第8話 獣人族のペペル

 少女はネコ獣人族だった。猫耳の付いた、人間の少女だ。服装はレザーアーマーである。白い革製のニーソには、ポケットが付いていて、草の入ったフラスコが収められていた。ホットパンツには、ナイフホルダーもある。薬草の専門家、【ハーバリスト】か。


 オレは少女を治療して、ナタリーナは少女を狙うオウルベアを撃退した。

 オウルベア程度なら、ナタリーナ一人で十分だったな。


「ぱぱぱぱーん、ジャキーン!」というファンファーレと効果音が、スマホから流れてくる。


『緊急ミッション 【オウルベア五体を討伐せよ】が、完了しました』


「ああ。これ、クエストだったのか」


 このスマホは、冒険者証にもなっている。なのでミッションがあると、成功や失敗の通知が来るのだ。


 ゲームをしているとき、急に受けてもいないミッション達成の通知が表示されることがあるが、こういう仕組みなのか。スマホと連動している使い魔が、報告をしているんだろうな。そりゃあ、不正なんてできないわけだ。


「傷を塞ぎたいが、毒にやられている。ナタリーナ、いいな?」


 オレは、ナタリーナに意見を伺う。

 ナタリーナは、黙ってうなずいた。

 戦闘の際に採取した毒消し草を、少女に食わせる。


「これで、大丈夫だ」


 後は治癒魔法で、ネコ属の少女の傷を塞ぐ。

 ようやく、ネコ少女の顔色が落ち着いた。


「ありがとうございます。ワタシはスラムに住んでる、ペペルっていいます。依頼を失敗させてすいません」


 なんのことだ?


 ペペルはどう見ても、ハーバリストだ。ソロでオウルベア五体なんて、荷が重すぎる。よほどレベルを上げるか、毒の矢などの搦め手が必要だ。


『【毒消し草探し】のミッションに、失敗しました』


 スマホから、依頼失敗の通知が来た。


「心配ない。オレはこの依頼を受諾していないからな」


 駅の周りで草むしりをすれば、また手に入るだろう。


「そうですか。みなさんは、どうしてここに?」


「キョウマだ。コイツはナタリーナ。お前さんはどうして、こんな森の中に?」


「実は、白金の爪を探していまして」


 ハーバリストのソロで、サーベルタイガー退治かよ。


「ただでさえ、オウルベア三体分の労力が必要だぜ」


「なのでレベルを上げていたら、オウルベアに接触してしまい。逃げたところで、毒を持つ植物モンスターにお腹を刺されました」


 魔物は倒したが、そこで力尽きた。


「そんなことまでして、どうしてサーベルタイガーを?」


「病気の弟のために、白金の爪が必要なんです」


「仲間を募ることはしなかったのか?」


「お金がなくて。誰も相手にしてくれませんでした」


 スラム出身なら、そうかもしれない。


「ナタリーナ」


「うん」



 街に戻ったオレたちは、まずペペルの用事を済ませることにした。

 スラムで、病気の弟とやらと対面する。

 白金の爪をすりつぶし、薬に変えた。 


「それ、レア素材ですよね?」


「構うもんか。ウチのボスがいいって言ってるんだ」


 オレは惜しげもなく、レアアイテムを使う。


「死ぬよりマシ」


 ナタリーナも、同様の考えのようだ。

 粉末状の薬を飲んで、ペペルの弟はすっかり治った。


「ありがとうございます。けど、病気のきょうだいは、まだあと二人いまして」


 隣のベッドには、まだ妹二人が臥せっている。


「大丈夫。心配なし。白金の爪は、あと五個ある」


 レアドロップどころかノーマルドロップ複数とか、パラゴンの恩恵様々だ。「こうなることを見越していたのか?」ってくらいである。


 すっかり病気も収まり、ペペルのきょうだいたちは回復した。


 まだ白金の爪はあるので、ミッション失敗にもならない。


 サーベルタイガーは、ボス扱いだ。しかしオレたちは、ボスの湧き潰しをしている。そのため、どこかのダンジョンで普通にザコとして出現する。


「ありがとうございます。あの、図々しい頼みごとなのですが、パーティを組んでいただけませんか?」


「ん? 今なんて」


「パーティですよ。あれ? お二人は、【フレンド申請】をしていないんですか?」



 あー、そういえば、そういったシステムがあったな!

 忘れていた。



【フレンド申請】とは、NPCを傭兵にする場合に使う。NPCをフレンドとして登録し、期間限定で雇うのだ。

 これがあれば、オンラインでも他プレイヤーと繋がれるらしい。

 やり方がわからなかったので、スルーしていた。どうせ遊ぶ相手もいないだろうからと。まして姫と接続できないならいいかと思い、記憶の彼方に消えていた。 

 舞台が本物の異世界だから、オンラインでつながるなんてできなかったんだよな。

 

「ハーバリストのワタシなら、戦闘以外でお役に立てるかなーと。お話していた草むしりなど、なんでもします。弟たちも【農民】スキル持ちなので、村に住まわせてもらえれば、勝手に畑を作ってくれますよ」


 ペペルの説明を聞いている間、ナタリーナがオレの袖を引っ張る。


「農民って、強いの? もし弱ければ、戦闘が起きたら守らないと」


「心配ない。【逃亡マスタリ】ってのがあってな」


 逃げる系のスキルにポイントを振ってやれば、人命第一の行動を取る。


「じゃ、お願い。でもやり方がわからない」


 ナタリーナとペペルが、スマホを重ね合う。仕組みはメッセアプリと同じだ。


「これで、ワタシたちはパーティです」


「じゃあ次は、キョウマと」


 オレとナタリーナが、スマホを合わせる。

 全員が、仲間になった。

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