山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空

1話完結 魔物は、貴族の甘い血が好物なので


「ここは“令嬢捨て山”ですね」


 山の中腹あたりでしょうか、周囲は木立に囲まれ、目の前には小柄な女神像がある、小さな広場です。


 私は、ギンチヨ、侯爵家の令嬢……元ですが。

 銀髪に青緑の瞳、この国の王子の婚約者……元ですが。



   ◇



「偽の聖女であるギンチヨとの婚約を、破棄する」

 王子から、そう言われた時は、目の前が真っ暗になりました。


「俺は、こちらの令嬢と婚約する」

 王子の横に立つのは、私の妹! やはり、浮気していたのですね。


 王子は、若い子が好きですから。妹も、数年経ったら、捨てられるのでしょうね。



   ◇



 ドレス姿のまま、王宮から馬車に乗せられて、無理やり降ろされたのが、ここ“令嬢捨て山”です。


「ジジ、貴女まで付いてくる必要はなかったのに」


 彼女は、私の侍女を務めるジジです。金髪碧眼の美人です。私の作った結界宝石を身に着けており、彼女の周囲は結界で護られています。


「いえ、ギンチヨ様から救って頂いたこの命、何があっても、付き従う覚悟はできておりました」


 彼女は孤児でした。でも、彼女が拾われたのは、この場所であること、すでに両親が判明していることは教えていません。



 王都には強力な結界があったため、近づけない魔物たちが、この山に集まっています。


 目の前の女神像は、存在してはいけない人々の魂を静めるため、教会が設置した魔道具です。


 家督争いの種になる赤子、不貞の子、婚約破棄された令嬢、その他の魂が、ここに捨てられてきました。



 周りの木立には、果物の木も多いです。お供え物の果物から芽吹いたのでしょう。


 捨てられるのは主に赤子です。私のような成人令嬢は珍しいです。


 空を見上げると、雲一つない青空が広がっています。雨の心配はないですが、日が傾いています。


 静かですね。風で木々がざわめく音だけが聞こえてきます。


 川の音は聞こえません。

「飲み水の確保が必要ですね」



 人骨は見当たりません。

 この女神像に組み込まれた人感センサーで、誰かが捨てられると教会で分かる仕組みになっています。


 すぐに教会が助けに来て、孤児院へ入れるシステムです。貴族の血を持つ赤子は、養子として引き取られる可能性が高く、多額の寄付金が見込めます。



 ここまでの道は、結界で守られた馬車でしか来ることが出来ません。曲がりくねった道ですが、なだらかな勾配であり、時間をかければ歩いて山を下れます。


 しかし、途中で日が暮れるでしょう。


 教会が助けにくるのを待ちますか。しかし、今頃、教会は大忙しだと思います。


「さて、困りましたね」




「ギンチヨ様、馬車の音がします、2台です」

 ジジが教えてくれました。


 1台は教会だとして、もう1台は不明です。


 ここには、隠れる場所がありませんので、護身用の小さいナイフを手にします。



 最初の馬車は教会の物でした。


 後ろから来た馬車は、貴族用です。私たちに危害を加える相手か警戒します。


「あ、ロイ様」


 ジジが警戒を解きました。貴族用馬車を操作していた従者と知り合いのようです。



 従者よりも先に、馬車から降りて来たのは、隣国から研修に来ているクロガネ君です。


 黒髪に黒色の瞳、爵位は伏せられていますが、イケメンなので許します。

 彼とは学園時代の同級生で、私の婚約が無ければ、恋人同士になっていたかもしれません。



 馬車を操作していた従者は、クロガネ君の従者のようで、金髪碧眼、こちらもイケメンです。

 ジジと、仲が良い、と言うか、恋人同士かな?


 それよりも、その従者が、私の作った結界宝石を身に着けています。

 お城を買えるくらいの高価な品なので、王族レベルでしか買えないはずです。



「王都に帰ろう、偽聖女の誤解が解けるまで、俺の屋敷で保護する」

 クロガネ君が優しい言葉をかけてくれました。



「王都は、もうダメです」

 私は、悲しい現実を伝えます。


「どういうことだ」

 クロガネ君は、気が付いていないようです。



「説明します。現在、王都には、魔物たちが襲いかかっています」

「魔物は、貴族の甘い血が好物なので、貴族が全滅するのは、時間の問題です」

 教会の方が説明してくれました。


「これまで、王都は、私の結界によって護られてきました。私は、スキル“結界”を持っていましたから」


「結界は、常に私の周囲に張られます。ですので、今は、この山に結界が張られ、王都の結界は消えたため、魔物たちが王都へ進行して行ったのでしょう」


 私は、自分のスキルを明かします。



「このギンチヨ様は、聖女としての力は少ないですが、スキル“結界”は世界一です」


「私たちは、ギンチヨ様に王都に戻って頂きたくて、急いでここへ来たのですが……間に合わなかったようです」


 女神像に話しかけていた教会の方が悲しそうです。教会側の反応が途絶えたようです。



「では、全員で俺たちの隣国へ行こう」

 クロガネ君が提案しました。


「一つ、お願いがあります」


「隣国から、この王国へ、すぐに攻め入って下さい。貴族の消えた国ですので、制圧は簡単です。魔物は、私が追い出します」


「どうでしょうか? ロイ第二王子様」

 私は、従者のフリをした、金髪碧眼の隣国の王子を見つめます。



「よく気が付いたな」

「攻め入って、ギンチヨ嬢は王妃にでもなるつもりか」


 ロイ第二王子の顔つきが変わりました。



「いいえ、王妃にふさわしいのは、このジジです」


「「は?」」


「ジジは、双子でしたので、この場所で存在を消されましたが、ご両親は、この国の王と王妃であり、ジジは、この国の王女です」


「「えぇ!」」


 驚いて、ロイ第二王子と、ジジ王女が見つめ合います。



「ギンチヨ嬢は、褒美は求めないのか」

 クロガネ君が訊いてきます。


「そうですね、一つだけお願いがあります」



「学園時代に貴方から聞いた“真実の愛”が欲しいです」

 驚く彼の瞳を見つめます。


「よろしくお願いしますね、クロガネ君」

 彼の顔は、夕日に染まって真っ赤です。



━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 よろしければ、★★★などを頂けると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません! 甘い秋空 @Amai-Akisora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ