第二章 領地開拓 新駅長はネコ獣人

第7話 領地認定

「どうするんだ、ナタリーナ? 駅なんて草ボーボーだぜ」


 拠点をゲットするのは、構わない。事実、これは拠点拡大ゲームだ。


 ハックアンドスラッシュ……つまり敵を倒して強いアイテムを集めて自分を強化する要素と、サンドボックス……領地開拓の、二つの要素を遊べる。


 が……いたるところが草原だ。町や村と呼べる代物ではない。


 素材は大量にある。石材や鉄も、周辺のダンジョンで手に入るだろう。めぼしいダンジョンは見つけていた。これなら、線路も建物も作れる。


 とはいえ、先に生い茂る草を刈る作業が必要だ。


「草むしりする」


 ナタリーナは、当然のように宣言する。


 一面草だらけなのに、二人だけでやるのか? 火炎魔法で、一気に焼き払うのが手っ取り早い。しかし、周辺の森などにも被害が及ぶ。


「知ってるか? 草むしりには、検定があったりするんだぜ?」


「聞いたことない」


「いや。あるんだ。薬草と雑草を見分けるとか、採集スキルには色々あるんだ」


 オレのいた国にあったマンガのネタだが、この世界にも実在した。【農民】のスキルで、毒の草や薬草、食用の草か雑草かを、見分けるという。


「考えても見ろ。どうしてこんなに草ボーボーの場所に、あんな凶悪なモンスターがいたか」


「サーベルタイガーは、草食だった」


「違うっての。この草を食いに来た獲物を、とらえるためだよ」


 これだけ大量に生えている草には、きっと実がなる植物が生えていたに違いない。それを狙った鳥やら草食動物やら魔物やらを、あのタイガーは主食にしていたのだ。


「だから先にやることは、ここを領地と認定させることだ。それでもって、ボスを湧かせないようにする」


 そうすれば、【農民】をこの地に住まわせることができる。


「まずは食料の確保だ。農民たちが住めるように、住居もいるな」


 オレは適当に、周辺に杖で線を引く。一定領域にモンスターを湧かせないようにする、【領地開拓】というスキルだ。


 領地開拓スキルは、プレイヤーの職業を問わない。プレイヤーは戦闘職業とは別に、【生産職】の職も身につけられる。ナタリーナは【鍛冶】ができ、装備品だけではなく線路などの鉄製品を扱えるのだ。オレも持っている。


 生産職は戦闘ではなく、なにかを作ることでレベルが上っていく。


「ナタリーナは、向こうから領地認定をしてくれ」


「勝手にやっていいの?」


「廃線だから、誰も苦情は言うまい。いくぞ」


 いざとなったら王妃……ナタリーナの母親から許可をいただくさ。ここは、ドワーフ王国が収めている土地の領域だしな。


「OK」


 渋々といった感じで、ナタリーナも剣で線を描き始めた。


 ここは元々、駅だ。人が住めるようにすれば、また都市機能を復活させられる。


「線路も領域内に含むんだぞ」


「わーってる。いちいちうっせーな、キョウマは」


 ブツブツと文句を言いながらも、ナタリーナは素直に線を引く。すべきことが、わかっているからだろう。


 手頃な広さまで、線を描いた。最初は、これくらいでいいだろう。


「よし、くっつけるぞ」


「うん」


 オレの杖と、ナタリーナの剣先が重なる。

 途端に、金色の光が枠の内側で柱のように立ち上がった。光は、一瞬で消える。


「それでも、この人数でやるしかない」


 早速しゃがんで、ナタリーナは草を集めようとした。


「いや。もっといい方法があるぜ」


 オレは、ギルドで冒険者を募集してみては、と提案する。


「いいかもしれない。でも、人を雇うお金なんてない」


「なら心配ない。逃亡生活の中で、一通り稼いでいるからな」


 しかも雇うのは、新人の冒険者でいい。戦闘するわけじゃないからな。


「街に戻ろう。レア素材から新しい武器を開発するぞ」


 オレは、サーベルタイガーから手に入れた牙を、ナタリーナに渡す。


「で、冒険者を募ろう」


 一人でもいい。仲間が必要だ。


「草むしりなんて、一人じゃムリだ。何年もかかるぞ」


 全部一人でやりたがるのは、いい開拓者とは言わない。手頃に人も使わないと。


「線路を、引きたいんだろ? そいつはとんでもない事業だぜ」


 たしかにナタリーナなら、線路を作ることは可能だろう。しかし、駅までを機能させられるだろうか? それこそ駅長が必要だ。


 魔物討伐をしつつ鉄道事業を復活させるってのは、大勢の協力がいる。


「目星はある?」


「ない。新米冒険者でヒマそうなやつを探す」


「頼りない。でも、人手が必要なのは事実」


 わかってもらえたようだ。




 一旦、街へ引き返すことに。


「街へ戻ったら、やることは多いぞ。職人探しに、冒険者集めだろ? さっき倒したボスからレア素材もゲットした」


 オレは、サーベルタイガーの牙をナタリーナに見せる。


「おお。【黒い牙】! 最強のレア素材」


 どうも、オレの【お手本パラゴン】レベルが上昇したらしい。そのため、レアアイテムの獲得率を三%上げた。さっそく、その恩恵を受けられるとは!


「だから、新しい武器も作れる。急ごう」


「ホント? 楽し……キョウマ!」


 さっきまでウキウキだったナタリーナが、森の方へと視線を向けた。


 オウルベアの集団が、木を取り囲んでいる。


「キョウマ、人が倒れてる!」


 ネコ属の少女が、大木にもたれて倒れていた。押さえている腹からは、出血している。


「助けよう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る