だ。故にそれを観測しきり、二人の恋が望まれる結末になるまで、焦点を個人にあて、つまりは私の特異点、お気に入りを観測し続けようと思ったからこそ、これを私は残す。




 善良なる人間には、善良なる魂が宿る。


 凶悪なる人間には、凶悪なる魂が宿る。


 これは絶対の掟、私の管理下に置かれる世界において、私が手をくださぬ限り、魂、いわばその人の根底が覆る事など万に一つもない。




 故に紹介しよう、起こるはずのことが起きてしまった、この世界を。


 病弱な少年が絶望の果てに起こした私が想像すらできなかった、起こす事のできない筈の異常と、完全無欠の少女が壊れる程に夢見た結末の始まりを。




 たかだか一つの恋を結末を、相手の傍で寄り添う事、そして自身が納得行く形にするべく、己の存在全てを改変してしまった、愚か者二人の最初の記録を。




 何もする事が出来ない故に追い込まれた少年と、その少年に心を惹かれた少女が作り出した、自分達が定められたどうしようもなく壊れた結末の代わりに、誰かの結末をより良くする事が副産物として現れた二人の人生を、これより先に残す。


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