第9話 腐女神様と裏話──道具屋長男の場合
「生き残る方法はありましたよね?」
そしてわたしは女神様にまた責められている。
「責めるとは酷い言われようです。今後のために対策を一緒に考えましょうという思いで問い掛けているのです」
そうですか……
助かる方法……インベントリに入ってる水を出すとか?
「炎に関してはそうです」
というと、怪我についてもか。
あー……インベントリにポーション入ってるねー
「そうです。怪我も治せましたし、そもそも斬られる前にインベントリに入れればよかったのです」
前に森狼に喰われた時もそうだったんだよね、今思えば。
気付かなかったのは仕方ない、次から気を付けます。
「とはいえ、慣れてしまっても困りますけど……インベントリに取り込めない場合もありますので」
え? 何でも入れれちゃうチート空間じゃなかったの?
「魔法やスキルは未来に開発されたシステムを時間軸に関係なく利用できるようにしているものです。ですので、システムの正式なユーザーには干渉ができません。人や人の物を勝手に取り込むのは誘拐や窃盗になりますので、直接害を成す干渉やユーザーの財産を傷付けるもしくは奪うような干渉がシステムで制限されています」
めっちゃシステマチックな理由だね! ネットゲームでユーザー同士の問題を起こさないようにしてるみたいな感じ?
「その認識で合ってます。異世界の方でも正式ユーザーがそれなりにいます。魔法が使える
それ、わたしが人を誘拐しそうな誤解を生む言い方だよね?
「現世の方々は想定ユーザーに設定されているので、自分が所有するものや相手が許可をしている場合以外使えませんので、現世ではほとんど干渉は不可能と考えて下さい」
あ。スルーした。
現世では人に対してほぼ使う予定がないから良いけどね。
「はい。異世界の話に戻しますが、使えない場合があるとしても、手段として知っておいて備えておくことに意味はあります。知っていれば今回生き残れたかも知れませんのでね」
はい……気づくのが遅れたのは確かです。
「もしもの為のチェックシートは必要ですか?」
なんの再発防止なん? チェックしてる間に死ぬでしょ……
「早め早めの行動が大事ですよ。遠足のチェックシートも遠足に出発する直前に確認するものではないでしょう? それと同じで、生活の中でヒヤリを感じた時にチェックしていれば、重大インシデントの時に困らないのではないでしょうか?」
どこの工場勤務やねん……遠慮しておきます。
「冗談は良いとして、ところでセミョン君を何で助けたんですか?」
理由かぁ……うーん……つい、ですかね……彼は周りに認められない中でも頑張ってたし才能もあると思ったんで……ほら、あれです、情が移ったというやつです、女神様にもあるという情です。
「そうですね、わたしにも情がありますので大変よく理解できます。それにBLだったので良しとしましょう」
えっ!?
「え? 普通気付きますよね? セミョン君、かなりあなたに気がありましたよ?」
いや、全然、そんな雰囲気はなかったよ。
「呆れてものも言えませんね。いえ、文句をいっぱい言いますけど。あなた本当に現世の『彼』にしか興味ないですね。他の人の好意が可哀想過ぎます。いえ、でも、可愛い男の娘が全スルー、それもいい……ぐふふ……」
ヤバい! 腐女神様が妄想世界に入って気持ち悪くなってしまう!! 何とかせねばー
それで、セミョン君はその後どうなったん?
「ぐふ……ごほん。そのためにはまず、なぜ事件が起こってしまったかを解き明かしてからの方が話は早いです」
良かった、帰ってきた。
あの暗殺者風の人がなぜあそこに居たかってこと?
「そうです。あれは戦争相手である隣国の工作員だったのです。反戦争雰囲気を国内に造成して内乱を扇動するために暗躍していました」
でも、暗殺者がバレちゃダメでしょ? かと言って犯人不在の斬殺事件があっても、反戦争に向かわないのでは?
「もちろん、戦争関係者を犯人に仕立て上げるように、偽者を用意しているのですよ。その点、宿屋というのは色んな人が来るので工作しやすいですね」
つまり……あの事件の中で、客の中に軍籍なり戦争参加予定の冒険者が居て、その人達だけ生かしておいて犯人を
「当たりです。段々人間が分かってきましたね。ところが今回は犯人が殺されてしまい、現場は燃えてしまいました」
あれ? それじゃあ、結局犯人は分からず
「それが、セミョン君の斬った首がたまたまキッチンの方に転がってまして、彼はあなたの仇を見つけたので、犯人が何者なのかを命に変えても暴くことにしました」
重いよ……思いが重いよ……
「あなたを傷付けないと誓ったのに傷を負わせて、その上死なせてしまったのですから、彼はそれをしなければ自分が許せなかったのですよ。分かってあげてください、分かってあげてください!」
分かった! 分かりましたから! そんな涙流しながら血を吐きそうな顔で言わんでも……
「BLで一方通行の気持ちを本人の代わりに説明しないといけないなんて、これは調子良くボケた内容を、何がオモロいの?って聞かれて説明させられるぐらいの屈辱ですよ。くっ……殺せ……と言いたい」
既に言ってますって……くっ殺女神のあだ名も追加しましょうか?
「いりません。それで、運の良い事に、もう一件の宿に軍籍の方がいらっしゃいましてね、近くの宿が火事になったら流石に野次馬にもなるし、なんなら助けに入ろうと思って宿から出て来たところ、セミョン君を見付けたわけです。そして、彼の抱える首を見て、何があったかを悟りました。軍人さんは賢かったんですね」
煽ってるの? それ煽ってるの?
「いえ、純粋に褒めてるだけです。そして、軍人さんはセミョン君をスカウトしました。全ては戦争が悪いと言ってね」
確かにその人賢いね……悪い大人だけど。
「それにあなたがセミョン君にあげた剣は同国の公爵家の紋が入っていましたので、軍人さんはセミョン君が公爵家に
あれ? 最初の転生の公爵って同じ国の領だったの? そういえば、わたしが死んでから何日経ってるの? その話事実なの? 創作なの?
「ここでは時間なんて意味を成しません。全ての時間軸に繋がる場所なのですから、過去も今で未来も今です。好きな時に好きな時間を見ることが出来るんですよ」
……わたしが転生する意味とは……?
「転生しなければその時間軸が生まれないじゃないですか。とっても重要な役割ですよ。話を戻しますが、これは一つの時間軸で起こった歴史の話なのです」
分かったような分からないような……とりあえず、彼の歩みは事実として聞けるってことだね。
「さて、そんなセミョン君は、あなたが見込んだ通り才能がありました。その上で、あなたの恨みを晴らすという目的を持ったので止まりませんでした。オレはビッグになるぜって言ってるだけで、師もおらずにあれだけ上達したのですから、
ミュージシャンじゃないんだから……でも、彼は頑張ったんだ……なんか嬉しいな。助けた甲斐があったなって思える。
「そして、彼は戦争を終わらせる活躍をして、故郷へと帰り、あなたのお墓参りを行うのです」
セルゲイさんとヤナさんのお墓もね。
「いえ、
やっぱり妄想なんじゃないの?
「違います、純然たる事実です! こんな朴念仁が相手では、生きていたとしても彼はさぞかし苦労したでしょうね! いえ、その苦労してる姿も良かったかもしれませんね……うふふ……」
あー……はい……妄想の世界に旅立つ前にわたしを旅立たせて下さい。
「仕方ないですね。今までより長いとはいえ、まだ八年です。あなたは三十四歳の一度目の人生の自分に戻ることになります」
まだ三十四か……先は長そうだなぁ……
「そう言わずに頑張ってください。次も良い物語を期待していますよ」
待って! BL話を量産するために転生させられてる!? という言葉が届いたかどうか、わたしの意識は現世へと飛び立って行った。
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